学校では同じクラスにいて、ボーダーにも所属している。大好きなまおりちゃんのお友達、くらいの認識だった。もちろん、オペレーターとしてデータ上の知識は持っているけれど、ほんとうにそれだけで。まおりちゃんから聞く生駒隊のお話のほうが濃いくらい。

学校でもたまに、まおりちゃんに用事がある時に「ちょっとええ?」なんて声をかけられることもあったけれど、それはまおりちゃんに対してだから、わたしが直接お話ししたことは少ないと思う。

ただ、一度だけ。学校の休憩時間にまおりちゃんと動物の形をしたチョコレートをシェアしているときに、たまたま近くにいたことがあって。

「あ、ねこやん、かわええなあ」って、おきくんが。チョコレートに向けられた笑顔だと分かっているけれど、優しく溢れたようなそれが暫く頭に残っていた。

本当に、それだけの関係だったのになあ。

「ようちゃあん……」
「なに?あお」

ようちゃんの部屋で抱えた柔らかいクッションに、顔を埋めたわたしの頭が容赦なくつつかれる。そこ、お腹が痛くなるツボだからやめてよお。膨れた頬をしてクッションから顔を上げて、じとりとようちゃんを見る。声は落ちついているのに、その目には心配の色が浮かんでいて過保護だなあと笑ってしまった。

ぽてりとクッションに頬を乗せて、なんとなく体を揺らす。なにから話せば良いのかなあ。うう、と小さく唸るわたしの口許にようちゃんがポッキーを運んでくる。美味しいけど、いまはだめだよう。ポッキーを運ぶ手をばしりと掴んで、ぽりぽりと齧りながら手の中でようちゃんの指を遊ぶ

「あのね〜?」
「うん」
「もうちょっと、薄かったんだぁ」
「……なにが?」
「手」

ようちゃんの手より少しだけ平たくて、角張った細長い指。手のひらは思ったより温かくて、人間みたいだと思ってびっくりしたの。最初から人間なのにね、不思議。

何日か前の放課後、学校にいる時にゲートが鳴ったときの音が聞こえて、怖かったの。近くにようちゃんも、まおりちゃんもいなくて、わたしはひとりぼっちで。また追いかけられたらどうしよう、早く逃げないとって。そう思うのに足が動かなくて、俯いていたときに差し出された手。顔を上げると気の抜けるような柔らかい笑顔が、わたしを見ていた。

学校だからいつものサンバイザーがなくて、顔がよく見える。それから、目を丸くするわたしの手をとって言ってくれたの。「急に鳴ってびっくりしたやんなあ。三輪隊が対応しとるから大丈夫やと思うけど、いっしょに本部に行こか」って、手を繋いで歩いてくれた。本部に着くまで繋いでくれていた手が、忘れられなくて困っている。

「ようちゃ〜〜ん……」
「うん、どうしたの」
「これって恋なのかな〜?」
「こ、こ……っ」
「忘れられなくて困ってるの〜!」
「ま、まって、あお。初耳なんだけど、なにがあったの。心の準備ができてない、しかも相手ってだれ?おれが知ってる相手?あ、まって、まだ聞きたくないかも……」
「なに言ってるの〜?」

片手で顔を隠して、ぶつぶっと呟いているようちゃんにきょとりとする。相談を聞いてほしかったのに、なんだか難しそう。あ、おきくんからねこちゃんの写真が届いてるから保存しないと。スマホをむにむにと弄ってから顔を上げると、ようちゃんはまだ頭を抱えていた。ポッキーでつついたら治るかなあ、変なようちゃん!





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甘いお菓子の時間