これは夢の中なのだから

「ぬしさま、是は夢。貴女様の夢にございます」
熱に浮かされ、夢現つの中でぼんやりと薄れては戻る曖昧な意識の中、名前の耳にはそう囁く声が聞こえた気がした。三日前から続く謎の高熱で体力の消耗が激しいのだ。薬研による治療も気休め程度の解熱にしかならず、数刻経てばまた体温が上がっていく。
玉のような汗をかきながらガタガタと布団の中で震える名前。そんな主を心配しているのは本丸に住まう刀剣達みな同じだが、彼女の部屋に近づく事は主お世話係の長谷部ですら許されなかった。小狐丸が野生を剥き出しにして牽制しているからだ。
「…は…ぁ…っ…」
「ぬしさま…苦しいのですか…?」
二人きりの静かな部屋には名前の苦しげな息遣いだけが響いている。荒い呼吸が少しでも和らぐように、彼女の寝間着の帯を緩めてやると小狐丸の双眸に映ったのは寝汗と火照りで艶やかに浮かび上がる名前の白い肌。
はだけた寝間着の裾から覗くのはスラリと伸びた華奢な脚。乱れ気味の胸元は呼吸に合わせて大きく上下する膨らみが雄の本能を刺激する。
「───…この小狐が、ぬしさまを蝕む苦痛から解き放ってみせましょう」
それは己に対する言い訳のようにも聞こえた。
小狐丸の手が伸びた先は、既にはだけて本来の役割を果たそうとしない寝間着の裾。そこからするりと手を滑り込ませ、熱のこもった名前の肌を撫でると子猫のように甘えた掠れ声が漏れ聞こえる。
「…ん…、…こぎつね、まる…?」
「御安心下され、ぬしさま。是は貴女様の夢なのですから」
それを聞き届けるとほぼ同時、名前はまた薄れゆく意識の中にその身を委ねた。
それでいい。全て夢だと思えばいい。
野生の欲望に火がついてはもう止められない。
意識を手放した名前に覆い被さり、火照った首筋に噛み付くような口付けを降らせながら小狐丸もまた、夢にまでみたその一時に酔いしれていった。

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