幼なじみの雅人くんが、首の後ろを搔きながら
「うぜぇ…チクチクする」
「チクチク?」
「よくわかんねーけど、こう首の後ろがうざってぇ」
「え、大丈夫?皮膚科でも行く?」
「そういうんじゃねぇな…」
よく分からないけど、とても不快なことという事実だけは伝わってきた。
それが後に、サイドエフェクトと呼ばれる、優れたトリオン能力を持つ者に発現することがある特殊能力ということを知るのだけれど、この時は雅人くんのこのチクチクが、何なのか分からなかった。
「なんだろうね」
「あー…なんとなくムカつく感情を向けられてることだけは分かる」
「え?」
「ん…」
雅人くんが睨んている方向を見ると、男の子たちが数人、こちらを睨んでいた。
というよりも雅人くんを睨んでいた。
「隣のクラスの子たちだよね。何かあった?」
「なんもねー。あいつらがしつけーからボコった」
「そんなことしたの?」
「おめーのこと色々聞かれてうざいんだよ」
「…ごめん」
「…わりぃ」
雅人くんは私の手を取って、そのまま歩き出した。
「帰るぞ」
「うん」
そう言って、少し小走りになりながら、でも繋いだ手はそのままで、私たちは家に帰った。
雅人くんのサイドエフェクトが発現してから少しして、私にもおかしなことが起こり始めた。
時々、目の前の出来事がスローモーションに見える。
例えば、みんなで体育の時間にドッチボールをしている時に、ボールがくる!と思ったら、そのボールがゆっくり動いているように見える。
だから私は簡単にボールを避けられるし、キャッチもできた。
他にも、歩いている人が転びそうになったところを助けたり、机から消しゴムが落ちそうになったら、落ちる前に拾えたりするようになった。
視力が良くなった?
では片づけられない現象だったけど、日常生活で困るようなことではなかったので、私は誰にも言わなかった。
雅人くんは、サイドエフェクトのせいで人付き合いが苦手になっていった。
それは、私たちが中学生になっても変わらなかった。
中学の3年間は、雅人くんの世界には私しかいないんじゃないかと思うくらい、本当に人付き合いができなかった。
その雅人くんが変わったのは、1年前に起きた大規模なネイバーの侵攻の後に公になったボーダーの存在だった。
「俺はボーダーに入る」
私にそう告げた雅人くんは、心なしか楽しそうに見えた。
「ボーダーって、あの?三門市にある」
「あぁ」
「いつの間にそんな話になってたの?」
「少し前…」
「ふーん」
私に何も言わずに決めてしまった雅人くんを見つめていると
「おめーはくんなよ」
「…私も入ろうかな」
「人の話聞いてんのか!」
「…だって、ボーダーに入ったら忙しくなって、なかなか会えなくなっちゃうじゃん」
「おま!何バカなこと言ってんだよ!」
「雅人くんはさみしくないの?私は雅人くんと会えなくなるのはさみしいよ」
「誰もんなこと言ってねーだろ!」
「じゃぁいいでしょ?一緒にボーダー入りたい」
「試験だってあんだよ。それに危ねぇだろ」
「雅人くんが受かる試験で私が落ちると思う?」
「バカにしてんのか」
私が言い出したら聞かない性格ということを知っている雅人くんは、しぶしぶ一緒に入隊試験を受けることを許可してくれた。
私たちは、その年の3月の入隊試験を受けた。
無事に入隊試験を合格し、防衛隊員となった。
ボーダーに入って、雅人くんと私の能力が、サイドエフェクトであるということを知った。
「なんで言わなかった」
「日常生活に支障が出るわけでもないから」
「…そうかよ」
「言わなくてごめんね」
「…別に」
黙っててごめんね、と思いつつ、自分でもサイドエフェクトとは気づかなかったのだから仕方ない、と開き直ってみせた。
4月になって、私はボーダー提携の六頴館高等学校に進学し、雅人くんは三門市立第一高等学校に進学した。
同じ高校に通うか迷ったけど、さすがに偏差値が違いすぎて
「おめーは自分に合った高校に行け」
と雅人くんに言われてしまった。
学校が終わると、毎日のようにボーダーの本部に私たちはC級からB級に上がれるように、個人ランク戦に力を入れていた。
私たちのサイドエフェクトは、戦闘向きで意外と簡単にC級からB級に上がることができた。
「雅人くん」
「あ?」
「これから頑張ろうね」
「…あぁ」
私たちがB級に上がったころ、北添くんがボーダーに入隊した。
雅人君と北添くんは、見た目も性格も正反対なのに、なんだか意気投合して、毎日のように個人ランク戦をしていた。
同じ学校ということもあって、学校でもよく一緒にいるみたいで嬉しくなった。
「雅人くんに友達ができて、ちょっと安心したよ」
「あぁ?そんなんじゃねーよ」
「えぇ!それはひどい。ゾエさん泣いちゃう」
「うぜぇ!」
「そういえば、チームのランク戦が始まるんだよね?」
「そうみたいだね。二人はどうするの?」
「そうだねー。楽しそうだけど、チームをどうするかだよね」
「俺たちが組めばいいだろ」
「やっぱり?ゾエさんもそれがいいと思ってたんだよね!」
「私もいいの?」
「もちろんだよ!苗字ちゃんがよければ」
私はちらっと雅人くんのほうを見た。
どうなの?私でいいの?という意味も込めて。
「…おめーはサポートがうめーから、俺が前線で暴れられるようにしとけ」
「…うん!」
こうして、私たちはチームを組むことになった。
チームを組むにはオペが必要だったけれど、最初はオペなしで3人で活動していたけど、9月に入隊した仁礼光ちゃんがオペレーターをやってくれることになり、影浦隊が本格スタートとなった。