この関係は、誰にも気づかれてはいけない。わかっていながら、こうしてレギュラスにチョコレートを作った私は、やはり愚かなのだろうか。と、ため息を一つ。
どうしてチョコレートかというと、グリフィンドール生の日本人に聞いたのだけれど、日本ではバレンタインデーに女の子が好きな男の子にチョコレートを渡すらしい。他にも友達に渡したりするらしいのだが、わたしはレギュラスにしか作らなかった。
そうして、渡すか渡すまいか迷ったすえ、わたしはレギュラスを必要の部屋へ呼び出した。わたしは必要の部屋に入れたけど、レギュラスは大丈夫だろうか。
―――カチャリ
背後で、ドアの開く音がした。慌てて振り向くと、そこには待ち人がいた。
「レギュラス、」
「こんばんは、レティシア先輩」
「こんばんは。急に呼び出してごめんね、忙しかったでしょう?」
「いえ、大丈夫ですよ。それに、多少忙しくても、僕はレティシア先輩との時間はとってみせますから」
「もう……ふふ、ありがとう」
優しく微笑むレギュラスに、少しだけ鼓動が早鳴る。逢うときはいつも二人っきりなのに、今日は変に緊張している。熱くなる頬を誤魔化すかのように、杖を一振りして椅子や机を出す。
「ね、座ろう?わたし、渡したいものがあるの」
「渡したいもの、ですか?」
自然と椅子を引いてわたしを座らせるレギュラスに、またときめく。今日のわたしは、本当におかしい。向かい側にレギュラスが腰かけたのを見て、手に持っていた紙袋をテーブルに置いた。紙袋を見たレギュラスは、わたしを見て首を傾げる。
「これは?」
「あのね、日本人の友達に聞いたんだけど、日本ではバレンタインデーに女の子がチョコレートを渡す日らしいの。……その、す、好きな人に」
「そうなんですか、え……僕に?」
「あ、当たり前でしょう!?あなた以外の人に作ってどうするの、」
早口で告げた言葉に、レギュラスは手で口元を覆って顔をそらした。艶やかな黒髪から覗く耳がほんのりと赤く染まっているのが見えて、胸が熱くなる。喜んでもらえたのだと思う。
レギュラスを呼ぶと、どこか嬉しそうな表情でわたしを見つめてくる。
「これ、貰ってくれる…?」
「はい、勿論です。あっ……でも、僕はなにも用意できてません」
申し訳なさそうに謝るレギュラスに、慌てて手を振る。もし堂々と逢うことができるのなら、レギュラスはきっとわたしに何かを贈ってくれたはずだ。そう思えるくらいには、レギュラスはわたしのことを大切に想ってくれていると、わかっている。
「いいの。わたしが勝手に用意しただけなんだから、気にしないで!」
「でも、」
「いいからいいから!」
尚も申し訳なさそうにしているレギュラスに、わたしは席を立って近づいた。それに合わせて立ち上がったレギュラスの胸元にそっと頬を寄せる。
「ね、レギュラス。わたし、あなたのことが大好きよ」
背中に回された腕に安心して、そっと目を閉じる。わたしを包むこの温もりは、わたしがこの世界で一番安心できる場所。まだあまり差のない身長で、レギュラスが少し屈んで、わたしの肩に額をつけているのがわかる。そうして次に紡がれるのは、
「僕も、貴女のことが好きです。……あいしてますよ、レティシア先輩」
わたしを幸せにする、愛の言葉。
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甘い囁きを所望します