「……ん?ちょっと待っとくれ、そこのミコッテ族」
暁での活動も落ち着き、自由時間を与えられたココは幾分か賑やかさを取り戻したラザハンの街並みを歩いていた。
商業が盛んなリムサ・ロミンサでも滅多に見かけることがない、ラザハン地方ならではの織物が彩る出店がずらりと並んだ通りを歩いていれば、人混みのなかから硬い声が届いた。ココの種族でもある『ミコッテ』を呼んでいる。
お客様の笑顔は勿論だけれど、料理の腕を磨くことも第一としているレストラン『ビスマルク』にいたココにとって、硬い声──職人の声は、怖いものではなかった。
好奇心に揺れる尻尾をそのままに、声がしたほうを振り返る。ばちりと視線が合う。ラザハンの民族衣装を身に纏った、アウラ族の男がココを見ていた。
記憶を辿っても、知り合いではない。自らを指差して首を傾げるココに、そうだとばかりに大きく頷いて手招いた男。急ぎの用事はないからと、ぴこりと耳を動かしながら近付けば、鮮やかな巾着のような布袋がどんと卓上に置かれた。
「……なぁに?これ」
「お前さん宛に、少し前から預かっていた。この間のアレで出店も崩れたっていうのに、ひとつも破れてねえ。運が良かったな」
「預かってたって、誰に?」
「名前は知らん、興味もねえ。つんとした金髪の、耳の長い……なんだっか、ああ、ヴィエラ族か。そこの女からだ。小柄でピンクの髪をした、顔の良い男女に混じったミコッテ族の女に渡せと」
「い、言い方!!思い当たるひとはいるけど、なんで!?」
「もう暫くすればきっとお前さんがラザハンに来る、美味い飯を作る女なんだと言っていた。渡せば悪いようにはしないからと」
ううん、と首を傾げながら布袋のなかを覗き込む。そこには小分けにされた幾つかのスパイスと、ひんがしの国が誇る特産品の『おこめ』が詰まっていた。スパイシーな香りが鼻先を掠める。こういう時、冒険者の荷物は便利だ。見かけ以上に量がある。
「え、え!こんなにいいの……!?」
「良いも悪いも、それはお前さんのものだ。とっとと持って帰ってくれ」
ふんと量を鳴らす男を前に、ココはずしりと重たい巾着を抱き締める。その表情は喜びに満ちていた。
「ありがとう!わたしからも伝えるけど、あなたもレガリオさんを見かけたら伝えてね!」
ぶんぶんと手を振って、巾着を抱えたままココは走る。出店も街も、あれだけ崩れていたのに。それでも無事でいてくれた貴重な食材を、大事に運ぶ。
みんなの疲弊したこころの助けに少しでもなれそうなこと、この事態は予測していなかったとしても、レガリオさんがわたしを思ってラザハンの商人と繋いでくれたこと。最近は悪いことばかりが続いていたけれど、悪いことが続けばやっぱり良いことがあるんだ、とココは破顔した。
これだけあれば、ラザハンで定番の『ハンサカレー』がたくさん作れる。美味しいものを食べれば元気になるのだと、ココは昔から信じていた。
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