「やぁ!おはよう名前。はい、これ俺から」
「…えっ?えっ?…あれ?」

朝起きて、朝食を食べて身支度を整え、さぁ登校するぞと自宅の玄関を開けた瞬間私の視界が真っ赤に染まる。ああ、でもどうして、私はこの光景に見覚えがある。それに聞き慣れたこの声は。視界を遮るそれからぽふっと顔を上げてみると、なんとそこには紅い薔薇の花束が私に向けて差し出されていて、更にその先を見遣ればそれはそれはご機嫌な美青年が此方を向いて微笑んでいるのだけれど、今度は驚かないよ。

「俺が育てたんだ…て、流石にわかってくれてるよね。受け取ってくれるかい」

あの頃より、少しだけ大人びた精市が少しだけ身体を屈めてふわっと私の顔を覗き込む。まるでこれからの私の言動一つ一つが楽しみで仕方ないといった、幼い表情は変わらないんだね。間近に迫る彼に私は身体を熱くすると、逃れるように無意識に半歩下がって問い掛ける。

「せ、せぇいち、あの…このサプライズって…」
「ん?なぁに?」
「もしかして、また、気まぐれなの?」
「そう。俺の気まぐれ」

で、受け取ってくれるよね?と半歩前に出て私をじりじりとドアへと追い詰める精市に対して無言で首を縦に振る。そう、良かったと呟くと彼はにっこり笑って私から呆気なく身体を離した。こんな場面まで、一緒なのかな…それから、渡された大きな花束を受け取ると改めてそれに目を落としてみたけれど、紅い薔薇、のみの花束。けれどそれが何本も束ねられていて、以前よりも花束はずっしりと重い。どれも綺麗に咲いているからガーデニングが趣味の精市がきっと大切に大切に育てたのだろうと考えると、それはとても愛おしいものに思えた。

紅い薔薇の、意味を知っていますか?

「精市、いつもありがとう…大切に飾るね…!」
「うん、俺の気持ち受け取ってくれるよね?」
「…そ、その手にはもう乗りません。し、知ってるんだから…」
「知ってるなら、尚更だろ」

ちゅ。

「………ッ!?」

不意を突いて精市が私の唇に軽くキスをする。掠めるだけのそれは本当に一瞬の出来事だった。順応し切れず棒立ちになる私を前に精市は自分の唇に人差し指を当てると、形の良い瞳をウインクさせて可笑しげに言う。

「話が早くて助かるよ。名前が俺と結婚してくれるまで、懲りずに持ってくるからね」
「…」
「覚悟したまえ、ってね。晴れて両想いになる日も近いかな俺達…さ、学校行こうか」

な、な。

マイペースな彼がくるりと踵を返して私を手招きしている。朝日に照らし出された彼の、微笑むその口元が印象的なのは昔からだと、あの頃の私達を鮮明に瞳に映し出す。

真っ赤な花束をぎゅっと抱き締め、真っ赤な顔をそこに埋めて隠す。どれだけ時間が経っても、変わらないものがここにあると知ることができたよ。

くらりと目眩を引き起こしそうな甘い香りに包まれて、今日も一日が始まろうとしている。


『いつか五十万本の紅い薔薇を、君に贈りたいな』


end.
五十万打本当にありがとうございます!!(土下座)

−−−−−
わかる人には、わかるかな…(笑)
一万打からあっという間でした。ありがとうございます!これからも幸村様の如く(笑)懲りずに色々書いていく予定なので、宜しければ遊びに来てやってくださいね。

50万打、本当にありがとうございました!