「…やはり見当たらんか…超絶美女の巨人になら、食われてもいいんじゃが…」
「エリアス分隊長!」
「あ…君はジャンだね」
ジャンはエリアスとアーサーの姿を見つけ、駆け寄ってきた。
「大丈夫かい?怪我はない?」
「それはあんたでしょう!」
「大丈夫だよ」
エリアスは、ははっと笑った。
「それよりも、ジャン。君は見たのかい?」
「…エレンのことですか…?」
「あぁ…あいにく、俺は気を失ってしまって、この目では見ていないんだ」
ジャンは少し俯いたが、すぐに顔を上げた。
「はい…本当です。俺たちは、しっかりこの目で…見ました」
「…そうか…有り難う」
エリアスはジャンにお礼を言うと、その場を立ち去ろうとした。
「あ、待ってください!」
ジャンがエリアスを呼び止めた。
「どうした?」
「…俺達は…どうなるんですかね」
「…大丈夫だ。君はエレンのことをよく知っているのだろう。だったらどうなるか、分かるよね」
「…はい」
エリアスは微笑むと、その場を後にした。
兵士たちが集められた。
集められた兵士は、作戦の名前を聞き驚いた。
そして絶望した。
トロスト区奪還作戦。
扉に空いた穴を塞ぐ技術がまだないにも関わらず、トロスト区を奪還するというものだ。
兵士たちは混乱していた。
「ちゅうもおおおおおおおおおおおおく!!」
そんな中を、ピクシスの声が響き渡った。
「これより、トロスト区奪還作戦について説明する!!この作成の成功目標は、破壊された扉の穴をふさぐ!!ことである!」
ピクシスの言葉に、兵士たちは驚きを隠すことができなかった。
どのようにやるのか、兵士たちには理解できなかった。
「どうやって…?」
「穴を塞ぐ手段じゃが、まず彼から紹介しよう!訓練兵所属、エレン・イェーガーじゃ!」
「え!?エレン!!?」
「!!」
同じ訓練兵たちが驚いた。
「彼は巨人化生態実験の成功者である!彼は巨人の身体を精製し、意のままに操ることが可能である!」
エレンはピクシスの隣で敬礼をした。
「巨人化した後は、前門付近にある大岩を持ち上げ、破壊された扉まで運び、穴をふさぐ!!」
話を聞くだけだと、なんと単純な奪還作戦なのだろう。
全兵士がそう思った。
「諸君らの任務は、彼が岩を運ぶまでの間。彼を他の巨人から守ることである!」
まさか巨人化できる人間など、いるはずがない。
兵士たちの混乱は最高潮に達していた。
「今日ここで死ねってよ!!俺は降りるぞ!」
「俺も!!」
「私も!」
逃げ出す兵士たちが後を絶たない状況になった。
「オイ…このままだとまずいぞ…秩序がなくなる…」
「くっ…覚悟はいいな!反逆者共!今!!この場でたたっ斬る!」
ガシャン
「ワシが命ずる!!今この場から去る者の罪を免除する!!」
「な!?」
ピクシスの言葉に、駐屯兵団の隊長は驚いた。
「一度巨人の恐怖に屈した者は、二度と巨人に立ち向かえん!巨人の恐ろしさを知ったものは、ここから立ち去るが良い!」
ピクシスはそのまま続けた。
「そして!!その巨人の恐ろしさを、自分のカザクや愛する物に味わわせたい者も!ここから立ち去るが良い!!」
その言葉に、逃げ出そうとしていた兵士たちは歩みを止めた。
彼らはそれだけはさせられなかった。
「我々はこれより奥の壁で死んではならん!どうかここで…ここで死んでくれ!!」
こうして作戦は決行された。
「ピクシス司令…」
エリアスはピクシスに声をかけた。
「おや、君は…調査兵団のエリアス・ホワイトか…」
「ハッ」
エリアスとアーサーは敬礼をした。
「先程の話は、本当なのでしょうか。エレン・イェーガーが巨人化する…というのは…」
「本当じゃ。これからその姿を見ることができるじゃろう」
「…そうですか…」
「…主はなぜ壁内にいるのじゃ?」
「あぁ…私は今回の壁外調査は訳あって留守番になりました」
「そうか…」
ピクシスはエリアスをまっすぐ見つめ、こう告げた。
「いくら調査兵団の分隊長じゃからって、怪我人を送り出すことはできん」
「…気になさらないでください。私の意思です」
「…アーサー分隊長補佐…」
「ハッ」
ピクシスはアーサーを見やると、ため息をついた。
「苦労するの」
「えぇ、本当に」
「…アーサー…」
「エレン・イェーガーは壊された扉付近におる。エリアス…君は自由に動いてくれてかまわん」
「…ありがとうございます」
エリアスとアーサーは一礼をすると、その場を離れた。
エレンとミカサ、そしてイアン班、ミタビ班、リコ班は、岩への最短距離の位置まで壁上を走っていた。
「ここだ!」
イアンの指示で、全員が立体機動に移り、岩を目指した。
「(オレはやるしかない…みんなが囮をやってくれているんだ!絶対…穴をふさぐ…)」
この作戦が成功すれば、人類は初めて巨人から領土を奪い返すことに成功する。
その時が、人類が初めて巨人に勝利する瞬間である。
それは人類が奪われてきたモノにくらべれば…
小さなモノかもしれないが、しかしその一歩は、我々人類にとっての大きな進撃になる。
それを信じて、兵士たちは戦っている。
ガリッ
エレンは自分の手を噛みちぎった。
エレンの周りが光り、巨人が出現した。
しかし、エレンは岩を持ち上げるのではなく、ミカサに拳を振りぬいた。
その様子を、エリアスとアーサーは壁上から見ていた。
「あそこだ!アーサー!」
「はい!」
「…本当に巨人になった…」
エリアスは驚いた。
今まで巨人になれる人間なんてものは、存在しなかった。
「…彼は…我々人類の…希望だ!」
「アッカーマンに拳を振りぬいたように見えましたが…」
「コントロールできていないのだろう…」
エリアスとアーサーは、エレンたちの下へと急いだ。
「エレン!私がわからないの!?私はミカサ!あなたの家族!あなたは、この岩で穴を塞がなくてはならない!」
ミカサはエレンの顔にへばり付き、必死にエレンに問いかけた。
「…作戦失敗だ!」
リコは赤い煙弾を打ち上げた。
作戦に深刻な問題が発生した際に打ち上げる弾である。
「エレン!!あなたは人間!あなたは…」
「避けろ!ミカサ!!」
ミカサめがけて振りぬいたエレンの拳は、そのまま自分の顔を殴り飛ばした。
エレンの顔と腕がなくなり、エレンはそのまま岩のそばに座り込み、動かなくなった。
「何だこいつ…頭の悪い、普通の巨人じゃないか…」
「エレン!!」
「イアン班長!前扉から2体接近!10m級と6m級です!」
「!?」
「後方からも1体!12m級、こちらに向かってきます!!」
班員の言葉に、イアンは周りを見渡した。
「イアン!撤退するぞ!!あのガキ、扉塞ぐどころじゃねーよ!」
「あぁ…仕方ないが、ここに置いていこう…」
リコの言葉に、ミカサは振り返った。
そして、イアンやリコを睨みつけた。
それに気づいたイアンは、迷っていた。
「おい!?何迷ってんの!指揮してくれよ!」
「イアンお前のせいじゃない!ハナっから根拠の希薄な作戦だった、みんなわかってるよ」
「…」
「試す価値は確かにあったし、もう十分試し終えた!いいか?俺達の班は壁を登るぞ!」
ミタビが言い切った。
それをミカサは止めようと、彼らに近づいた。
「待て!!待て…落ち着けミカサ…」
ミカサの姿を見て、イアンはすぐ止めた。
「リコ班!後方の12m級をやれ!ミタビ班と俺の班で前の2体をやる!」
「なんだって!?」
「指揮権を託されたのは俺だ!黙って命令に従え!」
リコは聞き返したが、イアンもきっぱりと宣言した。
「エレンを無防備な状態のまま置いてはいけない!」
その言葉に、ミカサは驚いた。
イアンはわかっていた。
エレンを回収することができないが、エレンをこのまま置いてはいけない。
彼は人類にとって、貴重な可能性であり、簡単に放棄できるものではなかった。
一兵士と違い、巨人化できる兵士は、他にいないのだから。
何度でも、何人死のうとも何度だって挑戦していくべきだと、イアンはわかっていた。
「イアン!?正気なの!?」
「では!どうやって!人類は巨人に勝つというのだ!!」
イアンは自分の考えをぶつけた。
「人間性を保ったまま、人を死なせずに!巨人の圧倒的な力に打ち勝つにはどうすればいいのか!教えてくれ!」
キュンキュン
タンッ
「!!?」
「ふう…やっと着いた…」
「エリアス分隊長、無理はしないでくださいね」
「わかってるよ…あ、イアン」
イアンは突然現れた2人に驚いた。
「エリアスさん…アーサーさん…」
「久しぶりだね」
エリアスはあたりを見まわした。
「彼が…エレンか…」
「エリアス分隊長…」
ミカサに気づいたエリアスは、ミカサに近づいた。
「やぁミカサ。元気かい?」
「はい…エリアス分隊長は…大丈夫ですか?」
「これくらい大丈夫だよ。…それよりも、この状況…絶望的だね」
「…エレンが私の声に反応しないんです…」
「そうか…」
エリアスは自分のブレードに手をかけた。
「イアン、俺とアーサーで前の2体をやるから、後ろは任せたよ」
「な!エリアスさん!」
「早くしないと他にも巨人が寄ってくる」
「わ…わかりました!!リコ班、ミタビ班、俺に続け!」
「…わかったよ!最後まで足掻いてやる!」
「立ち話がすぎたな、俺達も行くぞ、イアン!」
「…あぁ」
エリアスとアーサーは、前方の2体の巨人目掛けてガズを蒸かしていた。
キュンキュン
パシュ
ギュイイイイイイ
ザシュ
2人はほぼ同時にアンカーを刺し、それぞれ巨人の後ろに回り込みうなじを削いだ。
「よし、綺麗に削げた」
「…リヴァイ兵長みたいな言い方しないでくださいよ…」
「あ。ごめんごめん」
エリアスは倒した巨人の頭の上に乗った。
「…こっちに向かっている巨人が増えてないか?」
「…そう思います」
「まさか…エレンにつられて…」
エリアスはエレンの方を見た。
そして、壊された扉から巨人が入ってくる姿と、後方からエレン目掛けて近づいてくる巨人の姿を確認した。
「…まずいな…」
「…イェーガーが意識を取り戻してくれないと、俺達も厳しいですね」
「…あぁ…とりあえず、エレンを守ることに集中しよう」
エリアスはブレードを逆手に持ち替えた。
「エリアス分隊長の本気ですね」
「…リヴァイとやり合ってたら、この持ち方じゃないとしっくりこなくなっちゃってさ…困るよ」
ふふっとエリアスは笑った。
「傷は大丈夫そうですか?」
「あぁ、すこぶる調子がいいよ」
「…嘘つかないでください」
「本当だって。あの時よりも、ずいぶん身体が軽くなったよ」
「…サポートしますから」
「ありがとう…。じゃぁ…行こうか」
エリアスとアーサーは、扉から入ってきた新たな4体に向かっていった。