細やかなレースが何重にも施されたドレスの裾を捲り上げ、色白の脚を外気に曝して行く。この部屋には、暖炉の火がない。肌寒さを忘れる程に熱く愛し合いたいと、指先から太腿に触れ、掌でやんわりと撫で回す。

「んっ……」

ぴくりと彼女が肩を震わせた。そういえば、あの睡眠薬は大男も眠らすほど強力な代わりに、作用時間が他と比べてかなり短く、通常、相手が半気絶状態の内に速やかに拘束し尋問するのに使う。他に思い付くいい方法がなかったとはいえ、こんな下劣な薬を使って悪いことをしてしまった。

首元に軽く吸い付き、趣くまま下方へ唇を滑らせていき、そうやって辿り着いた心臓の上で甘く囁いた。

「手荒い真似をして申し訳ございません、名前様…いえ、名前。けれどもうそろそろ、目を覚まして」
「ん…ん、ふ…」
「くすくす…でなければ、知らない内に全て盗まれてしまうよ?…この僕に」

ベアトップドレスの胸元をずり下げ、姿を見せた慎ましやかな乳房にねっとりと舌を這わせる。絹のような柔肌の舌触りは極上で、上目に彼女の反応を伺いながら乳輪の形に沿って舐め上げ、突起を口に含んだ。敏感なところの刺激に一瞬、名前の腰が浮き身体が力む。意識の境界線上で、声をくぐもらせる貴女の曖昧さに僕の性癖が疼いて仕方ない。半覚醒の彼女を弄ぶことにこの上ない悦びをひしひしと感じ、彼女の身体をじっくり弄っていく。

乳首をこりこりと甘噛みしながら、一方で、太腿から尻のラインを行き来する片手を股の中心部に滑り込ませた。人差し指と中指を使って、布越しにクリトリスを掠めるよう上下に擦り上げてやると、名前が閉じた瞼をひくつかせる。漆黒の、長い睫毛の先が小さく震えている。漸くか、と僕は一度身体を起こしてから、高揚した気分で眼下を眺めた。視界を遮る乱れた自分の前髪を整え、彼女から僕の顔がよく見えるようにする。

「あっ…あ、ん、ん」
「ほら、起きて」
「…ん…ん…ふぁ…あ、れ…?」

ゆっくりと、宝箱が開くように、開いた彼女の双眼はそれはそれは宝石のように美しかった。

その瞳に言葉を忘れかけたけれど、当然ながら驚いたのは彼女もまた同じで、互いに暫し見つめ合い沈黙する。確かに連れ去ったのは僕の方だ。ただ不思議と、薬の名残の気怠さも相まってか、彼女が大声を上げて助けを呼んだり暴れて噛み付いてきたり、そういうイメージが湧かなかった。だから口を塞ぐ代わりに、僕はどうして、愛おしげに今、彼女の髪を撫でているのだ。無防備なのは一体どちらの方だろう?彼女は僕から警戒心を拭い去る、危険な魅力を秘めている。

「先程ぶりです、お姫様」
「あ、あなたは…?あの、ここは、いったい」
「今は時間がないので…そうですね、簡略し、申し上げると」

言いながら、彼女の両方の細腕をぐ、と頭上で一括りに纏め抑えつけた。下手に力を入れたら簡単に折れそうな程に華奢で、心許ない。

「貴女を奪いに参りました、僕は他国のスパイです。大丈夫、この城から貴女を連れ去りはしない」
「あっ…!あ、や、やめ…っひぁっ」
「だから少し、僕の言うことを聞いていてね。くす…」

ほんのりと赤みを帯びた名前の耳たぶを唇で軽く挟みながら、愛撫で濡れ始めている膣内に性急に中指を突き刺した。指の付け根まで容赦無く挿し込むが、予想以上に中は狭く、セックス慣れしていないように思えて眉を顰める。どうにも気に食わないあの王子とは、まだ数回も身体を交えたことがないのだろうか。内壁を爪で引っ掻くように掻き回せば、熱い愛液が膣口から溢れ出て尻を伝い、ベッドシーツに滴り落ちる。この好都合な身体に僕を教え込んでやりたいと、悪い顔で舌舐めずりして、吐息混じりに囁いた。

挿入する指を二本、三本と増やす度、卑猥で粘着質な音が静かな室内に響く。

ぐちゅぐちゅ…

「あっあっ、ひっ、いやぁ…あぅっ」
「ふっ…名前、君は見ず知らずの男に犯されて感じるの?淫乱なんだね…そんなところも僕は好きだよ」

べっとりと掌に纏わりつく液体の雌の匂いが堪らない。快楽に悶える彼女に俯瞰の笑みを向けながら、ピストンを繰り返していたけれど、膣が解れて馴染んだところで動きを止めた。次に服の下に収まりきらない程に大きくなった生々しい肉棒を取り出すと、鈴口から溢れる先走りを指先に救い、名前の入り口にくちゅくちゅと塗り付ける。彼女は恍惚の瞳で虚空を見つめ、だらしなく股を左右に開き僕に可愛がられるままになっている。結局、これは単純作業で、これが終わったら王女は愛する王子のことを忘れ、僕との肉体関係の虜になるだろう。あぁ、何処か疎外感のある心で思う。僕は人の心ほど信じられないものはなく、陳腐で、価値の無いものはないと思っている。

君も、ありきたりな内の一人なのか。

「……」
「…ひっあっ、あぁああ…らめぇぇ…ッ!!」

くちゅり、と亀頭を陰唇に押し付け奥まで一気に挿入した。処女ではないが処女に近い、そんな感想だった。未開の地に土足で入り込む背徳感にぞわりと鳥肌立ち、ギシリとベッドスプリングの音を立てて体勢を整えながら名前と下半身を密着させる。肌が熱く、中も熱い。ねっとりと絡み付いて射精を促す膣内にペニスを脈打たせ、欲望のままに前後運動を始めると、彼女は目尻に涙を浮かべていやいやと首を横に振る。下半身では、感じているくせに…つまらない苛立ちにピストンに勢いをつけ、窮屈な内壁を肉棒で激しく擦りつけてやると、甲高い嬌声を上げて悦んだ。中のいやらしいヒダが僕のペニスを掴んで離さないのだ。はぁ、と浅い呼吸を繰り返しながら彼女の耳元で会話する。

「はぁっ…名前、気持ちいいでしょ…?」
「はっ、あっ、やぁっ、ぬ、抜いてっ」
「抜かないよ、君と僕がイクまでね?君の大好きな王子とするより、ずっとイイ思いさせてあげる。くすくす…」

優しく頬に口付けて、いつも通りに笑う。

「そして君は大好きな王子を裏切るんだ。残念ながらね」
「…!?ひ、あ、あっ、なんでっ…あっ、あっ!!あぁあっ!イグっあ"っ」

ぐちゅぐちゅぐちゅ!

快感の連続に射精感が増し、膣口のギリギリまでペニスを引き抜いてから子宮口まで勢い良く一突きした瞬間、名前は背を仰け反らせて絶頂に達した。中の収縮に締め付けられ、ほどなくして僕も彼女の胎内へ熱い大量の精液を射精する。快楽の余韻にビクッと痙攣する彼女を他所に、全て出し終え引き抜いた途端、入り口からどろりと溢れ出る白濁が僕と名前の性交を証明する。

彼女はきっと、今日のことを何回も思い出すだろう。そして恋し焦がれるだろう。

あぁ。いよいよ扉越しに外が騒がしくなってきたのは王女がいないことに王子が気付いたからか、此処が知られるのも時間の問題だと、身なりを整えて早々に窓辺に立つ。眼下に広がるのは生い茂る木々、夜風が吹きやまぬ今宵、現世も霞む美しい月夜の晩には、月の光が僕の帰り道を照らしてくれるから心配いらない。最後に一度だけ、ベッドに横たわり眠りに就く名前に振り返る。少しだけ、気になることがあった。

君も、ありきたりな内の一人なのか。あの時。

『…どうして、そんな顔をしてるの…?』

君は確かにそう、小さく呟いた。そして、あまりに純真無垢な目に映し出された僕の姿の、なんと脆く、頼りなく、弱々しいことか。君の確信めいた一言がどうしても、脳裏に焼き付いて離れない。

また、僕から会いに来るかもしれない。

「…奪われてるのは一体、どちらなんだろうね…」

誰にも聞こえない小声で告げ、僕は闇夜に紛れていった。


end.
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最近出たマスカレードグッズ(公式)が素晴らしかった…