「ごめん、ちょっと借りるね」
「わ……っ」
神喰サンと話していた海の手を引いて肩に担ぐ。本当に同じだけの臓器が入っているのか、不思議なくらい薄くて柔らかい腹を肩に乗せて、忍たまの長屋に足を進める。神喰サンは、諦めた顔で緩く手を振っていた。あとで鉢屋を派遣してやろうかな。
海は決して俺を傷つけない。今だって抵抗しようと思えばできるのに、肘や膝が俺にぶつからないように大人しく身を縮めて、ただ運ばれている。どこに運ばれているかもしらずに、攫っている俺の制服を握っている。長屋にいた同学年の奴らは、あからさまに目を逸らしていた。
すぱん、と自室の戸を開けて、すぐさま閉める。同室の兵助はいない。今日は帰ってくるなと、豆腐代を握らせて部屋を追い出したから、律儀な兵助は帰ってこないと思う。ふん、と鼻を鳴らして予め敷いていた布団に海を放る。くのたまらしい受け身が少しだけ恨めしい。
「か、勘ちゃん?」
「ねえ」
「……なぁに?」
運ばれて、ふたりきり。にも関わらず動揺した様子もなく、いつも通り見上げる海に脱力する。本当に色の授業は終えてるんですか、シナ先生。後頭部に手を添え、軽く持ち上げると髪を結うリボンを解く。柔らかな紅鳶の髪が布団に広がった。
「ぁ、の、」
「うん」
「……ここは、やだ」
流石に察したのか、首許まで真っ赤に染めた海が両手で顔を隠しながら小さく呟く。ぐず、と鼻を鳴らす音まで聞こえて、背筋が冷たくなった。
好いているから、大事にしたい。傷つけたいわけではないと、慌てて体を起こす。けれども、絡めとるように伸びた華奢な両手が、首の裏へと回った。抱き寄せられて、柔いものが触れる。涙で濡れたままの頬が耳元に触れて、軽く擦れる。滑らかな指先が、頸を撫でた。
「私ね、すき」
「うん」
「だいすきなの、」
「……うん、」
「勉強もして、私なりに、知ってると思う」
「そうだね、俺も知ってる」
抱きしめる腕の力が弱まって、少しだけ体を起こす。震える指先が頬に触れる。確かめるようになぞる感触がくすぐったくて、ふ、と息を吐いた。
柔らかく弧を描いた唇に、ちょんと触れる柔い感触。頬に添えられていた手は、すぐさま海の口元を隠した。きょろ、と視線が彷徨う。
「ぅ、」
「なあに」
「……私からしたの、内緒にしてほしい」
「どうして?」
「衝動的にしちゃった、から」
「それって、なにが悪いの」
「はしたない、でしょ?」
「どこが?」
口元を隠す手をとって、布団に縫い付ける。押し倒しているのは俺なのに、縋るように絡みつく指先が可愛い。なにかを言いかけている、小さな口に噛み付く。
柔らかい下唇を喰むように、柔く吸い付いた。握る手にきゅ、と力が籠る。整えられた短い爪が、甲を掻く。ちゅ、と音を立てて唇を離す。なにか言いたげな唇を、言葉ごと飲み込むように舌でなぞった。細い首が、ごくりと鳴る。甘い苺のような瞳が濡れる。
「でも、やっぱりここは、やだ」
はい、はい。そうだよね。頷いて体を起こすと、海は安心したように頬を綻ばせていた。
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満ちて欠ける一瞬