休日の昼間、いつもより多い隊員の合間を縫って長い通路を歩く。最近話すようになった同い年のみんなが訓練室にいると連絡があったから、いっしょに訓練ができたら良いな、なんて淡い期待を胸に抱いてしばらく歩いていれば、前方に見知った後ろ姿を見つける。
いつも彼の周りだけ、少し空いているように見えるから不思議。きゅ、とスニーカーを鳴らして小走りで駆け寄る。顔はマスクに、手はポケットに。可能な限り肌の露出を避けている影浦の腕を軽く握ると、頭上で大きな溜息が聞こえた。
「お前なぁ……」
「む?」
「なにやってんだ」
「訓練室、いく。影浦も、ちがう?」
「違わねぇけどそういう意味じゃねーよ」
歩きながらマスクをずらして、口許が見えるようにしながらこちらを見る影浦に、こてりと首を傾げる。目的地は同じだと思っていたけれど、もしかしたら違うのかもしれない。でも折角みんながいるなら影浦もいてくれたら嬉しい。そう思って、じっと見上げながら歩く。
歩くたびに少しだけ揺れる黒髪は、いつもぴょこりと跳ねていて可愛い。マスクだって、話すときはずらしてくれるから、ワニみたいに鋭い歯が見えてわくわくする。荒船と見た、怪獣映画みたいで思わずふ、とちいさく笑みが溢れた。
「……オイ」
「う、なに?」
「こっち見んのやめろ、いろいろ刺さってんだよ」
「む、……ごめん、痛い?」
慌てて前を向く。影浦のサイドエフェクトは、影浦に向けられた感情が『刺さる』んだって知っているのに、いつもつい見てしまって怒られる。――好きって気持ちも、痛いのかな。そうだとしたら、すごく申し訳ない。
楽しみにしていた気持ちが萎んで、胸がじくりと痛む。自然と視線は床へと落ちて、それなのに影浦の腕を握る手は離せない。頭の中で『言い訳』がぐるぐると浮かんでは消える、うまく言葉が出てこないでいると影浦が舌を打った。
「……後でなら良い」
「あと?」
「言い方が悪かった。痛くねぇから反応に困る、ここではやめろって言えば分かるか?」
ちら、と見上げても表情は見えなかったけど、髪の隙間から見えた耳が赤くなっていて、身体がぽかぽかと温かくなる。これからも見ていて良いんだって、頷く代わりに腕を握る力を少しだけ強めると、なんとなく歩幅が小さくなった気がした。この距離が許されてるって、自惚れても良いのかな。
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