ホテル周りの散策は、地方ロケでの楽しみの一つである。時には未成年アイドルたちの保護者として有名な観光地へ、時には同年代のアイドルたちとお酒やご飯な美味しいご飯を探しに、仕事を終えてからふらふらと出歩く。
「おっ。向こうの店、いい雰囲気だと思わない?」
「ああ、たしかに。ご飯美味しそうです」
「プロデューサーちゃんもそう思うよね。それじゃ、今日の夜にでも行かない? あ、おごりじゃなくていいからさ」
「いいです、けど」
「けど?」
私が口で言わず目で訴えても、山下さんは気付こうとしない。恐らく、気付いてはいるがあえて話題に出さない作戦なのだろう。
これは一体どういうことですか。そんな意味を込めて、山下さんを見つめたまま繋がれた手をぎゅっと握り返す。山下さんは一瞬だけ視線を泳がせてから「……まあ、そうだよね」と弱々しく零す。
「ダメ?」
「ダメっていうか、どうしてって思いました」
「ええ……、それ聞く?」
先ほどとは逆に、今度は山下さんが私に向かって怪訝な表情を向ける。歩みを止めてしばらく見つめ合う形になり、山下さんが根負けして顔を逸らす。
「うちのプロデューサーちゃんは負けず嫌いっていうか、気が強いっていうか……」
「強くないと、この仕事はやっていけませんからね。お陰で、可愛くないって言われますけど」
私もそう言われることに大して気にしていなかったので、自虐混じりの、なんでもない冗談のつもりだった。それなのに、山下さんは大きなため息を吐いて、今度は咎めるように「あのね」と話を切り出す。
「俺がなんでこうやって手を繋いでるか、プロデューサーちゃん分かってる? プロデューサーちゃんが可愛くて、ちょっとでも俺のこと意識して欲しくて繋いでるの」
「えっ」
「え、じゃないよ、ホントに。……こんなに近くで狙われてるのに、今みたいに油断したこと言っちゃうんだったら、もっと凄い事するからね」
「たとえば」
「例えば……? ええと、ホラ。……その」
もはや告白では、と思うほどの事を私に伝えてくれたのに、なんでそこで言葉につまってしまうのか。でも、そんな弱気な山下さんがちょっと頑張ってくれる瞬間に誰よりも惹かれてるのは、他でもない私だ。
がんばれ、と伝わるように山下さんの手を二回、合図を送るように握り直す。照れ臭そうな山下さんが「期待しちゃうよ」と握り返してくれる。
「期待してるのは私の方ですよ。だから、ね。はやく」
「……敵わないなあ」