ひらり、ひらひら。
桜の花びらが風に遊ばれ舞い踊る四月某日。

いつもの公園、待ち合わせの十五分前。いつもならまだ夢の中にいる時間帯だけど今日は違う。寝起きはぼんやりしがちな頭がすっきりしていて、着替えの最中にスマホからあらかじめ設定してあったアラーム音が流れた。特別な日に目覚まし時計はいらないのだ。

「……あ、そーだ。メッセ送っとこ」

空いていたブランコに腰掛け、制服のポケットからスマホを取り出す。幼馴染み四人組で構成されたグループLINEに「着いたよー!」とメッセージを打ち込んだ後、うさぎが元気よく手を挙げるスタンプをボンボン押していく。

『スタンプうるさい』
『沙夜、今日も一番乗りだね』
『こういう日だけだよ。いつも遅刻魔だし』
『うへえ。耳が痛ひ……』
『あともう少しで着くから待っててね』

あっという間に既読2になり他の幼馴染みからのメッセージが表示されていく。それに反応を返しながら、増えない既読の数字をじっと見つめる。アイツ……絶対起きてないでしょ。

ジト目になりつつ個人LINEを開いて、朝一番に送ったメッセージにも既読がついていないことを確認する。うん、やっぱりアイツ起きてないわ。学校行く気あんのかね。

「(早く起きろバカ、と。送信)」

既読のつかないトーク画面に新たなメッセージを飛ばし、用の済んだスマホをポケットに滑り込ませる。さてと。待ってる間、何してよう。数秒考えてみたものの何も思い浮かばず、ブランコの鎖を持ったままずるずると後ろに上体を倒していけば、視界が段々と青に侵食されていく。やがて完全に見上げる形となった空には雲ひとつない快晴が広がっていた。

綺麗だなー、とぼんやり考えていると。

「ごめんね沙夜、お待たせ」
「何ボーッとしてるの」

青空をバックに見慣れた二つの顔がひょっこり現れる。片や笑顔、片や無表情。昔からちっとも変わらないなあと思いつつ、伸びきった腕に力を入れて体勢を立て直す。

「いい天気だなって見てただけ! おっはよー二人とも」
「ふふ、おはよう。晴れて良かったよね」
「ねー! 頑張っててるてる坊主作った甲斐があったってもんですよ!」
「高校生になってまで作らされるとは思わなかったけど」
「だってせっかくの入学式が雨なんて嫌じゃん? 人生で一度きりしかないんだよ?」

そう、今日は高校の入学式だ。
それなのに週間天気予報で雨予想が出ていた時にはそれはもう驚いた。慌ててグループLINEに「急募:てるてる坊主!!」とメッセージを打ち込み、幼馴染みたちを巻き込んで今日に至るまで暇されあればてるてる坊主を作った。

作って、作って、たまに幼馴染みたちが届けてくれて、また作っては吊るす。そんなサイクルを繰り返していく中で自室の窓がどんどん埋まっていき、お姉ちゃんの部屋の窓を借り、それでも有り余るてるてる坊主たちは家のありとあらゆる窓に白いカーテンを作っていった。

途中お母さんにティッシュの無駄使いだと怒られたり、愛犬コムギがおもちゃと勘違いして何匹かズタボロになったりしたけれど。それらを乗り越え迎えた今日、頭上の空はどこまでも青く澄んでいる。

「この快晴はあたしたちが作ったと言っても過言じゃないね。みんなお疲れ様!」
「俺もうてるてる坊主見たくないや。あれはもう一生分見た気がする」
「でも小さい頃に戻ったみたいで私は楽しかったなぁ」
「うおおん! あたしの味方は梓だけだよー!」

ぼやく陸を無視して、大袈裟に泣き真似をしながら梓に抱き着く。毎度のことなので梓も受け入れてくれて、ぽんぽんと背中を叩いてくれる。持つべきものは優しい幼馴染みだ。

「はい、そろそろ離れて。早めに集まった意味無くなるから」
「あ、今何時だろう?」
「七時十五分。ちなみにバスは二十分後」
「LINE来てる? てか既読ついてる?」
「ついてない」
「「……」」

分かってた。分かっていましたとも。
この為に早く集まったと言っても過言ではないのだから。

無言で頷き合い、あたしたちの足は一定の方向に進んでいく。バス停にはまだ向かわない。その前に寝坊助の幼馴染みを拾っていかねばならないからだ。

幕開け