※blogリクです
※ホスト村様で一本


ここに綴る、下衆い話。

「笑わせないでくれるかい。俺はね、ボランティアで生きてるわけじゃないんだよ」

残念ながら、人は皆、いつだって利己主義で、自分が一番大事で一番可愛く、自分が中心で生きている。

「人は利がなければ動かない…ねぇ、これ、当然だろ?そこ、お前はどう思ってるの」

だから色々なものが渦めくこの世界は結局、考えようによっては、あなたが一番大事にされ一番可愛がられ、あなたが中心で、あなたのためにあるようなものだ。

所詮、『誰かのために』なんて一見美しい決まり文句は、『誰かのためにと思える自分が理想』なわけで、無意識下だとしても、やっぱり誰のためでもなく自分のためだったりする…こんなこと、聞いているだけで嫌になってくるだろう。けれど、そんな自己満人間たちの『利』の連鎖が織り成す怪奇的な社会で、君はこれから一体どうやって生き抜いていくんだ?

俺の答えはただ一つ。目には目を、利には利を。これを徹底して、必ずヒエラルキーの頂点に立つ。

「…愛は取引だって知ってた?お前、もう店来なくていいから。じゃあね、ブサイク」

俺は、俺の利のために動ける覚悟を持っている。

淡々と話しながら、軽く手に持つロックグラスを女の頭上で傾ける。カラン、とアイスが中で涼しげな音を立て、そのまま下方へ流れ出るブランデーの流動が、店内の照明に反射して黄金に煌めいた瞬間だった。まるでスローモーションのように質量を持つそれはゆっくり、ゆっくりと下まで落ちて、最後に女の髪を遠慮なく濡らしながら四方八方に弾ける。バシャア!と降りかかる冷たいブランデーに、女はというとものの数秒呆気に取られた後、俺に殴りかかるでもなく騒ぎ立てるでもなく、ただワッと泣きながら駆け足で店を出ていったから、今回は割と潔かったと思う。醜態の女の後ろ姿を鼻で嗤いながら濡れたソファの片付けを内勤に指示した。それからフラフラと別のソファに腰掛けた途端、背凭れに思い切り体重を預け派手めに飾られた天井を勢いのまま仰ぐ。

はぁ。

息が詰まりそうだった。店はもう閉店していて、中にいるのは顔を引き攣らせるキャスト達くらいだ。

そう、此処は泣く子も黙る通称『ホスト立海』(正式名称は秘密)。実力派精鋭揃いの、業界屈指のカリスマホストクラブである。

「…はーーっ、あー、ほんっっとめんどくさ…俺、あぁいう客無理…お帰り頂いて正解だなこれは」
「ゆ、幸村センパイ…?見てましたけど、さっきの、やり過ぎじゃ」
「ハァ?赤也、お前俺のやり方に文句あるのかい…なら、今月の俺とお前の楽しい指名本数当てごっこでもしよっか」
「なっなななないっす!!ヤダナァ幸村センパイ!?なにその現実味しか感じさせない遊び、こわっ!」

ソファ越しにひょいっと俺の顔面を覗き込んできた赤也と視線が合う。見上げながら含み笑いで返すと、彼は大慌てで顔を引っ込めるから、これってモグラ叩きゲームみたいで面白い。この素直で可愛い年下キャストは二年目で、俺はオープニングスタッフも務めた三年目兼ナンバーワンホストだ。ナンバーワンといっても内勤キャストの露骨な蹴落し合いはあまり好まれず、皆、比較的穏便ではあるが、競合する他店に関しては容赦無く市場から叩き落としていく。そうしてカリスマ達が築いたこの三年間で、ホスト立海は他に類を見ない売上を記録し、圧巻の頭角を現したのだ。

まぁ、難しい話は抜きにして、要はこの店が一番売れているという、それだけわかってもらえればそれで良い。

「…それで?今月も"ウチ"が勝ってるの?蓮二」
「あぁ、その様子だな」

有能オーナー兼現役キャストの蓮二が、泰然自若としてそう答えた。カッチリと着こなしたハイブランドスーツの背中を壁に凭れ、ぱらぱらと手に持つ売上帳を捲っては記された数字を確かめていく。どこも戦略経営のスペシャリスト失くして商売は成り立たないだろう。表裏共に実質のリーダーである彼の指揮に逆らう事は、この店の暗黙のルールに反する。

ぱたり、と売上帳を閉じた蓮二は、物静かに視線だけ此方に向けて付け加えた。

「…ただ、精市。知れた事だが、お前は些かプライド高めなのか、良く上客を逃すな?さっきのがいい例だ」
「プライド?へぇ、そうかな?…そんなこと言ってもらえるなら、俺もまだまだ捨てたもんじゃないよね。ハッ…」

言いながら気怠げにセットされた前髪をおもむろに掻き上げ、崩していく。そして、下から探るような視線を蓮二に送った。独断で店の利を損なうなと言いたいらしい…だが、その発想は至極当然で、その時俺がつい失笑したのは、俺にプライドなんて9割型残されていないのにという自嘲の念が湧いたせいだった。

プライドと呼べそうな何かとは、何だったか。それをはっきり答えられるほどに、俺はきれいに息をしてない。

「……」

仕組まれた愛に疲れることも、許されない。

即興の綺麗事で現実から目を逸らす悪魔より、余程人間味溢れる、利に目敏い俺をご指名ください。純愛なんて廃れたファンタジーを捨て去る、打算的で偽りだらけの、完全ギブアンドテイクの関係を楽しみましょう。あぁ、そういえば、俺もそろそろ疼いてきてたんだ。

「捨てたもんじゃないついでに、今からもうひと稼ぎして来るよ。それじゃ」
「えぇ!?い、今からって、もう結構な朝っすけど…!?」
「馬鹿だな赤也、昼も夜も関係ないさ。やれるときにやらないと、人はチャンスを逃すんだよ。ふふ」

磨かれた黒の革靴の爪先を光らせ、組んだ足を大袈裟に解きながらソファから立ち上がる。首元のネクタイを締め直す俺の傍で赤也が目を丸くするが、彼の言い分は特に気に留めずそのまま店を出た。向かう先は某繁華街の高級ホテル、最上階のロイヤルスイート、一流企業の深窓がお忍びでお待ちだ。彼女の落とす破格の大金はまたホスト立海の繁栄に大きく貢献するだろう。無論、対価は俺自身、文字通り身体で支払う。彼女は極度のマゾヒストで俺に色恋営業されるのがイイらしく、嵌ってしまった客の内の一人だった。

「でも…今日は案外、乗り気なんだ。ご希望に添えそうでなによりです。君の嗜好は、重々承知済みだ」

さぁ、その場限りのオヒメサマ。

「愛してるよ。始めようか」

それじゃ、羽根のように軽く俺と恋愛(コイ)しようか。



end.
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ゲスい幸村様のリクエストでした!ぎこちなくてすみません……orz
以下、ホスト村様SSを書くきっかけとベースになった拍手です。ついでに一緒に載せておきます。
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※ホスト村様(ゲスい)


恋はゲームで、愛は気まぐれだ。

よく来たね。今日、その場限りのオヒメサマ、それじゃ、羽根のように軽く俺と恋愛(コイ)しようか。

君が俺を好きなら俺は君を好きだし、君が俺に興味ないのなら俺は君に興味がない。これって笑っちゃうくらい完全ギブアンドテイクの上に成り立つ関係、何もかも均一に計られるはずの天秤の上で、重くなった方の負けだ。

take it easyなリズムに乗せて次の曲まで繋ぐかどうか、あとはそう、君の思惑次第なのだから、そこは適当に宜しく頼むよ。

「愛してるよ」
「いやっ、キライッ、精市くんなんて」
「あ、そう。じゃ、俺も嫌い」
「うそ!愛してる精市くん」
「ふふ、嘘。勿論、俺も愛してる…」

俺がにっこり笑ってみせると、彼女は興奮して顔を赤らめる。馬鹿みたいに安っぽいやり取りだけど、彼女は俺の抱える太客の内の一人で、丁重に扱わなければならない。

「…精市くぅん、ドンペリ」
「何?」
「プラチナ入れるから、朝まで、相手して?」
「もちろん。愛してる、ホテル行こう」

ヤッタァ、なんて間延びした声で答える、なんだか脳ミソ無さそうな彼女の肩を片腕に抱き寄せながら、本革ソファに腰掛けた脚を組み直す。一本75万の最高級ボトルのオーダーはものの五分で呑み干された。

キャスト総出の華やかなコール中、彼女はコールなんてどうでも良さそうにずっと俺のことだけ見つめていた。だから俺もまた、同じように彼女を見つめ返す。まんまと嵌ってしまったこの客の、天秤の傾きが地に着く前に、どう利を搾り尽くすか。

「…っは、愛してるよ…」
(本当は)
「君だけ見てるよ」
(いつ切るか)
「また、俺に会いに来てね」

(様子を伺っているだけ。)

これは、そういう感じの世界の話。


end.