風が吹いて、桜が舞う。隣を歩く勘ちゃんの手を握って、大きな校門を潜った。今日は大川学園、高等部の入学式。

勘ちゃんがどうしてもここの学園が良いと言ったから、ふたりで受験をして無事に合格した。受験の日に会った先生はとても美しいひとで、一瞬だけくしゃりと顔を歪めていたことを覚えている。泣かないでください、と言いかけて首を捻ったことも。

受験をしたあの日から、毎日不思議な感覚がする。泣きたくなるほど切なくて、懐かしい気持ち。私と勘ちゃんには誰にも言えない秘密があるけれど、それに関係するのかな、となんとなく思っている。

「ね、勘ちゃん」
「んー?」
「結局、どうしてこの学園にしたの?」
「……これから、分かるよ。今までずっと独り占めして、ごめんね」

傷ひとつない、血に濡れてもいない優しい手が頭を撫でる。首を傾げる私に笑って、人の流れに沿うように道を進んでいく。繋いでいた手はいつの間にか解けて、勘ちゃんがそっと私の背を押した。

だれかが私の名前を、呼ぶ声がする。知らないはずなのに、知っている優しい声。私が置いてきてしまった、あの声。痛いくらいに手が握られる。顔を上げると、そこにいたのは。

「はちやくん、だ」

いまと同じくらい生きたあの頃の記憶が、洪水のように溢れてくる。思わず蹌踉めいた私の体を、勘ちゃんが支えてくれた。ねえ、絶対覚えてたでしょう、全部。文句の一つでも言いたいのに、出てきたのは全く違う言葉だった。

「今度こそ看板娘に、なってもらうんだから」
「なんの話だ??」

勘ちゃんが、からりと笑う。「あとで話すね」と返して、それから鉢屋くんの奥に優しい菖蒲色を見つけて、ぐっと息が詰まる。寂しげな、不安そうな瞳。

あの頃の記憶が戻ったいまなら分かる。久遠ちゃんは、きっと覚えていない。そうでしょう、と鉢屋くんを見上げると、肯定するように口角が上がっていた。

ねえ、久遠ちゃん。私ね、今度こそ貴方に向き合いたい。困っている時に力になれるような存在になりたい。だからもう一度、お友達になれるかな。不安に揺れる瞳に、そっと笑いかけた。



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ふたりの幕間はおわり