腕の中で泣いている海を宥めながら、鉢屋は馬鹿だなあと思う。あんな顔をするくらいなら、さっさと拐ってしまえばよかったのに。隠してしまえば、よかったのに。

俺らの中で唯一、誰も彼もが騙される精度を誇る変装の術をもって、天才だと讃えられたその腕で、大切なものをひとつ抱えて逃げればよかったのになあ。

けれど、それが出来ないところがあいつの、それから神喰さんの臆病で、優しくて、難儀なところだったのだとも思う。それでも、と考えてしまうのは鉢屋が俺の、神喰さんが海の友達だったからで。簡単に切り捨てることなんて、さすがにできなかった。

白い頬をほろほろと伝っていく涙を唇で掬って、ふ、と笑う。この腕は2本しかないから、抱えるものはひとつだけって決めてたのになあ。

「お節介、してもいい?」
「……っ、ふふ、うん」
「いいの?」
「私もね、そうしようと思ってたの」

泣いて、赤くなった目許が優しく弧を描く。たったひとりの、俺の宝物。抱き締めると甘くて柔い匂いがする、可愛い女の子。

忍術学園という庇護を失って踏み込んだ世界は厳しくて、少しの油断が危険を招く。それでも忍者になりたかったから、やめろと鳴り続ける警報を無視して飛び込んだ。ずっと隣にいたこの子を巻き込んで、危険に身を置いた。

「落ちついたら、3人で団子でも売る?」
「それも、楽しそうだね」
「鉢屋に女装してもらって、看板娘にしよう。海は美味しい団子を作って、俺は味見役ね」
「鉢屋くんが、怒っちゃうよ」
「それくらいでいいんだよ、きっと」

神喰さんを喪った鉢屋を見て、初めて後悔をした。俺の夢に合わせるんじゃなくて、俺が海に合わせれば良かったんだ。なあんだ、俺も馬鹿だ。




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正論で暴くひとのかたち