咲き誇る二人の王子様、さぁ傅き、今こそ誓いの口付けを。舞い踊る幾千の花びらは見るものの視界を遮り、あらゆる全てを包み隠すでしょう。

「んっ…、…」

そうして、お姫様はいつしか花びらの海に溺れていってしまうの。

ギシリ、と三人の体重でベッドのスプリングが軋んだ。見えなくていいものまで見える微妙な暗がりの中で、精市と周助の二人にそっと肩を押されながら、どさりと純白に沈んでしまえば既に起き上がる気力も無い。薄着から生える四肢を適当にシーツの上に投げ出し、されるがままになる姿は球体人形さながら、色白い細腕を精市の人差し指がつぅ、となぞる感覚に目を細めた。彼は嬉しげに呟く。

「うん、今日も感度上々だね。さすが俺の未来の妻だ」
「くすくす、名前ちゃんを君のお嫁さんにする気はないけれど、…でも、感度上々には僕も同感かな?」

精市の言葉に周助が怪しげに微笑みながら、私の額にそっと口付けてネグリジェを脱がせていく。流れるような自然な動きに気恥ずかしささえ忘れていたが、下着なんて元から着けていなかったから控えめに発達した乳房がいとも簡単に外気に晒された。闇によく映える女体の曲線美は、悲しくも曰く付きだ。表面上傷一つないそれは水面下で汚れきっている。穢したのは二人、穢されたのは一人、この上ない極論の関係は理想通り過ぎてゾクゾクすると、思えば思うほどに後ろめたくなる。

だって、普通に考えて一つに二つは、欲張り過ぎるだろう?

精市は胸の膨らみの感触を確かめるように、やんわりと掌で揉みしだきながらうっとりと言った。

「名前、今日もとても綺麗だよ。やっぱり君は俺に独占されるべきだ。特にこういった場ではね…」
「幸村、独占欲の強い男って、嫌われるって知ってる?僕は君とでもいいよ。可愛いお姫様が望むのであれば」
「そう言って後から俺を出し抜くつもりなの、バレバレだから君ってどこまでも信用ならないんだよ」

頭上でバチバチと火花を散らす二人を脱力して暫く見上げていたけれど、ふと周助が沈黙の後に悪怯れない笑顔で精市に問い掛けた。

「…くす、まさか幸村は、僕に出し抜かれるのが怖いの?」
「は?そんなわけないだろ」
「なら、逃げないでよ。それにさっきから、彼女を待たせてるよ。ねぇ、僕…そろそろ始めちゃうけど」

いいよね、と言い終わるか終わらないかのタイミングで、周助がぐっと私の唇に口付けてきた。急接近した彼の双眼に開けた視界が一瞬にして阻まれると同時に、飾り気のない柔らかな桃色を愉しげに啄ばまれる。唇の弾力でも確かめるように彼のそれを強弱つけて押し当てたり、時に燻るように舌先で舐め上げたり、彼は彼のペースで戯れるのが本当に上手だ。

相手の警戒心を紐解く天性の才能を前に私は、触れられる心地良さに思考が霞み掛かり、重みに耐え切れない瞼をぴくぴくと震わせる。角度を変えて交われば、周助の髪が顔に掛かり、少しの擽ったさを覚えながらゆったりと瞬きを繰り返した。けれどそんな小鳥のような挨拶も束の間、次第に息吐く間もない性急なディープキスへと変わっていく。

「ん…ッむ、ん、はぁっ…」
「はぁ…名前ちゃん、くす…いいねその顔、可愛い。…そそられたら、ごめんね」

悪戯めいて笑ってみせる彼の目は、数少ないお気に入りに異常なまでに執着する狂気さえ感じさせる。あぁ、重なる唇がとても熱い。生き物みたいに中に巧みに忍び込む彼の舌が咥内をみるみる蹂躙していく。呼吸のタイミングを完全に見失いながら、一抹のイケナイ願望が独り馳せてしまう……もし、彼が恋人になったら、毎日こんな上手なキスをして貰えるのだろうか。お互い、唾液に塗れた唇擦り合わせながらうっとりと近距離で見つめ合うけれど、急に無防備な胸の先端をきつくつねられて現実に引き戻された。

電流が走ったような感覚に、大きく背を仰け反らせる。

「…ひあぁあっ!!はぅ…!」
「……ねぇ、ちょっと幸村、僕たちの邪魔しないでくれる?」

口付けが中断された矢先、珍しく、心底迷惑そうに顔に出した周助が睨み付けた先は、同じく心底迷惑そうな顔した精市だった。精市は周助を見て吐き捨てるように嗤った後、至極当然の面持ちで言葉を返す。

「ハッ、それは俺の台詞だよ。俺のお姫様に何してくれてるのかな?青学のナンバーツーさん」
「くす、…別に?何も?テニスコートの貴公子さん」
「ほら今の聞いたかい名前、すごい悪どいよ。こんな奴のどこがいいんだか…というか」

ギリ…

「お前が恋していいのは俺だけだろ?そんな自覚も持てないのかい?」
「ひ、ひああ"ぁあ……!!精市っ痛、痛ぁあ……ッ!ごめ…ぁあん!」

ワントーン声を低くした精市が戒めに、爪を立てて乳首を摘み上げる。敏感な部分の悶えるような痛みに歯を食いしばり、堪らず悲痛な声を上げるけれど、彼は簡単には許してくれない。親指と人差し指の間に挟んだ赤い突起をぐりぐりとこねくり回し、引っ張ったり押し潰したり弄り回す。身を捩って逃げようとしても片腕をベッドに押さえ付けられて自由が効かず、力の入らない脚でベッドシーツを空蹴りし悶絶した。一番怖いのは、不意に此方をじっと見下ろす周助と目が合ったのだけれど、彼が私を見ながら薄笑っていたことだろうか。

「あっ!あ…あん、ん、うぅ…っ」
「ふふ、もう気持ちよくなってきた?名前は俺に開発されるの好きだからね。…この俺に、ね」

精市の言う通り、次第に突き刺す痛みが、痺れる快感に変わり出す。意図せず零れ出る甘い吐息に自分でも驚きながら、浅く早い呼吸を繰り返した。


end.