クラス替えがないので、今年もクラスメイトは同じメンバーだ。
修学旅行で付き合い始めた二人だが、特に積極的に付き合い始めたことを誰かに言うわけではないので、知っている人は限られた仲の良い人たちだけ。
高校では同じB組のクラスメイトと、犬飼しか知らない。
クラスメイトがなぜ知っているのかというと、荒船の態度が露骨になったからだ。
「…荒船くん…」
「なんだ?」
「…この手は何?」
女主人公は自分の右手を見た。
そこには荒船の手がある。
「気にするな」
「気になるわよ。手を離してほしいんだけど」
「なんでだよ」
「読書したいんだけど」
休み時間になるたび、荒船は女主人公の手を握る。
そのため、付き合い始めた次の月曜日には、クラス中に女主人公と荒船の関係が本当の恋人になったことが知れ渡った。
「少しは自重しなさい」
「とうぶんは無理だな」
「荒船の気持ちが強すぎて苗字さん引いてんじゃん」
「引いてねーよな?」
「引いてはいないけど…人前ではやめてほしい」
女主人公がそう言うと、荒船はしぶしぶといった様子で手を離す。
「荒船って、恋愛に興味ないんだと思ってた」
「女主人公にしか興味がないだけだ」
「ねえ、付き合い始めてからオープンにしすぎじゃない?苗字さん大丈夫?」
「ちょっとビックリするけど、人前じゃなければまあ…」
「荒船のこと好きなんだね」
「それはね」
女主人公の言葉に少し照れた様子の荒船を見て、同じクラスの佐々木は死んだ目で「リア充爆発しろ」と言った。
今日は体育館に全校生徒が集まり、部活紹介が行われている。
新しく生徒会長になった蔵内が最初にあいさつをして、それぞれ部活が順番に部活の中心メンバーと壇上に上がって、活動内容とコンセプトなどを紹介する。
部活紹介の最後に、それぞれ一つ技を披露している。
「1年生のみなさん、入学おめでとう。生徒会長の蔵内だ。今から部活動紹介を始める。基本的に六頴館では、全校生徒が部活に入ることを推奨している。どんな部活があるか、最後まで見て参考にしてほしい」
蔵内のあいさつがおわり、まずはサッカー部から部活紹介が始まった。
「1年生のみなさん、入学おめでとう!俺たちはサッカー部です」
サッカー部は部長が前に立ち話をして、レギュラーと控えの選手がその後ろに並んでいる。
紹介の最後に、全員がその場でリフティングを披露した。
「ありがとうございました!」
新入生、それから在校生から拍手が送られる。
そのまま野球部、バスケ部、と運動部が続いて、その次は文科系の部活の部活紹介になる。
ボーダーも部活として認められているので、ボーダーも最後に部活紹介に出ることになっている。
「みなさんもお茶の世界を感じてみてください、入部お待ちしております!」
文化部の最後の部活、茶道部の部活紹介が終わり、ボーダーの番になった。
ボーダーはオペレーターも含めて全員で18人。
新入生である1年生の5人を除いた13人が、全員壇上に上がる。
3年生の中で、一番ランクの高い犬飼が話をする。
「新入生のみなさん、こんにちはー!ボーダー隊員の犬飼です。我々ボーダーは、市民のために戦う民間組織です。ボーダーでは現在500人以上の隊員が在籍していますが、まだまだ隊員募集中です。少しでも気になってくれたら、一度入隊試験を受けに来てくださいね!」
犬飼がニコリと笑うと、女子から歓声が上がる。
「犬飼、自分の顔わかってんな」
「そういうこと言わないの」
犬飼の笑顔に、別の意味で笑っている荒船。
「こんな感じかな?ボーダーは特にこれといって見せられる技がないからあれなんだけど。どうする?荒船くん、バク転くらいしとく?」
「なんでだよ」
「いやー、運動能力が高いぞってとこを見せておこうかなって」
「意味わかんねーな」
そんなやり取りをしていると、前の方に座っていた1年生の女の子たちから「バク転見たいでーす!」という声が聞こえてきた。
「見たいのかよ」
「荒船さん…勇者…女子…」
「辻くん、気絶しないで」
荒船は女主人公のことを見ると「どう思う?」と聞いた。
「可愛い1年生の頼みじゃない?やってあげたら?」
「へいへい」
荒船はそう言うと、制服のブラザーを脱いで女主人公に渡して「ちょっと端によれ」と声をかけた。
壇上にいる女主人公や犬飼、綾辻たちが端によると、荒船はその場で軽くストレッチをする。
周りを見て安全を確かめると、勢いをつけるために腕を大きく上に振って、そのままの勢いで後ろに大きくジャンプをする。
そして、床に手をついた後、床を押し返して着地した。
「キャー!!」
「荒船先輩かっけえええ!」
「すごーい!」
1年生だけではなく、2年生や3年生からも歓声が上がる。
「すっご」
「荒船さんかっこいいー!」
「苗字先輩!荒船さんすごいですね!」
「ね。チラッと見えたお腹がセクシーだったね」
「そこですか!」
バク転を終えた荒船が女主人公の横に戻ると「どうだった?」と聞いた。
「かっこよかったよ」
「だろ」
「お腹がセクシーだった」
「はあ?」
女主人公の言葉に荒船は頭にはてなマークを浮かべた。
そんな荒船に女主人公はブレザーを渡した。
「これで荒船さんファンが増えちゃいますね」
「うらやましい…」
「辻くんは女の子と話せるようにならないとね」
「はひ、ひゃい!」
「いいんですか?苗字先輩?」
「荒船くんがモテるのは今に始まったことじゃないからね」
「たしかにそうですね」
氷見の言葉に荒船は「俺は女主人公しか見てないから安心しろ」と言った。
「荒船くんがこんな感じだから、ファンが増えても問題ないのよね」
「苗字先輩、愛されてますね!」
「うん」
ボーダーの紹介が終わり、全員が列に戻る。
部活紹介が終わってから、1年生の荒船ファンが急増。
特に、体育の授業では1年生の教室から歓声が上がるようになった。
「…うるせえ…」
「普通は喜ぶだろ!」
「うるせえだけだろ!」
「荒船じゃなかった殴られてるぞー」
同じクラスの佐々木が荒船にツッコミを入れる。
「女の子たちからキャーキャー言われてなんでそんなに機嫌が悪いんだよ」
「…女主人公がいつも通りだからだよ」
荒船は、自分が女の子たちから騒がれていても、嫉妬せずいつも通りの女主人公に不満を持っていた。
「それ、本人に言ったらどうだ?」
「カッコ悪くて言えるか!」
「いや、もうすでにカッコ悪いから同じだろ…」
荒船の様子に佐々木はあきれた様にそう言った。
「女主人公に嫉妬されたい!」
「カッコ悪い…」
荒船の発言に、心底そう思う佐々木だった。