行きたくない。けれど此処に留まってもいたくない。今度こそ出口へ続く場所へと出られれば。その期待に押されて足は右手の襖へと向かっていく。
次に出たのは、先ほどよりも更に広い部屋だった。長方形の長机と横一列に並んだ座布団の様子からして、大人数が食事や会議をするための大広間なのだろうかと思った。提灯を掲げて見回してみても、そこには湯呑みも手紙もない。誰かがいるような気配もなかった。
気が張っているせいか、少しの時間移動しただけなのに酷く疲れを感じる。ここに長く留まるのは良案とは言えないが、少しだけ休もう。その間にここから脱出する術を考えよう、と一番奥の襖の近くにある座布団に腰を下ろすと、障子越しに誰かの声が聞こえてきた。
誰かと話している様子ではない。泣いている───いや、泣き叫んでいる。もしかすると自分と同じようにここから出る術が分からない人がいるのかも知れない、と襖を細く開けて覗き込んでみると、廊下の先に血塗れの青年らしき後ろ姿を見つけた。
血痕が彼の軌跡を残している。廊下の端から端まで鮮やかな赤い染みが続いている様子を見る限り、長い時間右往左往しているようだ。その痛々しい姿に思わず息を呑みながら声を掛けようとした瞬間、先に彼が発した言葉が耳に届いた。
「どこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこにいるの」
瞬間、襖を閉めて咄嗟に長机の下に身を潜めた。
堀川国広。なぜか頭に彼の名前が浮かんだ。
そして気付く。彼は出口を探しているのではなく、自分を探しているのだと。見つかってはいけない、と頭の中で警鐘が激しく鳴り響く。とにかくここに隠れて彼をやり過ごし、どこか別の場所へ移動しよう。幸いにも彼の足音はゆっくりとだが確実に遠ざかっている。
目の前は廊下、後ろにも襖があったはずだ。
彼が背を向けているうちに廊下に出て出口を探すか、後ろの襖からこの部屋を出ていくか。
選んだのは───
1.前の廊下
2.後ろの襖