▽悠さんと和花
大切な思い出の片隅に、悲しげに笑うあなたがいた。「悠、さん、わたし、」あなたがいたところに、来てしまったみたい。あんなに気をつけてと言われていたのに大事なところで間違えて、だから愚鈍だって笑われるの。たすけてと月に伸ばした手は、片腕に緩く繋がれた錠に阻まれて、無機質な音を立てた。

▽出七と赤坂さん
出水くんと偶然二人きりになったときに、つい聞いてしまったことがある。「ねえ、羽純ちゃんは可愛いでしょう?」突然の質問に驚いた様子で瞬き一つ、すぐに照れながらも頷く彼の年相応な姿は可愛らしい。「赤坂さんの話ばっかで妬くこともありますよ」「あら、まだまだですねえ」あなたも、わたしも。

▽迅春と赤坂さん
「ねえ、迅くん」「なあに、羽由ちゃん」これから告げられることを知っていて、仮面のように笑みを貼り付けるあなたの両手を握る。あなたがいつかのわたしに言ったのよ、しあわせになってと、願ったのよ。しあわせは怖いでしょうけれど。「諦めましょう、もう」春の陽だまりが、あなたを包んでくれる。

▽奏多ちゃんと赤坂さん
「桐絵ちゃん、奏多ちゃん」並んで歩く後ろ姿につい名を呼べば、声を揃えて振り向く二人の可愛らしいこと。幼い頃から彼女たちを知っている身とすれば、二人がどんなに強くても妹のように思えて。そんなわたしがこれからお茶をするのと笑う二人の、可愛い誘いに頷かないわけないでしょう。「喜んで、」

▽四季ちゃんとめえこ
足を引っ張っていると、笑われたことがある。どんなに罠を仕掛けても、細工をしても、見つかったら終わりだから。一人では接近するトリオン兵一体、隊員一人として倒すことが難しい。でも、それでいいの、分かってないわねって笑ってあげた。「ね、四季ちゃん*」あなたが分かってくれるから、いいの。

▽羽純ちゃんと赤坂さん
ふわりと揺れる銀糸、幼い背中を見つめる。「ねえ、羽純ちゃん」いつか、いつか。わたしの手を離れたあなたは、どこまでいってしまうのでしょう。「はーちゃん、大好きだよ!」くるりと振り向いたあなたの眩い笑顔。どこまでも飛んでいける羽があるのなら、飛んではいけないわたしを置いて、彼方まで。

▽荒律と水緒
そろそろ同性と話せるようになれよ、と鬼畜の一言。向き合うあの子は、荒船の大切なひと。大事な友達の、大切な女の子。ぎゅ、と握ったてのひらを勢いよく差し出す。「アッあああっの、お友達になってください!!」きょとんとした後、頷く女の子の明るい笑顔。やったね水緒ちゃん、お友達ができたよ!

▽夏々子さんとみどり
「ねえ、メーク落とせないオンナってどう?」テーブルに頬杖をついてそっぽを向くみどりの、強がる声色。SEからはらしくもなく困惑が感じ取れる。みどりはよく『せっかく綺麗なんだから』と褒めて、わたしを更に綺麗にしてくれるけれど。ふ、と堪らず口元が緩む。「ばかね、あんただって綺麗なのに」

▽ヴァルくんと赤坂さん
「ハヨリはどうしてそんな思考になっちゃったのカナ?」陽気に弧を描いた双眸が、加虐の色を滲ませて向けられる。曖昧に微笑んだ赤坂がその場を離れようと視線を逸らせば、その隙に距離を詰めたヴァルラムにまた視線を絡め取られる。「大丈夫、みんなハヨリのせいで死んだけど、誰も恨んでないヨ!」

▽辻露と碧山ちゃん
爛々と輝く二対の瞳が狼狽える辻を囲む。短いスカートから惜しげも無く晒される両脚、緩いニットから覗く指先が辻の腕へと触れる。目前には複雑なカタカナが並ぶ、ファッション誌が掲げられていた。「ねえねえ〜!」「これとこれなら、どっちが似合うかな〜?」犬飼先輩、笑ってないで助けてください。

▽悠さんと赤坂さん
みんなの役に立ちたくて、あなたの隣に並びたくて弧月を振るってきた。ずっと、ずっと。「いくわよ、羽由」凛と伸びた青い背が、雲一つない空へと映える。トリガーを起動させてあなたへと続く。幼い頃の、弧月だけ握っていたわたしはもういないけれど、わたしは少しでも、あなたの隣に並べていますか。

▽羽純ちゃんと赤坂さん
トリオン体に換装して、二人でブースへと入る。こうして向き合うのは、随分と久し振りな気がするけれど、事実そうなのだろう。ここ最近、わたしもはーちゃんも顔を合わせることがなかったから。すらりと孤月を抜いたはーちゃんが、かつり、と踵を鳴らして孤月を構える。「さあさ、お稽古の時間ですよ」

▽夏々子さんとみどり
「あたし、あたしさあ」水滴に濡れるグラスを掴み一口、二口と喉を通せば焼けたように喉が熱くなる。無造作にグラスを置き頬杖をついて項垂れる、酒気帯びた吐息を零すみどりの瞳は、とろんと潤んでいた。「どうしよう、夏々子、」醜く爛れた頬が、引き攣れる。また、好きな人ができたみたい。

▽影水緒
一緒にいるのに、顰め面を崩さないあいつに胸がぎゅうと重くなる。わたしは馬鹿だけど、馬鹿なりにあいつのSEを理解してるつもり。いったいどこのどいつの感情が刺さって、そんな顔をしているの。「ねえ!」腕を掴んで振り向かせる。「どこ見てるわけ、ばか!」今はわたしの感情があればいいでしょ。

▽赤坂さん
苦痛と絶叫、暗転。暗闇に差し込む光の奥、赤に濡れ動かない身体に視界が揺れる。美味しいご飯も、温かいてのひらも。たった小一時間の間に、全て失った。「ぜんぶ、」ごとんと音がして、視界が横向きになる。目許が締め付けられるように痛くて、呼吸がままならない。「ぜんぶ、ゆめだよ。ゆめ、」起きたらきっとお母さんが抱きしめてくれて、お父さんが頭を撫でてくれるの。訪れた浮遊感にそっと瞼を閉じる。おやすみなさい。

▽羽純ちゃんと赤坂さん
妹がいればこんな感じでしょうか、と。考えたことがある。血の繋がった家族はもういないけれど、兄弟だっていなかったけれど。妹がいれば、と。白銀の髪を梳くように指を通す。せめて夢の中では安らかであれと願わずにはいられなかった。「頼りないお姉さんで、ごめんなさいね」

▽冬みど
分かりやすく機嫌の悪いあのこに、口許が緩むことを止められない。俺の前で酷く無防備なあのこがいるなんて、誰も知らないだろう。一層笑みを深める俺に、怪訝そうな瞳が向けられる。「なによ」「なあんにもねえけど、笑ってたほうがべっぴんだよ」怒りとは別に赤くなった頬。ばか、と照れ隠しが痛い。

▽和花
何度も、何度も。帰りたいと願ったのに、いざ帰ってみれば何をすればいいのか分からないだなんて、とんだ笑い種。無数の星々と、月はひとつ。見慣れた夜空を見上げて瞼を閉じる。どこからどこまでが夢で、現実なのかしら。「ねえ、エネドラくん。あなたはどう思う?」わたしは今、どこにいるの。

▽夏々子さんとみどり
「あんたはホント、顔は綺麗なんだから」筆先にたっぷりと乗せた色を、形の良い爪先に滑らせる。褒められることに慣れていない夏々子がそっぽを向くのを感じながら、ゆっくりとあいつの色を塗っていく。「ねえ、派手じゃない?似合わないって、わたしには」「ばかねー、似合わないわけないじゃん」このあたしが、あんたのために選んだのよ。均等に塗られた爪先に、そっと息を吹きかける。片手の小指だけに緑を乗せたのは、ほんの少しの意趣返し。

▽影水緒
無神経なヤツだと思った。俺のSEは知っているくせに、やたらと感情で擽ってくるもんだから、何度か怒鳴ってやろうとした。怒鳴ろうとして、気づいた。こいつ、ただのアホだ。間抜け面を晒して笑う姿に、思わず脱力してしまう。本人よりも先に気づいてしまった感情は、どうしてやろうか。




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