「エリアス分隊長」
エリアス班の分隊長補佐であるアーサーが、エリアスの病室を尋ねた。
「あぁ、アーサー。君は今回の壁外調査はお留守番だったね」
「はい。エルヴィン団長とリヴァイ兵士長から、エリアス分隊長の面倒をみよと言われているので」
「…俺の面倒なんてみなくて大丈夫なのに」
「いえ、貴方は目を離すと無茶をされるので」
アーサーの言葉にエリアスは苦笑した。
「…信用ないな」
「前回の壁外調査のことをお忘れですか?」
アーサーはため息をついた。
「忘れてないよ…忘れられないよ。俺の判断ミスで、部下を死なせたんだから」
エリアスの辛そうな顔を見て、アーサーは反論した。
「仕方なかったことです。奇行種1匹、それに通常種4匹。とても勝ち目はなかったです」
「…それでも俺がしっかり周りを見ていれば…」
「思いつめないでください、エリアス分隊長。その気持は、きっと伝わってます」
「そうかな」
エリアスは窓の外を見た。
「…もっとみんなで色々な景色を見たかったな」
「…貴方がそんなんでどうするんですか」
「…厳しいなぁ、アーサーは。慰めてよ」
エリアスは笑った。
「エリアス分隊長…変なこと考えていないですよね」
「…変なことって?」
「…自分も死にたかったとか、生きているのが辛いとか」
「…さぁね」
「そんなこと思われたら、きっとみんなが悲しむと思いますよ」
「…うん…わかってる。けど、ね…」
アーサーは病室の外に待機していた。
「(…エルヴィン団長、リヴァイ兵士長…俺だとやはりエリアス分隊長の支えになることは難しいです…)」
カンカンカンカン
「!!」
街に鐘の音が鳴り響いた。
緊急事態を告げる鐘だった。
ガチャ
「エリアス分隊長!!」
アーサーは急いで病室に戻った。
「…何の音ですかね…」
「…分からない…もしかしたら…また壁が破壊されたのかもしれない…」
「まさか!」
エリアスはベッドから降りようと身体を上げた。
「な!何をしているんですか!」
「…外の様子を見に行く」
「待ってください!エリアス分隊長は、まだ傷が完治していないんですよ!!」
「…それでも俺は…調査兵団所属、エリアス・ホワイトだから」
エリアスは寝間着を脱ぎ始めた。
「アーサー、俺の兵団服を持ってきてくれ」
驚いているアーサーに、エリアスは続けてこう告げた。
「それから、俺の立体機動装置もね」
その後、アーサーはエリアスに言われたとおり、兵団服と立体機動装置を持ってきた。
もちろん自分の分も。
「ありがとう」
「…本当に行くんですね」
「…あぁ…調査兵団が壁外調査に行っている。俺が行かなくてどうするの?」
「…もちろん俺も行きます」
アーサーの言葉に、エリアスは微笑んだ。
「ありがとう、アーサー」
エリアスは寝間着を脱ぎ捨てて、シャツを着ようとした。
「いっ…」
「だ、大丈夫ですか!?」
「…あぁ大丈夫だ。心配ない」
痛む身体も気にせず、エリアスは着替えを進めた。
「悪い…固定ベルトをつけるのを手伝ってくれないか」
「…はい」
アーサーは固定ベルトを手に持ち、エリアスの身体につけはじめた。
身体を締め付ける固定ベルトは、今のエリアスの身体には相当な負担になっていた。
つけるたび顔を歪ませるエリアスを、アーサーは心配そうに見つめた。
「肋骨も左肘も折れていて、右脇腹の傷は動かしたら傷口が開きそうですよね」
「…こんな軟じゃなかったんだけどね。歳のせいかな?治るのにだんだん時間がかかってる」
エリアスは、ははっと声をあげて笑った。
「…大怪我だったってだけだと思いますけど」
「冗談が通じないな、アーサーは」
「…本当に行くんですか。失礼を承知で申し上げますけど、足手まといになるのではないかと思います」
「…一兵士だったら休ませてもらうよ。けど俺は、分隊長なんだ。これ以上部下を死なせない」
エリアスは真剣な目で、アーサーを見つめた。
「ブーツを履かせてほしいな」
「…はい」
「あ、それから髪を結んでほしいな」
「…わかりました」
アーサーは悟った。
この人は大丈夫だ、と。
きっと、前回の壁外調査の結果を乗り越えることができる人だと悟った。
そして、命が尽きるまで支え続けようと、心の中で誓った。
「さてと…」
エリアスは調査兵団のシンボルマークである、自由の翼の紋章が入ったジャケットを着て、その上からマントを羽織った。
同じように、アーサーも準備を整える。
最後に立体機動装置を付けた。
「行こうか、アーサー」
「…はい。エリアス分隊長」
ウォール・ローゼの開閉扉の前−
わああああああ
ドガッ
「うっ」
住民同士で問題が勃発していた。
「お…おい…!!あんた達…今がどんな状況かわかってんのか!?」
「わかってるからこうなってんだよ!!てめぇらこそ、壁を出たかったら手伝え!!」
男が叫んだ。
この男は商会のボスであった。
荷台には大きな積み荷が積んであり、荷台が開閉扉の前で詰まっていた。
そのため、住民は扉を通ることができず、避難することができなかった。
「何やったんだ兵士!そいつらを取り押さえろ!!」
「し…しかし…」
兵団に資金援助をしている関係で、兵士は何も言うことができなかった。
「いいから押せ!!」
「大丈夫だよ、お父さんが大砲で巨人をやっつけてるから…」
「お母さん…アレ…」
人だかりの一番後ろにいた子どもが指を指した。
ズシンズシンズシンズシン
それは巨人の足音だった。
「巨人だ!!すぐそこまで来てるぞ!!」
肉眼で大きく確認できるほど、巨人は住民たちに迫っていた。
「今すぐ荷台を引け!!」
「押し込め!!」
「うわあああどけえええ!」
「死にたくねぇ奴は荷台を押せ!!」
巨人の迫り来る恐怖で、住民たちはパニックになった。
ドドドドドオオ
ヒュンヒュン
住民たちに向かって走って行く巨人の後ろを、駐屯兵団の精鋭部隊が追いかけていた。
「クソ!!なぜ俺たちを無視して住民のところにいくんだ!!」
ドオオオ
「奇行種だ!考えても無駄だ!!」
「くっ…速い!」
「精鋭の私達がおいつけないなんて」
「このままじゃ−」
ビュッ!!
駐屯兵団の精鋭部隊の横を、ミカサが通り過ぎていった。
ギュンギュン
ミカサは巨人が住民のところにたどり着く前に巨人の背中にアンカーを刺し、そのままうなじを切り落とした。
「…は…?」
ミカサは扉を塞いでいる積み荷を見て驚いた。
「(避難が遅いと思ったら…)」
ミカサは人だかりの真ん中を進んでいった。
積み荷の犯人である、商会のボスの目の前にたどり着くと、冷たい目で見つめた。
「タダ飯ぐらいが数年ぶりに役立ったからっていい気になるな!」
「…人が人のために死ぬのが当然だと思っているのなら…きっと理解してもらえるだろう」
商会のボスである男の話を聞いたミカサは、そのまま男の前へと脚を進めた。
「あなたという1人の尊い命が、多くの命を救うことがあることも」
「…!!やってみろ!俺はこの街の商会のボスだぞ!?お前の雇い主とも長い付き合いだ」
男は自信満々に続けた。
「下っ端の進退なんざ…冗談で決めるぞ?!」
「?死体がどうやって喋るの?」
ミカサは冷たい目で男を見た。
「…ストップ」
ミカサと男の前に、2人の男が現れた。
エリアスとアーサーだった。
「…君、すごいね。どこの兵団希望なの?」
「エリアス分隊長…そんな話している余裕はないですよ」
「あぁ、そうか」
「…」
ミカサは目の前に現れた男を見て、驚いた。
白に近いグレーの髪の毛を後ろで結んでいる男は、あまりにも顔をが整っていた。
まるで人形のようだ、とミカサは思った。
「ね、商会のボスさん。死にたくないでしょ?荷台…引こう?」
笑顔で問いかけたエリアスだったが、その目は笑っていなかった。
「会長…」
「…ふっ…荷台を引け…」
わあああああああ
荷台がなくなり、一斉に住民たちは壁の中へと避難を始めた。
「おねえちゃん、ありがとう!!」
「!」
ミカサは声のする方に振り返った。
「おかげでみんな助かりました。感謝いたします」
ミカサはブレードを仕舞い、敬礼をした。
女の子は見よう見まねで、同じようにミカサに敬礼をした。
ミカサは屋根に上がった。
タンッ
「よく仕留めたアッカーマン、さすがだな…」
「ありがとうございます。しかし…焦って一回の攻撃で、刃をなまくらにしてしまいました。次は注意します…」
そう言いながら、刃をブレード本体から外した。
「…あの…あの2人は誰ですか?」
ミカサは近くの屋根に登った2人の男を見ながら、上官に聞いた。
「…エリアス・ホワイト。調査兵団所属の分隊長だ」
「…そうですか…」
エリアスとアーサーは、ミカサに近づいた。
「やぁ、君は…訓練兵なんだね」
「…はい…あの、あなた達は…」
「あぁ、紹介がまだだったね。調査兵団所属、エリアス・ホワイト」
「エリアス分隊長の分隊長補佐、アーサー・ペンです」
「104期訓練兵のミカサ・アッカーマンです」
エリアスは右手を差し出した。
「よろしく、ミカサ」
「…お願いします」
ミカサは応えるように左手を出した。
「あなた達は調査兵団ですよね?今は壁外調査に行っていて不在のはずでは?」
ミカサは気になっていた質問をした。
「あぁ、俺達は訳あってお留守番なんだ」
「…そうなんですか」
「そう。だから俺たち2人も加勢するよ」
「ありがとうございます。調査兵団のお二人がいれば、なんとかなりそうですね」
「うん」