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 あれ。ここどこだっけ。
 振り返って辺りを見回すが、私にはここがどこだか少しもわからない。
 空っぽになった右手をじっと見つめるが、そこに答えが書いてあるわけもなく、反対の左手のスマホは充電切れ。リュックの中に乱雑に突っ込んでいたモバイルバッテリーすら充電切れ。困った。
 不思議なことに周りには人ひとりいない。私、確か、駅のホームで電車を待っていたはず。駅のホームは沢山の人で溢れかえっていたはず。おかしい、確実に、何かがおかしい。こんなことになるならやっぱりホームまでついてきてもらえばよかった。
 仕方ない、一旦改札まで戻ろう。駅員さんに聞けばなんとかなるだろう。
 ・・・。
 しまった。改札がどこかもわからない。
 最悪だ、本当の本当にどうしようもない。私はこのままここで何もできずに死ぬんだろうか。
 ああ。あの時ロールアイスなんて追いかけるんじゃなかった、ちゃんと話を聞いておくべきだった。私のばか。
 今はなんとなくつけている左腕の時計だけが頼りだ。

***

 そもそも学校をサボって京都に行こうとしたのが間違いなのだ。

「ちょっと今日学校って気分じゃないし京都行ってくるわ」

 朝起きて、第一声。
 勿論両親には「早く朝ごはん食べてよ」と相手にされなかったし、兄には「またばかなことを」と笑われた。でもその時の私は本気だったのだ。しかし相手にされないのなら仕方がない。わざとらしく音を立てて部屋に戻り、急いで荷造りをする。準備が整えば母親の制止の声も聞かず家を飛び出した。
 駅についてまずは朝ごはんも食べずに家を出てきたことを思い出して駅弁を買った。そのあと窓口は人が多いのを確認してなんとか券売機で切符を買いホームへ向かった。ホームにはすでに電車が来ていて、せっかくだしと奮発して選んだ切符を見ながら指定席を探す。
 さぁ駅弁を食べよう!とうきうきで駅弁の封を開けようとしたとき、ポケットの中でスマホが震えた。友達からのメッセージだった。

『遅刻?』
『ううん。ちょっと京都行ってくる』

 返事をして今度こそ駅弁をと箸を取ると、今度は電話がかかってきた。

「何考えてるの!?」

 まぁ、当然の反応だ。
「なんか今日学校って気分じゃなくて」
「学校って気分じゃなくても学校は学校なの! 何、もう電車乗っちゃったの?」
「うん、乗っちゃった」
「ばか。いっつも後先考えずに行動するんだから。京都でもそうやって適当にしてると、迷子になるんだからね」
「大丈夫だよ、京都にも友達はいるし、きっと何かあったら助けてくれるよ」
「そんな適当でいいの!? ちょっと、聞いてる?」

 やっぱり朝は白米だよな。うん、美味しい。電車の中で食べる駅弁って格別。おかげで友達の話は一ミリも頭に入ってこない。ごめんよ、今はこの至福のひと時を邪魔されたくはないのだ。そうこことの中で唱えながら静かに通話を切った。あとでなんて言って怒鳴られるかな。