一緒にいるとき、勘ちゃんは私の髪や手によく触れる。まるで宝物のように優しく触れながら、この間はこんなことがあったの、と話す私に相槌をうってくれるから、私は嬉しくなっていつもたくさん話してしまう。

私ばかり話すものだから喉が渇いても、心を読んだみたいにお茶を淹れてくれて「それで?」と首を傾げながら、次のお話も聞いてくれる。胸が暖かくなるくらい優しい瞳に、しあわせに包まれるような心地になって、多分それが『あれ?』と思ったきっかけ。



難しい授業が続いたり、課題が溜まっていたりして『なんだか疲れたなぁ』と思うこともたまにある。そんなときは、こっそり勘ちゃんの背中を借りるの。いつの間にか広くなっていた背中に抱きついて、うりうりと額を押し付ける。

伝わる心音を聴いているうちに少しずつ気分も上向きになって、それを見計らったように勘ちゃんは私の手を引いて、正面から抱き締めてくれる。顔を上げると、いつも柔い笑顔が視界に広がる。

「元気でた?」
「いっぱい出たぁ……」
「んふふ、知ってる」
「ね、いつもどうして分かるの?」
「えー?海のことだからかなあ」

なぁに、それ。くすくすと笑う私に「本当なんだけどなあ」と眉を下げる勘ちゃんが、とん、と背中を撫でてくれる。ずっと、優しいひと。この腕のなかにずっといられたらいいのになぁ、と目を伏せて、それから『あれ?』と思った。



二度あることは、三度あるとも言うけれど。何度も『あれ?』と首を傾げることが増えて、さすがに私も気づいたの。――もしかして勘ちゃん、私のことがだいすきなのでは?

幼い頃からずっと、大切にされている自覚はあった。好きだとも言ってもらえて、触れてもらえることが嬉しくて。でも、私のほうが好きだと思ってたのに、それが思い違いかもしれない。

私が想像していたよりも、うんと想われているのかもしれない。立ち尽くし、口元を手で押さえる。そうでもしないと、なにかを口走ってしまいそうだったから。

「ひぇ……ぅ、か、かくにん、」

心臓がばくばくと鳴って、痛いまである。じわりと汗が滲む手指が震えていて、呼吸すらままならない。それでもなんとか、勘ちゃんを見つけ出して声をかけると、勘ちゃんは驚いた顔をして「どうしたの?」と手を引いて座らせてくれた。人払いまでして、委員会で使っている部屋に入れてくれて。やさしい。

まともに話せないでいる私に飲み水を渡してくれたり、ほかほかと火照る顔を扇いでくれたり、あまりに甲斐甲斐しいものだから胸がギュッとなって涙が溢れ出る。これってやっぱり、私の勘違いじゃないと思う。

「嫌なことでもあった?ぎゅってする?」

だって、こんなにも心配しながら、優しく触れてくれる。どうにか泣き止ませようと広げられた腕のなかに飛び込んで、ぐずりと鼻を鳴らす。しっかりと抱きとめてくれた勘ちゃんの制服が濡れていく。

おかしくなった涙腺のまま「勘ちゃんって、私のこと、だいすきなんだ……」と呟くと、頭上でからりと笑う声がする。「やっとわかったんだ?」なんて。聞いてないと叫びたくなったのに泣いてばかりで声が出なくて、それなのに勘ちゃんは上機嫌に笑うばかり。この日から、私の涙腺は緩みっぱなし。



1週間くらいはまともに勘ちゃんの顔が見れなくて、逃げ続ける生活。「ついに愛想が尽かされたのか」なんて勘ちゃんを揶揄う声もあるけれど、実際は反対で。

食堂でご飯を食べていると、後から来た勘ちゃんが正面に座る。私よりもたくさん食べる勘ちゃんに、少しだけおかずをお裾分けする。少しだけにしないと怒られちゃうから。

大きなひとくちで美味しそうに食べている勘ちゃんを見ていると、ぼろ、と涙が溢れた。毎日、毎日、貴方のためにご飯をつくりたい。私のつくったご飯で、お腹いっぱいでいてほしい。

急に泣き出した私に目を丸くした勘ちゃんは、口のなかのご飯を飲み込んでから「またあ?」と伸ばした手で涙を掬ってくれた。

その指がひんやりしていると錯覚するほど、真っ赤になった顔を両手で隠す。隣にいた久遠ちゃんが「これ以上は……」と勘ちゃんに、別の席へ移動するように促す。お医者さんみたいで、ふふ、と笑ってしまった。

ガタリと席を立つ音がして、それでも移動する前に優しく頭を撫でる手に、顔を覆ったまま天を仰いだ。「これって現実?夢だったりしない?あまりにもすき……」と呟く私に、後ろでぶふ、と笑う声がする。もっと遠くに移動してよ。



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優しい恋の育て方