Clap
越前君vs幸村様で拍手


そこで、漸く思い出した。

人の出会いは一/数億分の巡り合わせで天文学的確率という。運命とか必然とか、どちらにせよ俺に是非の選択肢など与えられていない時点で割と願い下げな確率である。反面、途方もない数字にロマンチックに夢見がちな部分もあって、そこら辺が擽ったくも矛盾している。

さて。

此処は休日、昼下がりの賑やかな某ファストフード店内だ。片手に持つMサイズの紙コップがぐしゃりと変形した拍子に、打ち砕かれた中の氷がガシャリと音を立てた。先程から一向に減らないジュースが溢れて無駄にならずに済んだから良かったとか、そんなことより、一度手元に視線を戻してみても、状況が好転するわけでもなければむしろ最悪の一途を辿る。

俺は、俺のものを取られるのが嫌いだ。

「あ、あの、リョーマくん、距離が近いよ…」
「なんで、いいでしょ。だめなの?」
「そ、その、恥ずかしいから…っ」

人通りを眺めるに最適なこの窓際席に、まさか三人がまた仲良く並んで座ることになるとは。(※詳しくはmainの(越前君vs幸村様)参照)
俺、幸村精市はというと、非常に苦しい作り笑いで越前君の飲みかけのシェイクを指差しながら、彼が付け入る隙を与えずにすかさず指摘する。

「ねぇ越前君、それ、シェイク早く飲まないと溶けるよ?あと終電乗り遅れてJRに死角突かれるよ?俺、この前も同じようなこと言ったよね?」
「幸村サン。終電っていうか、今昼間っス」
「チッ!!は?何か言ったかい…?俺の中では既に夜中なんだよ坊や……」
「幸村サンて人の五感奪うくせに自分の五感ズレてるんスね。へんなの」

…ガシャッ!

彼の一言に、またも紙コップの中の氷が悲鳴を上げる。俺が平和と穏便を愛する心優しい男(当社比)で良かったな越前君……マイペースにストローを咥える生意気な青学ルーキーをどうしてくれようと、俺は思考しながら持て余す片腕ですぐ隣の彼女の肩を抱き寄せていた。越前君は昔からの顔馴染みで彼女と仲が良いと聞いているから、認めたくはないが、気が抜けないのだ。しかし、お互いで牽制し合う俺達の間に挟まれている彼女にこのままでは申し訳ない。

そうして数秒、ただならぬ雰囲気で沈黙が続いた後だった。彼女がおずおずと、俺と越前君を交互に見ながら控えめに告げる。

「あ、あの…精市とリョーマ君は、学校のテニスで知り合った、お友達なんだよね」
『え?』
「あの、その…もしかして、仲良しじゃ、ないの…?」

……。

『いや、ものすごく仲良しだよ俺達』

それは愛するもののため、この世界のため、全力で空気を読んだ男達の声が見事にハモった奇跡の瞬間であった。やはり優先すべきは俺達のエゴよりも、彼女の笑顔なのだ。ただ、けっこう、最終的に手段は選ばないが。こうして彼女は摩擦の潤滑油となり、結局、三人で楽しい時間(語弊だ。どう足掻いても俺は彼女と二人きりが良かった)を過ごす事ができたという。最近あった、とある、後日談だ。


end.
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随分前に書いたもののネタです…全国決勝組のやり取りはかなり面白そう(笑)