@rkrn/勘海
「俺の腕は、2本しかないからね」と笑った勘ちゃんが忘れられない。自惚れでもなく、広げられたその両腕に収まっているのは、私。とく、とくと聞こえる鼓動に耳を澄ませる。「ね、」「うん?」布地をぎゅうと握る。「…ごめんね」私なんて捨て置いて、は何度試しても言えなかった。意気地なし。

AWT/千羽さんとみどり
楽しそうに笑う千羽さんに唇を噛む。ああ、腹が立つ。攻める、攻める。余裕をもって受け流されて「それで?」とばかりに首を傾げられる。青筋が浮かぶ。「あんたみたいな戦闘狂ばっかと、思うなよッ」いくら吠えてみてもからりと笑われるばかり。傷が見えても構わないと髪を掻き上げた。絶対、負かす。

Brkrn/沙子ちゃんと
周りの音が聞こえないほどの集中。奪取した暗号に齧りついて伏せる姿に、もう、と眉尻を下げる。いつも無理ばっかりするんだから。けれど、それを守るのがわたしの役目。近づく気配に立ち上がり、天井から垂れる麻紐を握る。「せっかちな殿方は、嫌われるのよ」どの仕掛けで、絡めとろうかな。

CDC/ジンネム
「ラットでの試験は無事終わったわ」溝鼠を水疱塗れにした試験管を揺らす女に罪悪感の欠片もない。「ちょうどロシアで会議がある」そう、と頷いた女の目は揺れることなく、次の化学式へと向けられている。自身を守るために数万の命を売る女の歪む顔が見たいと顎を掴む。その唇には、毒が塗られていた。

Drkrn/こへ菊
苦手だな、と思った。いけいけどんどんと腕を上げて走り続ける姿を見て。誰にも悟られぬよう嘆息する。「菊乃?」心配そうに覗き込む椛に唇を噛んだ。「……ねえ、あたしって可愛いでしょ」「うん!可愛いよ、どうしたの?」迷うことなく頷く椛に安堵する。あの人を見るたび、何かが壊れる音がするの。

EWT/冬みど
ひらがなばかりの文面を見て、そっと息を吐く。薄く滲んだ視界に眉根を寄せながら『いいよ』と返して、スマホの画面を暗くした。冷蔵庫を覗いて材料を確認する。卵とネギがあるから大丈夫かな、と冷蔵庫を閉じる。何度行っても乗り物酔いをして帰るあの人は、帰るたびにあたしの雑炊が食べたいと言う。

FWT/夏々子さんと
SEがなくたって分かるほど、その瞳に乗せた感情は直向きで、よく受け止められるなって思う。「ねえ」「なに」肩を組んで抱き寄せる。「やるじゃん」「…なにが」「嵐山♡」一拍置いて、仰け反る夏々子の顔は赤い。はくり、音もなく動く唇。にまりと口角を上げて、肩を抱く手に力を込めた。恋バナしよ。

GDC/ジンネム
「テメェも少しは動けるようになれ」「運動しろって?そんなことをする暇があると思う?みんなが簡単に殺すから、死体の処理が大変なのよ。見てよ、炉がずっと稼働してるわ」「……それだけ煩わしい奴が多いんだろ」「知らないわよ。原因の一端なんだから、いざって時は担いで逃げてもらうわ」

Hrkrn/勘海
貼り付けた笑みの下で『煩わしいな』と思った。海が拐われて、漸く情報を得たかと思えば空振りで。あの子を心配していることは分かる。分かるけれど、雑音でしかないと冷えた鎖を握り締めた。「……あのさあ、」雑音がぴたりと止む。後にしてくれる?お前らは知らないだろうけど、怖がりなんだから。

IDC/ジンネム
背伸びをして別れのキス。バァイ、と手を振る私の前でドアが閉まる。発車のベルが鳴ると同時に目の前に立つ男が吐血した。口だけではなく瞼、鼻腔からも血を垂れ流す男に車内の悲鳴は伝播する。『効果は?』ジンからのメールに『問題ない』と返して背を向ける。そう、試験中のラットと変わらなかった。






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