ただ、横たわっていた。俺は、無気力に横たわっていた。透き通るようなクリスタルブルーの水面上、波紋を作りながら、何を見つめるでもなく遠くを見つめていた。あぁ、どうして、虚ろに開いた蒼色の瞳は死んでいそうで死んではいない。ただ水面の向こうに見えるかもしれない景色に想いを馳せて、見えない一点を見つめて、一人横たわっていた。此処は音もなく静かだ。水滴が一粒、弾かれる音すら聞こえないし、この世界にはきっと俺しかいない。俺に害なすものもなければ、どんな刺激を与えるものもない。此処は護られているようで、無防備過ぎるから、どうか君の足音を立てないで、小々波を立てないで。

純粋に追い求めるのに疲れてしまった。 一途な想いに付き纏うのは、いつだって悪というか、汚れているものだ。どんどん重くなって、枷のようなそれに心も身体が怠くなって、こんな風に動けなくなってしまう。否、動かなくなってしまう。ただ、目指したかったものとか、理想とか、そういうのが好きだった。だから最後まで辿り着きたかった。けれど、もう無理な話だ。

時間の概念さえない。このまま横たわっていたら、この先でなにか起こり得るのだろうか。嬉しいことだったり、驚くことだったり、一定線の心震わせる、俺に語りかけてくる何かが舞い降りてくるのだろうか。…こんな何もない世界で、生まれるのは現実味のないことばかりだった。目に映るのは崇高な理想で、心に抱くのは屈強な自我で、どうにも足並み揃えがちなリアルは俺にはとても生きづらい。

けれど、こちら側の世界はいつだって美しい。

すぅ、と息をする。そうだな、誰か、迎えに来てくれる時は。どうか大きな音を立てずに、草香る水辺で微笑んで。

少し微睡んで、それから、ゆっくりと瞳を閉じた。


end.
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(幸村様の儚いイメージを一息で。
なんとなくです……)