委員会活動もない放課後。つばめは先日届けられた文を手の内で遊びながら、ひとりで食堂へと向かっていた。
文と呼ぶには些か簡潔すぎるそれに、受け取った当初は「果し状か!?」と胸が疼いたけれど、落ち着いて目を通せば残念ながら果し状ではないことが分かる。
果し状ではないけれど、楽しそうな気配は十分にあると、口許はにんまりと弧を描いた。同級生のなかでも大人しい部類に入る彼女が、一体全体どんな用事があるのだろうか。
指定場所は食堂、指定時刻は放課後から夕餉までの間。ちょうど良い時間だろうと、がらりと戸を開く。
「……うん!?」
「よく来たな、つばめ」
「呼び出しちゃってごめんね。来てくれてありがとう!」
食堂には何故か、真白い割烹着を纏う久々知と海がいた。「今日は調理実習でもあったかな?よく似合ってる」と笑って言えれば良かった。食堂に充満する食欲を唆る匂いに、腹の虫よりも先に学園で磨かれた危機感が警報を鳴らす。まっっっずい、捕まったら終わる。
そろりと一歩下がろうとしたつばめの一寸の隙を突いて、ふたりが片方ずつ手を取った。笑顔を貼り付けたまま『終わった……!』と心の内で叫んだことを知る由もなく、笑顔で手を引くふたりはつばめがずっと目を逸らしていた、大量の豆腐料理が並ぶ机へとつばめを誘導した。
「右の机にある料理は俺で、左の机にあるものは海が作ったんだ」
「ウン……」
「あの、あのね、つばめちゃんは久々知くんの豆腐料理もよく食べてるのかなぁ、と思って。だから私の豆腐料理も味見してほしいの」
「ど、どうして…カナ……?」
「久々知くんの豆腐料理が美味しいのは分かるけど、このままだと勘ちゃんのなかの美味しい豆腐料理が久々知くんが作ったものになるでしょう?それよりも美味しいって、思ってもらいたくて……だめ、かなぁ」
胸の前で両手の指をもじもじと動かして、眉を下げながら窺う海を前にしてつばめは「そっか〜〜〜!」としか言えなかった。そうだ、尾浜に恩を売っていると思うことにしよう。
席について、箸を掴む。ずらりと並ぶ冷奴に麻婆豆腐、湯豆腐に豆腐ハンバーグまである。君たちは限度ってものを知らないのかな!?と込み上げた言葉と一緒に、ひとまずハンバーグを飲み込んだ。くそ、無駄に美味い。美味いけれど、この量をひとりで平らげるには無理がある。
「うん。とりあえず、他の5年を呼ぼっか!あいつらも食べ慣れてるだろうからさ」
「そうだな、俺が呼んでくるよ。どうせならみんなで食べたほうが楽しそうだし」
「あ、あの、勘ちゃんはまた今度でも、いい?」
頷く久々知に安心したように笑う海を眺めながら、つばめもほっと息を吐く。頼むから巻き込まれてくれよ、と祈りながら箸を動かした。
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W豆腐地獄