@WT/犬公
雨の日に調子を崩す犬飼を初めて家に連れ帰った時は、まるで漫画の不良が捨て犬を拾った時のような気持ちだった。「捨て犬だと思われてたの、おれ」「ずぶ濡れだった」「公ちゃんもね?」傘を忘れて、冷たくて、寂しくなって。雨のなかを歩いて帰る犬飼と一緒にいれば寒くないと思ったのが、はじまり。
AWT/犬公
雨に濡れる犬飼を連れ帰って何度目かの日。浴室に押し込もうとした手を握られて、縋るような蒼色に射抜かれる。「いっしょにはいろ」雨音に消されるほど小さな声、だけど至近にいるから聞き取れたSOS。一拍置いて「なんてね」と誤魔化すように笑う犬飼を抱き締める。「いいよ」わたしが暖めてあげる。
BWT/犬公
浴槽に座って、わたしに凭れる犬飼を抱き締める。重たいけど潰れるほどではないから、大丈夫。タオルも挟んでいない、素肌が触れ合っているのにそういう雰囲気はなくて、ただ体温を分け合った。「ごめんね、公ちゃん」「犬飼だから、特別」「はは、やった」埋まらない喪失感は、堪らなく苦しいから。
Chrak/荼毘
愛されることを望むあなたの瞳に、わたしが映ることはない。わたしを通して別のひとを見ていることを知っていた。「ねえ、荼毘」言葉なく、ただ視線を向けられる。「すきだよ」焼けてひきつれた目許が弧を描く。「ン、俺も好き」どろりと濁る双眸にはわたしが映っているのに、血を通して彼を見ている。
DWT/赤坂さんと太刀川さん
本部の屋上から飛び降りる。「よっし、俺は左な」「わたしは右ですね」基地へと向かってくるイルガーが2体。素早く弧月を抜いて、数ブロックに切り捨てた。すぐにグラスホッパーで飛んで背中へと爆風を浴びながら隣を見れば、いやにご機嫌な姿。「このまま模擬戦しようぜ」「いま、防衛中ですよ」
EWT/冬みど
今回の遠征にも選ばれたのだと言う冬島さんに、「そっか」と返す。遠征先のことは詳しく知らないけれど、命の危険があることくらい分かっていた。でなければ、遺書なんて書かないから。「酔い止め、新しいの買ってるから」「おー、さんきゅ」掃除をしている時に見つけた封筒の、中身を知らずにいたい。
FWT/冬みど
高いヒールを履いて凛と背を伸ばす。濃い目のアイメイクも、整えられたネイルもすべてが彼女の武装。「べつにあたしは良いんだけどさ、兄さん達が気にするから」長い前髪を耳にかけて、目許に残る傷跡をなぞる。傷ひとつで損なわれるものなんて、彼女にはないけれど。「ま、あんたも気にしないしね」
GWT/隠岐碧
警報が鳴って、大きく跳ねた肩。綿菓子みたいに柔らかい女の子の、さらに柔らかい部分を見てしまったような気がして落ちつかない。指先しか見えていなかい手を握れば冷え切っていた。「本部まで一緒に行こか、碧山さん」お人形さんみたいに大きな目がぱちりと瞬く。ありがと〜、と笑う彼女に安堵した。
HWT/隠岐碧
「隠岐くんは、やさしいね〜」包めるほど小さな柔らかい手を、なんとなく握ったまま本部へ向かう。「そうやろか、普通やと思うけど」「やさしいよ、助かっちゃったもん」「そらよかったわ、…大きい音が苦手なん?」「ちょっと、ちがうかなあ」困った顔で、繋いだ手に力が籠る。手は冷たいままだった。
IWT/和花ちゃんと寺島さん
検査を終えて微笑む彼女のことを知っていた。あの侵攻後、姿を見ることがなかったから行方不明になったか、三門から離れたのかと思っていたけれど。「…検査結果が出たら、また来てもらうから」まさか帰ってくるとは、思いもしなかった。少し痩せて、でも大人びた彼女の名前を今度は呼べるだろうか。
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11〜20