君は悲鳴すら甘い

「……つる、まる……それ……」
「ああ、これか?綺麗だろ、白には本当によく紅が映える」
確かに、綺麗だと思った。
月光を背に受け、青白く光る戦装束に鮮やかな紅が散りばめられて、まるで本当に一羽の美しい鶴のようだ。そしてその鶴の手には、未だ鮮血が滴る太刀がしっかりと握られている。

その血は一体誰のものなの。
貴方は何を斬り伏せたというの。

そう頭で反芻しても、唇はパクパクと動くだけで掠れ声すら漏れてこない。無意識に後退りしていた背が冷んやりと冷たい壁に触れ、無慈悲にも退路を断たれた事を暗に伝えていた。
「どうした。そんなに怯えるなよ」
「……え……あ……」
柔らかく微笑うその唇が、目が、声が、彼の全てが、名前を恐怖の楔で縛り付けて離さない。
壁にぴたりと身体を張り付け、いやいやと小さく首を振る名前に向けて鶴丸は尚も笑い続けながらゆっくり、ゆっくりと焦らすように朱に染まった手を差し伸べていく。
「何もしないさ。俺は君を傷付けたりなんてしない」
その言葉通り、頬に触れた彼の冷たい手は驚くほどに甘く優しい。肌を上下にゆるりと撫で、そのまま頬から唇へ、唇から首筋へ、と段々と下に滑り降りていった。
名前の息が、一瞬止まったのはその時だった。
「───…っ、ぅっ…!」
「なんてな。どうだ、驚いたか?」
細い首に絡み付いた鶴丸の骨張った指先が皮膚に段々と食い込んでいく。的確に気道を塞ぎ、名前の呼吸が浅く不規則になっていく様を心底愛おしげに見つめる彼の視線。
狂っている。
身体を貫くその鋭い双眸が、名前の動きを止めて離さなかった。
「俺以外の男なんて必要ない。まだ分からないのか?」
そう問われても、呼吸が途切れて朦朧とする名前は曖昧に顔をゆるゆると振る事しかできない。新しい酸素を求めて無意識に薄く開いた唇に、鶴丸の唇がゆっくりと時間を掛けて重なった。
「もういっそ、終わりにするか」
彼の言葉が指す”終わり”の意味を名前が察したその時、彼女の意識は遂に途切れた。
静かに閉じていく名前の瞳が最後に捉えたものは、崩れ落ちゆく身体を見下ろしながら笑う鶴丸の酷く満足げな熱い視線だった。

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