堀川国広が徘徊している場所に出るのは確かに危険ではあるものの、屋内の部屋をぐるぐると回っていくよりは明らかに脱出への近道になるだろう。何より、酸素が薄いのか息苦しさが続いているせいで頭がぼうっとする。外の空気が吸いたい。
彼がこちらに背を向けていることを確認してから、なるべく物音を立てずに廊下に出てみると、外は月明かり一つない暗闇だった。おまけに酷く深い霧が立ち込めていて、目を凝らしても外の景色が全く見えてこない。危険を覚悟で外に飛び出すか、屋内を回り込んで行くべきか。悩んでいると、不意に堀川国広の泣き声と足音が途切れたことに気付いた。
「みつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけた」
抑揚のない声で、ただ単調に同じ言葉を繰り返す彼の声が段々と近付いてくる。
逃げなければ。脇目も振らずに咄嗟に走り出し、一番近くにあった襖を開けると、そこは今までの部屋とは違う手広な洋室だった。部屋の奥には人が隠れる広さに十分な大きな洋式箪笥がある。急いで箪笥の扉を開けると、中には等身大に近い大きさの人形が入っていた。
なりふりかまっていられる余裕もなく、その人形を床に放り投げてから箪笥の中に身を潜める。徐々に近付いてくる堀川の声と足音に呼応するように心臓が早鐘を打っていく。鼓動の音で居場所に気付かれてしまいそうだ。
どうか、どうかこの部屋を通り過ぎて───その願いも虚しく、彼の足音がまっすぐにこちらに向かってくるのが分かった。
捕まる。捕まってしまう。