フリーの隊員を集めた混合隊での防衛任務を終えて、生身に戻ったみどりは隣を歩いている夏々子に声をかける。
「食べてから帰らん?」
「あり、なにがいい?」
「久々にラーメン行く?」
「いいね、餃子も食べたい」
「うわ、明日オフなんだ」
「分かる?」
「分かるわ」
シフトによっては一度も門が開かないこともあるけれど、今回は開いた上にモールモッドとはいえ数が多かった。トリオン体になっていても、戦い続けた疲労感がまったくないとは言えない。
本部を歩きながらみどりの脳内に浮かんだ天秤は帰宅後に準備するよりも、買って帰るよりも、お腹を満たしてから帰るほうに傾いた。夏々子がいる時点で圧勝だった。
空調が整っている本部から出ると、日が沈んでいても生温い空気に包まれる。すっかり夏になっていることを感じながら、歩くだけでも滲んでるくる汗に顔を顰める。
「あっつ」
「ラーメン食べたらもっと暑いよ」
「だから食べるんでしょ」
「言えてる」
「今度、諏訪とか呼んで鍋パしよ」
「夏だから?」
「夏だから」
ふ、と溢れるような笑気を拾ったみどりが隣を見る。日が落ちても分かる、目を細めて笑う夏々子の姿につられて口角を上げる。クールで無表情なイメージを持たれがちな夏々子が、思いの外よく笑うことをみどりは知っていた。
一度はぶつかったこともあるけれど、今では自他ともに認める親友と過ごす時間は、みどりにとってはなにも気を遣わなくても大丈夫な時間で。当然、相手を尊重することは忘れないけれど、自室にひとりでいる時間と変わらないくらいには気を抜いて過ごしていられる。
きっとそれは、少なからず夏々子も同じだとみどりは思っていて。一人暮らしをしているみどりの部屋に、ぽつぽつと置かれている夏々子の私物を思い出して小さく笑った。
ラーメン屋につくと、壁際に寄せてカウンター席に座る。壁際にみどり、その隣に夏々子が座り、水を運んできた店員にラーメンと餃子、唐揚げを頼む。
4年前の侵攻があっても変わらず営業を続けているこのラーメン屋は、みどりが高校生の頃から時々通っていたから、頼むメニューは大体決まっていた。冷えた水で喉を潤す。
「夏祭り行ったんだって?」
「ん゛っ、……まぁ、そう。みどりは?」
「冬島さんが夜勤だったから花火の写真だけ送ったら泣いてるスタンプきた、可愛くない?」
「可愛くはなくない?」
「なんでよ」
「あんたの趣味だから、それ」
少し前に三門市で開かれた夏祭りの話や近況報告をしていると、頼んでいたものが順番に運ばれてくる。餃子と唐揚げはシェアするからと、ふたりの間に置いた。
手首につけていたゴムで軽く髪をまとめたみどりは、長い前髪を耳にかけてから割り箸を手に取る。「いただきます」と手を合わせてから、ふたりで黙々とラーメンを啜った。じんわりと汗をかく。
肉厚の焼豚に、濃い煮卵。サクサクの衣がついた唐揚げもぜんぶ美味しい。唇についたタレを拭って、冷たい水を飲む。麺が伸びない程度に減らしたところで、みどりは「そういえば」と口を開いた。
「あたしも浴衣着たいんだよね、来月にある隣の夏祭りどう?」
「いいよ。可愛いやつ?」
「可愛いやつ。ネイルやらせて」
「髪はあたしがやりたい」
「おけ。髪留め、なんか買いに行こ」
返事の代わりに、夏々子の細い指が輪を作った。
時々会話をしながら食べ進め、スープまで飲んだところで箸を置く。店内に冷房が効いていても、鼻先や額にはしっかりと汗が浮かんでいた。ラーメンは美味しいけれどこれだからなぁと思いながら、満腹感に腹部を摩りながらスマホを操作する。
「はー……、お腹いっぱい」
「わかる。……今日行っていい?」
「言うと思った」
「みどりの家が近いから」
笑って肩を揺らしたみどりが、冬島とのトーク画面を見せる。数分前に『今日、夏々子が来るかも』と送った画面に、タイミングよく既読がついたかと思えば、ぽこんと飛んできたスタンプ。寂しそうなクマの背中に、夏々子は珍しく声をあげて笑った。
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夏々子さんとラーメン食べたい