図書室に射し込む光が柔らかな橙色になって、大きく鐘の音が響く。返却された書物の確認を行なっていた手を止めて、一緒に作業をしていた後輩たちに声をかける。
「お疲れさま。今日はもう終わりにして、片付けが終わったら食堂に行こうね」
小さく、けれども明るく返ってきた声に頬を緩ませて、片付けを始めた後輩たちの背中を眺める。
それから、隅っこにいたきり丸の小さな背中をそっと撫でた。いつも明るい後輩の表情が曇っていることには、少し前から気付いていた。
不思議そうに見上げてくるきり丸の顔色はどこか悪くて、表情も翳っているように感じる。それは日に日に悪化しているようにも思えて、どうしたらよいのかと胸が痛む。学園内でなにかが起こっていることは分かるけれど、伏せられた詳細は分からない。というよりも、無理に探ることはできないから、かける言葉が見つからない。
迷子のように揺れる瞳に、どうにか笑みを浮かべて小さな手を握る。私では安心させられないことは分かっているけれど、いま、一緒にいることはできる。変わりない日常を、偽ることはできるから、迷子の手を引いて歩いた。今日も、中在家先輩は不在だった。
◆
6年生の先輩方に続いて、5年生まで学園からいなくなった頃、私は食堂でたくさんのおにぎりを作っていた。具なし、梅干し、焼き鮭、昆布、いろんな具材を詰めて握っていく。きっと、お腹を空かせて帰ってくるだろうから。
本音を言えば、心配で仕方がない。大丈夫だって言じたいけれど、勘ちゃんが学園にいない時はいつも胸がざわついて、薄く開いた戸から冷たい隙間風が入ってくるような心許なさに襲われる。
それが私の心の弱さだって分かっていても、「ばかだなぁ」と笑う勘ちゃんに甘えて、入学してから5年が経っても強くなれずにいる。
「……私がもっと強かったら、今回も役に立てたのかなぁ」
ぎゅ、ときれいな三角形になったおにぎりを器に乗せて、ぽつりと呟く。置いていかれたくないと訴える、幼い私を胸の奥に押し込めて、零れた迷いを打ち消すように頭を振った。いつまで同じことを、悩み続けるのだろう。卒業まではまだ時間が残されているといっても、限られているのに。
きっともう少しすれば、明日になれば、勘ちゃんが帰ってくる。離れているからこんな風に悩んで、暗くなってしまうのだ。傍にいれば、迷うことなく光を見つめるだけなのに。小さく溜息を吐いて、汚れた手を濡らした手拭いで拭う。
おにぎりが盛られた器を食堂の机に運んで、そのまま椅子へ腰をかける。きっと疲れて帰ってくる貴方の、それからみんなの役に、少しでも立てますように。目を伏せれば、遠くからいくつかの足音が聞こえたような気がした。
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いつかの拙い物語