目の前には、白い天井が広がっていて、ここは病室だ…、と咄嗟に思った。
「…またここに来てしまった…」
エリアスはゆっくり身体を起こした。
脇腹の傷はしっかり縫ってあり、血が止まっていた。
肋骨と左肘は、動かないように固定されていた。
「…情けない…みんながどうなったか知る前に気を失うなんて…」
コンコンッ
「…はい」
ガチャ
「エリアス分隊長、よかった…。目が覚めたんですね」
「…あぁ…どのくらい寝ていた?」
「…ほんの2、3時間です…」
「そうか…」
アーサーの様子が落ち着かないことに、エリアスは違和感を覚えた。
「…?アーサー?どうかした?」
「…エリアス分隊長…大変なことが起こりました…」
「え?」
「…104期訓練兵である、エレン・イェーガーという少年。…彼の正体は…巨人でした…」
「…え?」
壁外−
1人の調査編団の兵士が、巨人に下半身を食われていた。
その兵士は、最後の力を振り絞って、巨人の目に刃を突き刺した。
「今に…見てろよ…お前らなんか…今に人類が滅ぼす…お前らなんか…きっと…リヴァイ兵長が…」
ブオオオオ
ヒュ
ザクッ!
巨人めがけてリヴァイは一気に進み、一撃でうなじを削ぎ落した。
ズシン
巨人が大きな音を立てて、地面の倒れた。
ヒュンヒュン
「きゃほおおおい!」
ハンジは巨人を見て嬉しそうにしていた。
「怖がらなくていいよ!痛くしないから!」
ハンジを掴もうと、巨人は手を伸ばしたが、ハンジはその手を交わし、アンカーを壁に刺した。
そのまま巨人の後ろにまわり、うなじを切り落とした。
ドサッ
「ねぇ、痛くなかったろ!」
「(右に一体…左に二体…)」
「兵長!!増援を集めてきました!!」
リヴァイの下に、ペトラという女兵士が増援を集めて戻ってきた。
「ペトラ!お前は下の兵士を介抱しろ!残りの全員は、右を支援しろ!!」
リヴァイはすぐさま指示を出した。
「え…!?」
タンッ
「俺は左を片付ける!」
ギュイイイイイイ
「揃いも揃って…おもしれぇ面しやがって…」
リヴァイは巨人の後ろの壁にアンカーを突き刺すと、巨人の後ろに回り込み回転しながらうなじを切り落とした。
その後、うまく屋根を伝いながら、もう一匹の巨人の前に飛び出した。
使いきった刃を巨人の両目をめがけて投げた。
うまく巨人の目に刺さり、視覚を奪った。
「おっと…おとなしくしてろよ…そうしないとお前の肉を…綺麗に削げねぇだろうが…」
リヴァイは巨人の頭に着地すると、そのまま飛び、巨人のうなじを綺麗に削いだ。
ザクッ!
スタッ
「…汚ねぇな畜生…」
リヴァイは手についた巨人の血痕を、すぐさま手ぬぐいで拭いた。
「オイ…」
そのまま地上に降りると、ペトラの下へと急いだ。
「ペトラ、そいつはどうだ?!」
「兵長…血が…止まりません…」
「…」
「…兵…長」
「!何だ?」
死にかけている兵士の下に、リヴァイは座った。
「俺は…人類の役に…立てたでしょうか…このまま…なんの役に…立てずに…死ぬのでしょうか…」
兵士は弱々しい声でリヴァイに聞いた。
リヴァイは伸ばされている兵士の血だらけの手を、躊躇なく掴んだ。
ギュッ
「お前は十分に活躍した。そして…これからもだ。お前の残した意志が、俺に”力”を与える」
リヴァイは兵士を見ながら、力強く答えた。
「約束しよう、俺は必ず、巨人を絶滅させる!!」
「…兵長…彼は…もう…」
「…」
兵士はなんの反応も示さなかった。
「…最後まで聞いたのか?こいつは…」
「えぇ…きっと聞こえてましたよ。だって…安心したように眠っている…」
「…ならいい…」
カツカツカツ
「リヴァイ!退却だ!」
リヴァイの下に、馬に乗ったエルヴィンが近づいてきた。
「…退却だと!?まだ限界まで進んでねぇぞ?俺の部下は犬死にか?理由はあるよな?」
「巨人が街を目指して一斉に北上し始めた」
「!!?」
「5年前と同じだ。街に何かがおきてる。壁が…破壊されたかもしれない」
「な…んだと…」
「分からない。憶測だ。しかし、その可能性がある」
「…」
「エリアスなら大丈夫だろう。あの怪我じゃ、誰も外には出さない」
「…あいつがそんな状況でゆっくり寝てるような奴だと、本気で思っているのかエルヴィン?」
「…確かにそうだな…急いで戻るぞ」
「了解だ、エルヴィン…」
リヴァイは急いで自分の馬を呼んだ。
駆け寄ってきた馬に跨がり、エルヴィンの後ろに続いた。
「(…エリアス…)」
「…どういうこと?エレン・イェーガーが巨人だった…?」
エリアスは混乱していた。
「エリアス分隊長が気を失われた後に、あなたを救護班に任せました」
アーサーのその時の出来事を説明した。
アーサーはその後、なかなか戻ってこない訓練兵たちの様子を見に、壁の外へ戻った。
そこには立ちすくんでいる訓練兵たちの姿があった。
全員が同じ方向を見て固まっていて、何があるのだ、と思ったアーサーは、同じように目を向けた。
巨人のうなじ部分からエレンが姿を現したのだ。
ミカサはエレンに駆け寄り、彼の心音を確かめるように、彼の身体を強く抱き締めた。
その姿を駐屯兵団が見ていたのだ。
駐屯兵団は、ミカサとアルミン、そして気を失っているエレンを連れて壁の中へと姿を消した。
「…俺が見たのは、ここまでです。確かに、エレン・イェーガーは巨人のうなじから現れました」
「…彼らは、今どこにいる?」
「…わかりません」
「…行こう…」
エリアスはベッドから降りた。
「エリアス分隊長!あなたは安静にしていなければなりません!」
アーサーは必死でエリアスを止めた。
二度と、エリアスにあのような苦しい思いをさせたくなかった。
「…いや、行く。大丈夫だ」
「ダメです!なぜあなたは自分の身体を大切にしてくださらないのですか!!」
「…彼が本当に巨人なら、人類の光だ。味方になったら、巨人にだって勝てる…」
エリアスはまっすぐアーサーを見つめた。
「こんなところで殺させてたまるか…」
「…エリアス分隊長…あなたって人は…本当に…」
「…アーサー…君が俺のことを心配してくれるのはすごく嬉しいよ…」
「…だったら…安静にしててくださいよ…」
「俺が…言うことを聞くと思う?」
エリアスは笑った。
「…思いません」
アーサーもつられて笑った。
エレン、ミカサ、アルミンは砲弾を受けたが、エレンが巨人化をして防いだ。
しかし、巨人の姿を見せてしまったため、余計事態を悪くした。
三人は必死にこの状況を打開する策を話し合っていた。
「オレには考えが2つある…。1つは俺が巨人化してここを離れる。オレん家の地下室に行き、秘密を解明する」
エレンは青い顔をしていた。
「アルミン、もしお前がオレは脅威じゃないと駐屯兵団に説得できると言うなら、オレはそれを信じてそれに従う」
「え…?」
アルミンはエレンの言葉を疑った。
「それができななら、最後の手段を取る、オレはどっちでも、お前の意見を尊重する」
アルミンは困惑していた。
なぜこのような決断を、自分に託すのか。
「エレン…どうして僕にそんな決断を託すの?」
「お前てやばい時ほど、どの行動が正解か当てることができるだろう?それに頼りたいと思ったからだ」
エレンは笑顔で答えた。
「いつそんなことが?」
それでもアルミンは信じられなかった。
「色々あっただろ?5年前なんか、お前がハンネスさんを呼んでくれなかったら、オレもミカサも巨人に食われて死んでた」
「…」
「アルミン…考えがあるなら…私もそれを信じる」
「(僕がかってに…思い込んでただけだ。2人の足手まといだと…。そんなこと2人は思っていなかったのに…)」
アルミンは2人の顔を見た。
「(これ以上の説得力がどこにある…。命を任せると言っている2人は…この世で最も…信頼している人間だ…)」
「アルミン…」
アルミンは覚悟を決めた。
「必ず説得してみせる!!2人は極力、抵抗の意思がないことを示してくれ!」
ダッ
アルミンは立体機動装置を外しながら走った。
ガシャ
「貴様!!そこで止まれ!!」
アルミンが走ってきたことを確認すると、駐屯兵団の兵士は声を上げた。
「彼は人類の敵ではありません!私達は知り得た情報を、全て開示する意思があります!」
「命乞いに貸す耳はない!目の前で正体を表しておいて、いまさら何を言う!」
「彼が巨人と戦う姿を見たはずです!巨人は我々人類と同じ捕食対象として認識しました!!」
アルミンはずっと気になっていたことがあった。
それは、巨人化したエレンの周囲に、巨人が群がってきたことだった。
もし、巨人がエレンを巨人として認識したのならば、捕食対象として見るはずがない。
「我々がいくら知恵を絞ろうとも、この事実だけは動きません!」
「…!!!」
「確かにそうだ…」
「奴は味方かもしれんぞ…」
このやり取りを、ライナーやジャンは屋根の上から見ていた。
「迎撃体制をとれ!奴らの巧妙な罠に惑わされるな!!奴らの行動は常に我々の理解を超える!」
「な!!」
アルミンは悟った。
「(考えることを放棄している…考えることが…怖いんだ…!)」
バッ
アルミンはエレンとミカサの方を振り返った。
「エレン…ミカサ…」
エレンとミカサは、アルミンを信じ、前だけを見ていた。
「…」
ギュッ
アルミンはそんな2人の姿を見て拳を握りしめ、前を向いた。
ドンッ!!
「私はとうに、人類復興のためなら心臓を捧げると誓った兵士!その新年に従った末に命が果てるのなら本望!!」
アルミンは敬礼をした。
「彼の持つ『巨人の力』と残存する兵力が組み合わされば!この街の奪還も不可能ではありません!!」
アルミンは必死でも頭を働かせていた。
「人類の栄光を願い!これから死にゆくせめてもの間に!!彼の戦術価値を説きます!!」
「(…どう命乞いしようと、私は規則に従うまで…規則に反するものは排除する…)」
ガシッ
「よさんか」
振り上げた腕を、振り下ろす前に1人の老兵が現れた。
「相変わらず、図体の割には小鹿のように繊細な男じゃ。お前にはあの者の見事な敬礼が見えんのか」
バッ
男は振り返った。
「ピクシス司令…!!」
「今着いたところだが、状況は早馬で伝わっておる。お前は増援の指揮に就け」
この老兵の名は、ドット・ピクシス。
「ワシは…あの者らの話を聞いたほうがええ気がするのう。」
ドット・ピクシスはトロスト区を含む、南側領土を束ねる、最高責任者であり、人類の最重要区防衛の全件を託された人物である。