体育祭03

「いやー、さすがに人、一人おんぶして走るのはしんどいね」
「たしかにな」
「でも二人とも速かったね。おつかれさま」

去年と同様、荒船、犬飼、そして女主人公は三人でお昼を食べた。

「この後は借り人・物競争だね」
「今からドキドキ」
「どんなお題が出るかなー」
「借りにくいお題じゃないといいんだけどね」
「楽しみにしてるぜ」

荒船は女主人公に借りられる気満々だ。

「荒船くんを借りられるとは限らないんだからね」
「わかってるよ」
「本当にわかってる?」

荒船の反応を見て心配になる女主人公だった。







『さて皆さんお待ちかね!やってきましたよー今年も!借り人・物競争のお時間です!』

放送部のアナウンスが始まった。

『借り人・物競争に出場する人は、テント前に集合してください』

「行くぞ」
「はーい」
「二人とも頑張ってね!」

犬飼に見送られて、荒船と女主人公はテントに向かう。

「じゃああとでね」
「おう」

女子と男子は待機列が違うため、二人はテントの前で別れた。

『はい、それではまずは女子のレースがスタートします!』

女子がスタートの列に並ぶ。

「あ、宇佐美さんだ」

女主人公は前の方に並んでいる宇佐美を見つけた。
レースは1年生、2年生、3年生の順で始まるので、女主人公は最後の方だ。

『それでスタートします!』

「位置について、よーい、ドン!」

まずは1年生の借り人・物競争が始まった。
1年生、そして2年生の宇佐美のレースが終わり、とうとう3年生の番になる。
女主人公の番は3年のレースの最初なので、すぐに順番が回ってきた。

『次は3年生1回目のレースです!』

「位置について。よーい、ドン!」

借り人・物競争なので、あまり真剣には走らない。
全員が軽めに走ってお題を選んでとった。

「…これは…」

『おーっと苗字さんがお題を引いて、その場で固まった!!いったい何が書いてるのか、男子たちは興味津々です!』

女主人公のお題は、”名前に『る』のつく異性”だった。

「名前にる…犬飼くん…」

女主人公がまず最初に思いついたのは犬飼だった。
犬飼の名前は澄晴。
すみはるなので名前にるがつく。
が、しかし。
このお題では荒船を連れて行くことができないので仕方がない。
けど、その代わりに犬飼を連れて行くとなると、犬飼が荒船に斬られてしまう可能性があるので、女主人公は犬飼を連れて行きにくかった。

「…他に…あ!」

女主人公は自分のチーム、白組の2年生がいるエリアを見た。
そしてお目当ての人を発見し、走っていく。

「奈良坂くん!」
「!はい」

『苗字さんが向かったのは、2年のイケメン奈良坂くんだー!!』

「ごめんね、一緒に来てもらえるかな?」
「いいですよ。俺でいいんですか?」
「奈良坂くんじゃないとだめなの」
「わかりました」

『苗字さんが奈良坂くんの手を取ってゴールに向かいます!それをものすごい目で見ている荒船哲次!顔が怖いぞ!』

今実況をしている放送部は、3年B組の生徒なので荒船と女主人公のことをよく知っている。
そのため、こんなツッコミが入った。

「俺、荒船さんに殺されないですか?」
「その時は私が守るね」

『ゴール!苗字さんは2位です!お題を確認します。お題は、名前にるのつく異性でした!これは仕方ない!』

そう、仕方ないのだ、という意味も込めて女主人公は荒船を見る。
さきほどよりは怒っていないように見える荒船の表情に、少しだけ安心する女主人公。

『お名前は?』
「奈良坂透」
『はい、OKです!自分の名前にるがついてなかった荒船哲次は後輩を睨むのをやめなさい!』
「次の合同訓練が怖い…」
「ごめんね、ちゃんと言っておくからね」

女主人公と奈良坂は最後のレースが終わるまでゴールの待機列で待つ。

『女子のレースが終わりました!女子のみなさんお疲れ様でした!席に戻ってください』

「奈良坂くん、ありがとう」
「役に立てて良かったです」

女主人公と奈良坂は自分たちの席に戻る。

「苗字ちゃんおつかれー!」
「ありがとう」
「名前にる、だったらおれでも良かったんじゃないの?」
「最初は犬飼くんにしようと思ったんだけど、荒船くんを連れて行けないのに犬飼くんを連れて行ったら、確実に犬飼くんが斬り刻まれると思ったから。奈良坂くんなら手荒な真似はできないでしょ」
「たしかに…苗字ちゃんの優しさのおかげで助かったよ」

犬飼なら雑に扱っても大丈夫、と思っていそうな荒船なので、女主人公のファインプレーである。

『次は借り人・物競争の男子の部です!今年もえげつないお題がたくさんあるので、特に3年生は覚悟していてくださいね!』

放送部のアナウンスで、会場は盛り上がった。

「うわー、今年はどんな感じなんだろうね」
「言っても、そこまでひどくないと思いたい」
「荒船くんの勝ち誇った顔…」
「本当だ」

荒船は恋愛系のお題ならなんとでもなる、と思ってるようだ。

『さー、まずは1年生のレースがスタートします!』

1年のレースにはボーダー関係者は誰も出ていない。
あっという間に1年のレースが終わり、次は2年生。

「お、辻ちゃんの番だー」
「辻くん大丈夫かな」

女主人公は不安そうな目で見ているが、犬飼は面白そうに見ている。

辻のレースが始まり、お題を確認した辻が固まったのが見えた。

「ありゃ固まっちゃった」
「お題なんなんだろう?」

復活した辻は、女主人公と犬飼のもとに走って来た。

「辻ちゃん、お題なんだったの?」
「…これです…」

お題を見てみると”彼氏のいる女子”と書いてあった。

「これはエグい」
「苗字さん、、は、だ、だめ、ですよね?」

辻は絶望した顔で女主人公を見る。

「うーん…助けてあげたいんだけど、あっち見て」

辻は振り返って女主人公が指をさした方向を見る。

「!!」
「うわー般若がいる」

借り人・物競争の待機列には、辻のことを般若のような顔で睨みつけている荒船がいた。

「苗字さんのしし、知り合いで、いますか?」

辻は助けを求めるように女主人公に聞く。

「うーん、あ。鈴木さん」

女主人公は鈴木を呼ぶ。

「どうしたの?」
「鈴木さんって付き合ってる人いたよね?」
「うん!他校だけどいるよー」
「そしたら辻くんと一緒に走ってあげてくれないかな?」
「私は全然いいよ!」
「辻ちゃん大丈夫?」
「ははは、はいいいはい!」
「落ち着いて」
「大丈夫?」
「異性が苦手な子なの」
「なるほどね。よし、じゃあ辻くん走るよ!」
「はいい!!」

辻は鈴木に連れて行かれ、顔を赤くしながらゴールに向かって走って行った。

「セーフ」
「荒船くんの顔、怖すぎるんだけど…」
「あれは般若だね」

女主人公がもう一度荒船を見ると、そこには落ち着いた顔をした荒船がいた。

「機嫌は直ったみたい」
「それなら良かった」

2年生のレースも終わり、とうとう3年生のレースになった。

『最後の3年のレースになります!3年のレースは結構やばいので、リタイア可能ですよ!』

放送部のアナウンスで頭を抱える選手が多数。
その中で、荒船だけは堂々としていた。

「あそこまで去年と違うと笑えてくるんだけど」
「本当に。私を連れて行けないお題だったらどうするのかしら」
「それはそれで面白いよね」



「位置について。よーい、ドン!」

『さあ始まりました!3年生1回目のレースです!』

一斉に小走りでお題を取りに行く。
荒船は少し悩んだが一番近くにあったお題の紙を取った。

『お題を取って笑っている人、落ち込んでいる人、顔を青くしている人、反応が様々な面白いです!』

お題を確認した荒船は、少し驚いたが、そのまま女主人公の方に走っていく。

「やっぱり来た」
「お題が苗字ちゃん絡みで良かったね」

「女主人公!」
「はい」
「俺と一緒に来てくれるよな」
「お題によるかなー」
「なんでもいいだろ」
「どうせあっちで確認されるんだから、今見てもいいじゃない」
「ほらよ」

荒船のお題は”初恋の人※いなければ初めての彼女”だった。

「このお題を引ける荒船くんの運の良さ」
「お見事」
「これ、どっちもいなかったらリタイアってことでしょ」
「えげつないー」
「どっちもおまえだし、俺にはラッキーだったな」
「本当にね」

女主人公は荒船の差し出した手を取る。

「行くぞ」
「うん」

二人は仲良く手を繋いでゴールをした。

『今年も荒船くんは苗字さんを連れてくると思ったよ!お題を確認します。お題は、初恋の人、いなければ初めての彼女、ですが、どっちですか?』
「どっちもだな」
『なんと!荒船くんの初恋兼初めての彼女は苗字さんなんですね!おめでとう!幸せになれよ!』

放送部のアナウンスを聞いて、全校生徒が少しざわついた。
これで、この学校で荒船と女主人公が付き合っていることを知らない人がいなくなった。

「これも狙い?」
「俺のだってわかったら、もう手を出そうとするやつは出てこないだろ」
「同じセリフをそのまま返すね」



借り人・物競争が終わり、午後の種目も一通り終わった。
最後の紅白リレーは、白組が勝って、今年も白組が優勝して高校最後の体育祭が終了した。



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