薄い唇の端にある小さな黒子に口付ける。きゅ、と眉を寄せた夏々子さんが可愛くて、自然と頬が緩んだ。顔を近づけた時に伏せられた睫毛が、想像していたよりも長いことに感動する。不満げな視線を受けてもなお、可愛いとしか思えないのだから夏々子さんはすごい。へら、と笑うと夏々子さんはふい、と目を背けた。
普段は自由に駆ける狼のように凛々しいのに、気を許した相手の前では狼になんてまったく見えない。きれいで、かっこよくて、かわいい。知れば知るほど、夏々子さんの魅力は増えていく。
それを感じるたび、素直に言葉にすると夏々子さんは困った様子を見せるから、最近は言葉にする前に一度だけ飲み込んでいる。けれど夏々子さんは、飲み込んだ言葉すら拾った様子を見せるから、やっぱり優しいひとだと思う。
好きだなあ、と思って抱き締めると煙草の代わりに嗜んでいるらしい、ガムや飴の甘い香りが少しだけした。かわいい。
「……ちょっと」
「はい!なんですか?」
「だから、あんた……」
白い頬を少しだけ赤くさせた夏々子さんが、前髪をぐしゃりと握る。長い睫毛に覆われた視線が、少しだけ彷徨ってからこちらへと向けられる。琥珀のようで、きれいだなあと思った。
夏々子さんはむ、と口許をへの字にさせている。みどりさんがよく練習台にしている、整った爪先が黒子を隠して、唇の縁に触れている。
「……こっちに、するのかと思った」
心臓がぎゅっと痛くなって、顔が茹でられたみたいに熱くなる。思わず「したい!です!」と声を上げると、夏々子さんはするりと腕の中から抜けて、「ばか」と零して去っていった。えっ、かわいい。
「かわいい……」
思わず呟くと、数メートル先にいる夏々子さんが躓いているのが見えた。何事もないように歩き出しているけれど、もしかして俺が可愛いと思うたびに伝わるのだろうか。そう思うと、追いかける足は自然と早くなった。
表紙 /
top
きんいろを中和するお砂糖