かなしんでくれるかい?


やあ、僕は燭台切光忠。
突然だけど、僕はもうすぐ政府に刀解されるんだ。

自分の主を殺してしまったから。

ああ、別にここは世に言うブラック本丸ではないし、むしろ僕の主はとても良い人だったよ。他の刀剣達に一切の関わりがないことは明白で、既に政府に保護されているから安心して。
僕が彼らに歯向かってほんの少し時間稼ぎをした理由は、ここで最後に真実を語りたかったからなんだ。政府は僕が話す暇なんて与えてくれないだろうからね。審神者殺しは酌量の余地なしの第一級犯罪。僕がその罪を犯した理由を聞いてほしい。

僕の主には両親がいなかった。まだ赤子の頃に他界したらしく、祖父母に育てられたそうだ。厳しくも優しい二人に育てられた主は責任感の強い芯のある人に成長したよ。
審神者の素質を見込まれて政府から就任の話がきた時も、お国の為になるならと快く主を送り出してくれたらしい。主は年老いた二人を残して本丸に住み込むのは気が引けたそうだけど、祖父母に背中を押されて審神者になる道を選んだ。
本丸にいる間、彼女は僕に二人の話をよく聞かせてくれたよ。幼い頃から手塩にかけて育ててくれた祖父母を大層大事にしていることがよく分かったから、政府経由で二人が病気で倒れたことを聞いたときの主はもう見ていられなかった。
肉親が重篤となると、流石の政府も現世帰還を認めざるを得ない。主は看病の為に頻繁に現世に戻り、回を重ねるごとにどんどん落ち込んでいく主の様子から祖父母の容態は思わしくないことが手に取るように分かった。
そしてあの日、帰ってきた主に呼び出された僕は聞いたんだ。
「おじいちゃんとおばあちゃんがこう言ったの。"私たちが死んだら、かなしんでくれるかい?"って」
酷く思い詰めたような顔で主は「だから、うんと答えた。かなしんであげるって」と、責任感に押し潰れそうだったよ。

そして、そう日を空けずに政府から通達が来た。主の祖父母が息を引き取ったと。
葬儀のためにまた主が数日現世に戻っている間に、本丸で待っている仲間達で主を元気付けてあげようと計画を立てていたんだけど、僕はその必要がないことが分かっていた。あの責任感の強い主ことだから、祖父母と交わした約束を無下にはしないと思ったからね。

だから僕は主に手を下したんだ。
僕にその役目を頼んだ主は賢いよ。他の子達は主がどれほど祖父母を想っていたか、その約束をどんな覚悟で交わしたのか、きっと理解出来ないと思うから。

これで僕の独白は終わりだよ。そう、気付いているよね。僕の主の真名は"かな"だ。
ああ、外から声が聞こえて来た。政府の使いが到着したみたい。
それじゃ、僕はもういくね。これを読んでいる君は、どうか無用な責任感なんて持たないでくれるといいな。