負けず嫌いで何かと周到な僕の裏を読めるほど君は器用な人ではないと思っているし、それであれば君を好きになることも無かっただろう。

ありのままを晒す危うい姿は知りたい未知の対象で、更なる領域に踏み込む瞬間ゾクゾクする。喉から手が出る程に君が欲しい、なんて下衆な衝動も蠱惑(コワク)的スリルの前では敵いっこないだろ?

そうして僕はまた、君の輪郭に指先から触れてしまう。だから、つまり。僕はね。

「君の虜だ。もう、好きにしちゃっていいかな?」

にこりと貼り付けたような笑みは、如何せん、僕の彼女である苗字名前には通じないようだ。ほら聞こえるかい、僕達の重みで奏でるギシリと軋んだスプリングの不協和音の何て心地良いことか。洗い立ての真っ白なベッドシーツに組伏した君を俯瞰の笑みで見下ろしながら、握り締めたか細い両手首をジリジリと捻り上げたのは、傷めつけない程度に逃げられない程度に、そういう願いを込めたからだ。

「ん、しゅ…周助…ッ」

そうして苦しげに僕の名を呼ぶ君は、まるで全部僕のモノになったみたいで応えるようにうっとり目を細める。時刻は夕刻午後六時、暗闇が全てを包み隠すにはまだ早い暖かな春の日だった。

事の始まりは授業が終わった放課後だ。

僕の家に忘れ物を取りに来たいと申し出た君を喜んで歓迎したのには二つ理由がある。一つは今日たまたま家族が朝まで出払っていること、一つは最近ちょっと不思議な薬を手に入れたこと。そうでなくても365日君を歓迎さえするけれど、この絶妙のタイミングを利用しない手は無いと心の中でほくそ笑んだ事を彼女は知らない。だから何の警戒心もなく僕の用意したお茶を飲み干したんだろう?ごめんね、ソレには少々、即効性の媚薬が入ってるんだ。それを知らせたのは、君の身体が素直に火照り出す頃合いを見図ってからのことだった。

そっと額に口付けてみると、薬を盛った僕を怒りたい理性と、セックスしたい本能の葛藤に揺れ動いた瞳で僕を見上げてくる。困ったように眉尻を下げる顔がとても可愛いね、けれど僕だって理由も無しにこんなことはしないからおあいこだ。無言で身に纏う学ランのボタンを上から徐に外し終えると、敢えて確信の持てない言い回しでこう告げた。

「大丈夫、怖い事は何もないよ。きっと、ね?強いていうのであれば君の返答次第、もしくは僕の気分次第、かな」

そうして右手で宥めるように彼女の髪を撫でながら、空いた左手で見慣れたセーラー服にそっと手を掛けていった。

「それで…今朝はどうして僕を見て見ぬフリしたのかな。君の隣を歩いていた、…あの男は誰?」
「周助…あれは、あの、違…っひあぁんっ…!」
「くす、思い当たる節はあるんだ?…なら、下手な言い訳はマイナス10点だよ、名前」

めくり上げたセーラー服の下、曝された愛らしいピンクのブラの上から乳首をきゅっと摘み上げると、彼女は少しの刺激によがり声を上げながら淫らに腰をくねらせた。幾度も互いの身体を重ねてきた仲だけれど、いつにも増して感度良好なのは薬のせいか。布越しに乳首をこねくり回しながら様子見しつつ声色穏やかに問い質していく。

「さぁ」

囁やいた、やがて言葉は呪文となり、吐息は魔法となる。

「答えるんだ」

美しい円な瞳が鏡のように、妖しく微笑む僕を映し出した。

始めに言っておこう。矛盾こそしているが僕は今、彼女に問い質している『事の始終』を全て把握している。要するに『今朝、校門の前で名前が僕の見知らぬ男と歩いていた。たまたまその場に居合わせた僕と目があった瞬間、名前が気まずそうに視線を逸らした。』から、何も知らなかった僕がそれに腹を立てている、という、一見、そういった流れである。

けれど、その男が三日前から一方的に名前を嗅ぎ回っている同学年だということは僕は早めに察知したし、その男の下調べは既についている。更に付け加えるのであれば、問題を一掃する手筈まで整っている。今朝だって、偶然を装って名前とその男が来るのを待ち伏せていたのは僕の方だ。彼女が目を逸らした理由も、僕に悟られぬようにその傍迷惑な男の問題を自己解決…とかそんな感じだろうし、彼女に非は無い、といえば無い。それにも関わらず、僕は事情を素知らぬ振りをして彼女を現在進行形で追い詰めている。

「で、あの男は誰?」
「さ、最近…よく、話し掛けられ…んっ、ん」
「くすくす。へぇ、そうなんだ?」

わざわざ初めて知ったような口振りで、淡々と話を進めていく。話しながらちゅ、ちゅと色白い首を唇で啄んでいくと、その都度敏感になった名前の身体が小さく反応を返した。全てはそう、君の返答次第だと、柔肌に唇を滑らせながら上目遣いに彼女の出方を伺う。

「…それで、君はどうして僕と目が合った瞬間に逃げたの?」
「そ、それは…周助に…余計な…へ、変な心配掛けさせたくなくて、つい…や、やあぁ!」

つい、か。

そこまで聞いてぴくりと動きを止めた僕は、次の瞬間、脱がせかけのセーラー服と彼女の下着を一気に取り去り床に投げ捨てた。

「…そう?つい、ね。つい僕のことを無視したんだ?へぇ」

怯える瞳で僕を見上げる名前をブレない視線でじっと見下ろせば、生まれたての姿の君は、己の身を護るように両腕で自分の身体をきゅうと抱き締める。媚薬による切ない吐息、上気した頬で、性欲の捌け口を探しているんだね。


end.