委員会活動がない、放課後。
くのたま長屋にある自室で授業の復習をしていると、遠くのほうで潮江先輩の「曲者だ!」と警告する声が聞こえた。それに続くように食満先輩や、七松先輩の声も届く。声の様子からすると、いつものようにタソガレドキの方が来られたのかもしれない。

そう思いはするけれど反射的に懐へと手を伸ばしながら、静かに障子を開いて辺りの気配を探る。
別の部屋でも同じように、外を探るくのたまの姿が見られた。数秒探っても、特に異変は見られない。

「また来られたのかなぁ……」

潮江先輩の言葉以降、知らせもないから大丈夫かと警戒を解く。そんな私の不意をつくように、目の前に黒い塊が降ってきた。長髪を靡かせながらこちらを見る、黒い装束。――くのたま長屋に、曲者!?床を蹴って後方に飛び退きながら苦無を打つ。

急所を狙ったはずの2本は、軽い音を立てて廊下へと刺さる。長い腕が蛇のように首許に伸ばされる。速い。首を捻って避けたけれど、ちり、と爪先が掠めていく。片手を畳について体勢を整えながら、胴を目掛けて膝を入れる。甘い蹴りは見逃されるはずもなく、脇に挟まれて畳へと引き倒された。

「……っ、」
「まだまだ、甘いんじゃない?」

身動ぎ出来ないように押さえつけられて、ひんやりと冷たい感触が首に触れている。受け身は取ったけれど、背をぶつけたから少しだけ息が詰まった。意図して細く息を吐きながら曲者を見士げた私に、柔い笑い声が降り注ぐ。この声は、聞いたことがある。

「……吉名、彩先輩?」
「正解!」

顔の半分を隠していた黒い口布が下げられる。
昨年卒業したくのたまの先輩が、こちらを見下ろしていた。驚いて目を丸くしている私の腕をとって、難なく引き起こした先輩が苦無を隠しながら私の首を見る。

「傷がついてる、ごめんね」
「い、いえ!私の力不足なので、大丈夫です」
「そう?でもバレたら怖いのがいるから、保健室に行こうか。どうせ私の目的も、そこだから」
「目的、ですか?」

そう、と頷いた彩先輩が、つい先ほど潮江先輩の声がした方角を指差した。「うちの上司、探しに来たんだよね」って先輩。その上司、もしかして曲者って読みませんか?苦笑する私に、彩先輩はからりと笑った。



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舞い散る、戯れ