第6話 補給室の作戦

エリアスは部屋の端に座っていた。
これ以上無駄に動いて、体力を消耗させないためだ。
いくら止血したとはいえ、完全に血が止まったわけではない。
さらに折れていた肋骨を圧迫され、身体が悲鳴をあげていた。

そんな自分を悟られないように、エリアスは静かに目をつぶっていた。

「(…やばいな…)」

アーサーは、エリアスの隣に立ち、様子を伺っていた。

「(エリアス分隊長の受けたダメージは相当だ…。くそっ!俺がしっかりしていれば…)」

「…アーサー…」
「!はい!」
エリアスの声はかすれていて聞き取りづらかったが、アーサーはすぐに反応した。

「どうしましたか?」
「…そんな顔するな…」
エリアスはアーサーの目をしっかり見つめた。

「俺は…大丈夫…」
「…エリアス分隊長」
「…お前がしっかりしなくてどうする…あの子達は訓練兵だよ…先輩…」

ふっ、とエリアスは力なく笑った。

「…はい…申し訳ないです…」
アーサーは泣きそうになりながら答えた。

「お前が…あの子達を支えてあげてくれ…」
「…はい…」







「お前ら…あの巨人についてどこまで知ってるんだ?」
「…助かってからでいいだろ、そんなの」
ライナーは先程の巨人について、コニーに説明を求めた。

「…そうだな…まずは助かってからだ…」

バタン

「あったぞ!憲兵団管轄のしなだ!埃をかぶっていやがるが…」
ジャンを先頭に、訓練兵たちが鉄砲の入った箱を運んできた。

「こんなのが巨人相手に役に立つのか…?」

ジャンは素朴な疑問を漏らした。
確かに相手は巨人だ。
うなじを切り落とさない限り、あの生命体は何度でもよみがえる。

「…ないよりはずっとマシだと思う…補給室を占領している3〜4m級が7体のままなら、この程度の火力でも同時に視覚を奪うことは不可能じゃない」

アルミンは、考えていた作戦を説明し始めた。
アルミンによる作戦はこうだ。

まず、リフトを使って中央の天井から大勢の人間を投下。
侵入した7体の巨人が、通常種であれば、より多くの人間に反応するため、中央に引きつけられる。
リフト上の人間が、7体の巨人それぞれの顔に向けて同時に発砲し、視覚を奪う。
そして、天井に隠れていた7人が、発砲のタイミングに合わせて巨人の急所に切りかかる。
つまり、一回の攻撃に全員の命を懸ける、というものだ。

「7人が7体の巨人を一撃で同時に仕留めるための、作戦なんだ…」

アルミンの言葉に、全員に緊張が走った。


「…エリアス分隊長…どうですか?」
アルミンはエリアスの方を見た。

「…うん…いいと思う。それしかないね」
エリアスは笑顔を向けた。

「!!」
アルミンはエリアスの笑顔を直視し、固まった。
「…アルミン?」
ミカサはアルミンを呼んだ。

「…あぁ!ごめん!」
アルミンは首を横に振った。

「運動能力的に、最も成功率の高そうな7人にやってもらうけど…全員の命を背負わせてしまって…その…ごめん」
「問題ないね」
アルミンの言葉に、ライナーは笑顔で答えた。
「誰がやっても失敗すれば全員死ぬリスクは同じだ…」

「…俺とアーサーは、中央の天井に待機して、すぐに…駆けつけられるようにするから…」
エリアスは7人を見つめた。
「だから…安心して…思いっきりいっていいよ」
「はい…!」
「…役に立たなくて…ごめんね…」
エリアスは申し訳無さそうな顔をした。

「エリアス分隊長…あなたが天井に待機してくれる…ので…私は思いっきりいけます…」
「…ミカサ…」
「だから…そんな顔しないでください…」
「…ははっ。なんか、ミカサって弱い奴は大嫌い、みたいな子だと思ってたけど…そんなことないんだね…」
「そうですよ!エリアス分隊長がいるってだけで、安心感があります!」

「…確かに…さっき、あなたの実力派目の当たりにしましたし…怪我してアレだけ動けるって…尊敬します…」
アルミンに続いてジャンもエリアスを褒めた。

エリアスは微笑んだ。

「ありがとう…。絶対守るから…」


「でも…僕のなんかの案が…本当にこれが最善策なんだろうか…?」
「時間もないし、これ以上の案は出ないよ。後は全力をつくすだけだ!」
マルコがアルミンの問いに答えた。

「自信を持って、アルミンは正解を導く力がある…」
「?」
「私もエレンも、以前はその力に生命を救われた」
「そんなことが…?いつ?」


ゴゴゴゴゴゴ

「リフトの用意ができたぞ!」
「鉄砲もだ!全て装填した!!」

「自覚がないだけ…またあとで話そう」
「うん…」
ガチャ
アルミンは鉄砲を持って、リフトに急いだ。

「…俺達も行くか…」
「はい」
エリアスとアーサーは、ミカサたちの後に続いた。

「エリアス分隊長、辛かったら本当に無理しないでくださいね」
「…大丈夫だよ。さっきよりは落ち着いてきた」
「…心配です…」
「あの子達が頑張っているんだ…」
「…そうですね」

ゴゴゴゴゴゴゴ

ガコッ

リフトに乗った訓練兵たちは、鉄砲を構えた。
そのままリフトはゆっくりと下に降りていった。

「(大丈夫…数は増えていない…作戦を続行する!!)」

ガチャ

ゴゴゴゴゴゴ

クルッ

「ひっ!!」

リフトに気づいた巨人たちが、一斉に中央に近づいてきた。

「落ち着け…!まだ十分に引きつけるんだ!!」

ドクン

「待て」

ドクン

「待て」

ドクン

「待て」


「用意…撃て!!!」

マルコの合図で、一斉に鉄砲を撃った。

ドドドドドド

巨人たちの顔に当たり、視覚を一時的に奪うことに成功した。
次の瞬間、天井に隠れていた7人が、一斉にうなじめがけて飛び降りた。

「(不利な戦闘は避けるんだ…1人も死なせたくないのなら…この一撃で決めるんだ!!)」

全員の心が一つになった。

ビュッ

「(捉えた…!!)」

ミカサ、アニ、ジャン、ライナー、ベルトルトの5人は、うまく一撃で巨人を倒した。

「ウッ!!」

しかしサシャとコニーは緊張からか、うまくうなじを捉えることができなかった。

「あ…」
「サシャとコニーだ!!」
「急げ!!」
「援護を!!」

ミカサとアニがいち早く気付き、サシャとコニーの援護に向かった。

が、2人がたどり着く前に、中央の天井からエリアスとアーサーが飛び降りた。


ビュッ!


「…っ…危なかったな、サシャ、コニー」

エリアスとアーサーは巨人を一撃で仕留めた。
「大丈夫かい?」
「は…はい!!助かりましたあああ!!」

「おいおい!危なかったなアニ…怪我をしなくてよかったぜ、本当に…」
ライナーとベルトルトはアニのそばに駆け寄った。

「全体仕留めたぞ!補給作業に行こうしてくれ!」
「やった!」
全員が安堵の表情を浮かべた。

「いいぞ!一気に運べ!!」
「巨人が入ってこない!あの巨人が暴れてるおかげだ!」



エリアスは壁に寄りかかっていた。
血を流しすぎたエリアスは、支えがないと立っていることもできない状態になっていた。

「エリアス分隊長…もう大丈夫でしょう。早く壁を登って、治療を…」
「…あぁ…そうだな…」
アーサーは左手に固定されているブレードを外すために、固定ベルトを解いた。
「…ありがとう…」
「いえ…エリアス分隊長、相当我慢されていますよね…」
「…え?」
「…汗がすごいです。立っているのも辛いでしょう」
エリアスは苦笑した。

「…アーサーには隠し事ができないな…」
「誰が見てもそう思いますよ…」
アーサーは背中を出した。
「…何?」
「俺が責任をもって、エリアス分隊長を運びます」
「…1人で大丈夫だよ…」
「どう見ても大丈夫ではないです…早く乗ってください」
「…やだ…」
「…はぁ…」
アーサーは大きなため息をついた。
「…俺のプライドが許さない…」
「プライドとか言ってる場合ですか。そんな汗だくで、息も荒い…」

エリアスは諦めた。

「分かった…でもこの中では嫌だ…」
「…分かりました」


「アッカーマン」
アーサーはミカサを呼んだ。

「はい?」
「俺とエリアス分隊長は先に出る。後は任せた」
「…分かりました。エリアス分隊長は…大丈夫ですか?」
「…あぁ…」
「…有り難うございました」
「エリアス分隊長に言ってくれ」
「…はい」

アーサーはミカサの下を離れると、急いでエリアスのそばに駆け寄った。
そして、エリアスの身体を支えながら外に出た。


「さ、乗ってください」
「…はぁ…」
ため息をつくエリアスを、無理やりアーサーはおぶった。

「しっかりつかまっていてくださいね」
「…大の大人がなぁ…」
「…軽すぎます。あなた。体重いくつですか」
「…さぁね〜いくつだっけなぁ」
「もっと太ってください。すぐ折れてしまいそうです」



アーサーはエリアスを背負ったまま、アンカーを刺し、壁を登っていった。

「さぁ…着きましたよ」
「…」
「エリアス分隊長?」
「…」

何を言っても答えないエリアスの様子がおかしいと思い、アーサーはゆっくりとエリアスをおろした。

「エリアス分隊長!!エリアス分隊長!!」
エリアスは気を失っていた。

「おい!救護班!!」
アーサーは急いで救護班を呼んだ。



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