今日の雨空はきれいでした。

深みがかった紺色の空には沢山の黄色いお星さまが散りばめられていて、まるで空飛ぶ絨毯の模様のようだと、ぱちりぱちりと瞳を向けて瞬きを二回します。ピンクの水玉模様の傘を片手に歩く帰り道は一人きりで、少しさみしい気がするのは『彼』が隣にいないからなのだと、気付いたのは歩き始めて10分くらい経った頃のことでした。道端にはそこらじゅうに水溜りがあって、どれも私が傍を通り過ぎる度に、鏡のように寂しい顔した私を映し出しては、穏やかな波紋を作っていきます。

「…、」

そうして空から溢れ出る無数の水滴がキラキラと地上へ降り注ぐように、私の中であなたへの、微熱を帯びた想いがだんだんと募っていくのです。

一歩進めば下ろし立ての靴先がパシャリと水溜りを弾いて、銀色に輝くダイヤモンドが足下から舞い上がっていくみたい。恋に少し臆病な私の恋路を、神様は見守ってくださいますか?一瞬の切なさに目を細めました。それでも一歩、また一歩と笑顔で進めばゴールにきっと近付くから、私はアンダンテの想いに乗せて雨の日を進みます。

ほら、髪に揺れる真っ白なリボンが吹き抜けた風に翻り、短めのプリーツスカートの裾がふわりと浮いたその瞬間。真っ正面から受ける風は後ろ髪を靡かせながら、その先の、新たな世界を私に見せてくれました。

「…ッ名前…!」

きっと頭上に広がる星空が、綺麗なウェーブを描いてこの地に舞い降りたんでしょう。奇跡みたいに、夜空色した髪のあなたがここまで迎えに来てくれたから、私は幾億の星の瞳で、時が止まったようにあなただけを見つめ返します。

「…ッさっき…はぁ、君の家に行ったらまだ帰ってないって聞いたから…暗いのに一人で…いたら危ないだろ…はぁ…やっと見つけた…っ良かった…っ」

脈打ち、また熱を増す心臓。
うまく言えない。

あなたがここまで息を切らせるなんて、どれだけ慌てて、走って来たのだろう。あなたも傘をさしているけれど、私なんかよりずっと服も、髪も濡れてしまっているのは、形振り構わずにこんな雨の中追い掛けて見つけてくれたから?そんなあなたにごめんなさいもありがとうも、この手に握る傘の柄を放り出して、両手を広げればぜんぶ伝わればいい。

やっぱり、うまく言えない。

ドキドキが止まってくれないから涙腺が熱くて、震える睫毛でそっと瞳を閉じながら、傘を前に傾けて、少しの間だけ自分の顔を隠してしまいました。

「…名前?」

心配そうなあなたの声が傘越しに聞こえる。雨足は緩やかで、不思議と霧雨にも似た静けさの中、あなたと向かい合うこの世界は出会った頃よりもっと甘く、もっと愛しいものでした。暫しの無言の間、顔を伏せたのは言葉を選んでいたからじゃない。ただ、ただあなたが。

魔法にかけられがちな私を、いつも放って置かないから。

「…ありがと、せいいち…大好き…っ」

やがて踏み出した右足がパシャリと宝石の海を軽やかに渡り、ピンクの水玉が羽のように夜空に舞い上がります。

どうか、その場所で待っていて。大好きなあなたの胸に飛び込むまで、あと、1秒。


end.
−−−−−
大切な主人公ちゃんに敬意を込めて…!(*^^*)