この世の人間はすべからく事の真意を知っていくべきなんじゃないだろうか。

例えば、核心に触れてはいけない場合、知ることが禁忌の場合、どうやったって前に進めないじゃないか。そうやってその都度、誰かの都合で、理想の実現を妨げられるのは、俺としてはどうにも癪だ。俺は、己の存在価値をどこまでも求めてる。どんな手段であれ自己の肯定は、生きている実感をもたらすだろう。そのために多少悪いことをしたって、それは悪いことにはならないんじゃないか。

それとも、そんなことさえ許されないような、この世界なのか?

暗闇の中で悪魔のような嘲笑一つ、人並みでいるのは君以外のヒトの目に映るときだけでいいと吐き捨てるように嗤った。掻い摘んだところ、俺は君に俺という存在を肯定して欲しいようだ。稚拙でワガママな願望は、やがて禍々しくも醜い塊となってしまった。ギリギリときつく名前のか細い両手首を頭上で纏めて縛り上げ、白い布で目隠しが完了すれば、気が遠くなるようなドス黒い深淵から、そっと君に問い掛けた。

「名前、俺、君のために何かできてる?」
「…ッ、ん…ふ、…っ、ウン…」
「そう、それならよかった」

君に否定されたら、俺の全てが終わるということ。

「ねぇ…俺は必要ない?」
「そ、そんなこと…ない…ないです、ないっ……ひぐ」
「…でもそれって、…本当に?」

闇の底から這い出たような俺の疑問符に、彼女は恐怖に肩を震わせながら何度も首を縦に振った。時刻は丑三つ時、明かりの無い部屋に、カチ、カチと時を刻む秒針の音がやけに大きく響いている。

窓辺に差し込む白い月の光を頼りに、無機質な静寂の中で、俺と愛しい名前は二人でベッドに倒れ込んでいた。あぁ、なんて幸せな時間なんだろう。身動きも自由に取れず、視界も阻まれた今の彼女は、テニスでいう俺に五感を奪われた相手プレイヤーに少し似ている。試合の途中で叶わぬ夢に気付き、見渡す限りの絶望にただただ為す術もなく、自らテニスを放棄していく悲しい結末だ。そんな奴らを腐る程見てきた。

そうやって、彼女も全ての戦いからリタイアしてしまえばいい。俺により巧みに用意された絶望の先、最後に行き着く場所が結局、俺になればいい。最後の最後で、名前の存在理由が、俺になればいい。そんな崇高な理想を胸に秘めながら、今は彼女とのセックスに集中する。

「好きだよ名前、誰よりも愛してる…」
「はぁっ…いや、嫌ぁ、精市、目隠しほどいて…んっ」
「ん?…ダメだよ。そうしたらきっと俺から逃げるんだろ?そんなの、絶対に許さない」

目は笑わずに口元にだけ歪な笑みを浮かべながら、縛った彼女の手に己の掌を重ねてそっと指を絡めていく。色白く、折るにも容易そうな五本の指だ。そうしてまた、指先の温度を確かめては、彼女が此処にいることに安堵する。何度も角度を変えては執拗に絡め直しながら、空いた片方の手で名前の柔らかな下半身を弄り始めると、彼女は僅かに腰を浮かせて敏感に反応を返した。

「んっ…や、だめ、もうやめて…っやめてぇ」

悲痛な声色で太腿を擦り合わせながら、俺とのその先を何故か拒絶する。悪いけど、そんなところも最高に可愛いよ。純白の下着は無垢な君に似合っていて、うっとりと見惚れながら閉ざされた脚を無理矢理こじ開けていく。ちゅ、ちゅと首筋に愛の鬱血を残しながら、薄い下着越しに蜜壺へぐっと数本指先を押し込めば、中のぬるりとした違和感に目を細めた。

「ふふ、ねぇすごいよ?名前もわかるかい?どうして君のココ、こんなにドロドロなのかな」
「やっ、違、ちが…ちがうの」
「何が違うんだい…俺に感じて、こうなってるんだよね、嬉しいよ。ならもっと奥までクチュクチュしてあげようね」
「ひ、ひぅ……!!」

既に湿り気を帯びた薄い布の上から入り口の筋に沿って優しく上下になぞり上げ、隙間に指を差し込み直に秘部に触れた。クチュリと粘着質な音を立て、べっとり愛液の纏わり付いた陰唇がふにふにと俺の指の腹に押される度、名前の喉からか細い嬌声が上がる。

そのままぐっと力を込めて膣に人差し指と中指を挿入すると、俺しか受け入れ慣れない狭い肉壁を中までぐりぐり押し広げていった。身を捩り、劣情を押し殺したいらしい名前を、極楽のセックスに屈服させるのはなかなかに愉しい。天使が堕天する瞬間みたいな、そのギャップに煽られたら俺の男根も熱く疼き始めた。指を曲げて内壁を強く擦り上げながら、じゅぷじゅぷと音を立てて中を激しく掻き回す。

「あっあっ!あん!…あ、やだっ、精市ぃ…やめっあっ」
「恥ずかしがり屋なんだね。俺にいつももっと太いの挿れられてるじゃないか」
「…ッそ、それは…んっふむ」
「それは、何?」

ピンク色に光る唇を奪い、咥内で舌を伸ばし彼女のそれを絡み取る。名前とのキスはいつも甘い。息つく暇も与えずに上も下も執拗に迫りながら、苦しそうに酸素を求める君を、瞬きを忘れて見つめていた。

「ふふ。四の五の言わず、イケよ」
「あっあっいやっあ、ひぁあああん…ッ!!」

不敵な低音で呟き、Gスポットを強く擦り親指でクリトリスを押し潰すと、名前は全身で感じながら甲高い悲鳴を上げ頂点に達した。

プシャリと勢い良く噴き出した潮がシャワーのようにベッドシーツを濡らしていく。指はすぐには引き抜かず、快感の余韻にビクンビクンと腰を痙攣させる姿を暫く上から眺めていたけれど、ふと彼女の目を塞いでいた目隠しを解いてみた。覆われたベールの下、僅かに頬に涙の跡を残しながら、瞳を閉じて長い睫毛を震わせている。ぐったりとするその瞼に口付けて開眼を戒め、君を暗闇から逃がすことはない。

「名前」
「はぁっ…ん、あ…」
「名前、好きだ、愛してる。君に否定されたら俺の全てが終わる」
「…ぁ、せいいち……」
「はぁっ…好きだ…好きだ、愛してる、君だけを愛してる、好きだ、君が、君が全てだ、はぁ」

昂り返しでぐちゅぐちゅとペニスを扱きながら壊れたように紡ぐ言葉に、やがて掠れた喘ぎ声さえ失われた。腹の中まで俺に貫かれ白濁に穢された彼女は気絶しても尚美しく、おぞましい興奮に呑まれた俺は、朝まで夢中になって身体を犯し続けた。まるでそう、生きてる意味を、君で確かめるように。


end.