仲間外れにならないように、言われたことはなんでもやってきたけど、さすがに今回は少し怖い。
警戒区域の中に入って、ネイバーの写真を撮ってこい、だなんて、下手すりゃ死ねと言われているようなものだ…。
「それでも断れないのがおれなんだよな…」
こんな、モブの言葉なんて、誰も拾ってくれたりしない。
おれはとりあえず、警戒区域の中に入って、さっさとネイバーの写真を撮ることにした。
「て言っても、ネイバーってどこから出てくるんだ?」
実際にネイバーが出てきた瞬間を見たことがないから、想像ができない。
その辺を歩いていると、黒い服を着た3人組が見えたので、おれは近くの家の陰に隠れた。
「ヒカリ!そろそろ交代の時間だろ?」
『まだあと1時間あんだろ。黙って働け!』
「クソ!」
あれは、隣のクラスの影浦。
見た目が怖くて喋ったことないけど、やっぱりこえぇ…。
そう思っていると、近くの空に黒い丸い物体が現れた。
「な!なんだあれ!」
バチバチっと嫌な音を立てながら、中からネイバーが出てきた。
「あ、あれがネイバー…!」
「やっと出てきたな!暇すぎて死ぬかと思ったぜ!」
『おまえなあ…さっさと片付けろよ』
「わーってるよ」
『女主人公、ゾエ、近くにもう一つゲートが開いたっぽい。そっちにも向かえ』
「苗字、了解」
「オッケー!」
目の前で影浦と同じクラスの北添、そして女の子が戦っている。
「これがボーダーか…」
戦う三人がすごすぎて、ついつい家の陰から出てしまった。
そんなおれに気づいてネイバーの一匹が、おれに向かってきた。
「う、うわああああ!!」
自分の頭を抱えてその場にうずくまる。
こんなの写真撮ってる場合じゃねえ!!
「アステロイド!」
女の子の声と、爆発音が聞こえてきたので、おれは恐る恐る目を開ける。
「大丈夫ですか?」
「あ…はい…」
目を開けると、そこには女神のような綺麗な人がいた。
「ここは危ないので」
そう言って女神はおれに手を差し伸べた。
おれがその手を取ると、女神はおれに向かって微笑んだ。
「よかった。ケガはなさそうですね」
「はい…」
「そしたら、申し訳ないのですがボーダー本部まで来ていただけますか?」
「はい…」
おれは女神の後についていくと、影浦と北添のもとに向かっていることがわかる。
「あ?誰だてめー」
「あれ?同じクラスの岡くんじゃん。どうしたの?」
「あー…友達と遊んでて、罰ゲームで」
「ここ、警戒区域だから入っちゃだめだよー!怒られちゃうよ」
「ごめん…」
「ヒカリちゃん、一般市民の方が警戒区域内にいて保護したの。どうすればいいか、聞いてもらえるかな」
『勝手に入ってんなよなーまったく』
とりあえずおれは、ボーダー本部に連れて行かれるようだ。
「さて、きみはなぜ警戒区域の中にいた?」
「…すみません…」
ボーダー内に入ると、個室のようなところに通されて、目の前には怖そうな男の人が。
「興味本位で入られては困る。今回は、隊員が近くにいたから無事だったが、今後もそうとは限らない。自分の命を大切にしてほしい」
「はい…ごめんなさい」
この人の言う通りだ。
いくら仲間外れにされたくないからって、こんなこともう絶対したくない。
「記憶封印措置をしますか」
「そうだな」
記憶を封印…!?
そんなことされたら、女神との出会いの記憶も消されてしまう!
それは何としても避けたい!
「あ!あの!おれもボーダーに入りたいです!」
「…何?」
「おれがボーダーに入ったら、記憶もそのままですか?」
「それは…まあそうなるが、理由を聞いてもいいか?」
「えっと…」
ここでバカ正直に女神との記憶を消したくない、とは言えない。
「クラスメイトが戦っている姿を見て…おれも何かできないかなって考えました!」
「…なるほど」
とっさに出た嘘だったが、全てが嘘というわけではない。
「わかった。まずは入隊試験を受けてもらう。もし適性があると判断されれば、そのまま戦闘員として活動してもらう」
「はい!ありがとうございます!」
「ボーダーはいつだって人手不足だ。理由はどうであれ、ボーダーに興味を持ってくれるのは、こちらとしても助かるからな」
「はい!」
良かった。
なんとか記憶は封印されずにすみそうだ。
「とりあえず、今日はこのまま帰りなさい。入隊試験の書類だけ渡しておく」
「ありがとうございます!」
おれは書類を受け取って、職員の人についてきてもらって地下通路から外に出る。
「あの…」
「はい?」
地下通路の入り口で、おれは職員の人に話しかけた。
「今日、おれを助けてくれたのは誰ですか?」
「…?クラスメイトなんですよね?」
「あ、それは男の、北添だけです。影浦は隣のクラスなんで知ってますけど、あの女の子のことは知らなくて」
「…ごめんなさい。隊員の情報はあまり簡単には言えないの。特に彼女はあの容姿もあって、かなり目立つ子だから、一般市民でも知りたがる人が多いのよね」
「…そうですか…すみません」
そりゃあそうだ。
あんなに綺麗で強い人だ、ファンも多そう。
「気を付けて帰ってください。もう二度と警戒区域の中に入らないように」
「はい」
おれはそのまま家に帰った。
次の日、登校したらすぐに北添に話しかけにいく。
「おはよう」
「岡くん、おはよう!昨日は災難だったねー」
「うん、昨日はありがとう」
「ううん。無事でよかったよ!」
そんな話をしていると、いつもおれをいじってくる友達がやってきた。
「おい岡!写真撮れたか?」
「…ごめん、撮れなかった…」
「はあ??何やってんだよ!」
「ごめん、やっぱり今回のお願いは聞けないや。それにこんな危険なことは面白がってやることじゃないと思うんだ」
「…岡、おまえ生意気。もういいわ」
彼らはそう言うと、自分の席に戻って行った。
よし、言ってやったぞ!
今まで怖くて言い返せなかったけど、言ってやった!
これで、堂々とボーダーの入隊試験を受けることができそうだ。
「岡くん、なんだか雰囲気が変わったねー」
「そうかな?そうだ、おれもボーダーに入隊したいって思ってるんだ」
「本当?大歓迎だよ〜!入隊試験頑張ってね!」
「ありがとう」
おれは昼休みに、隣のC組に向かった。
「いた…けど、話しかけにくいなー…」
おれは影浦にあの女神のことを聞きたかった。
本当は北添に聞けばよかったんだけど、なんとなく、女神のことは影浦に聞かないといけないかなと思った。
たが、影浦は村上、水上、穂刈の4人で固まっていて、話しかけにくい。
教室の入り口でグダグダしていると、影浦と目が合った。
話しかけてもいないのに、なんで気づかれたんだ?
「おい!さっきからうぜーんだよ」
「ひいぃぃい!」
「カゲ、おまえ怖いぞ」
「そんなんやから声かけにくいんやろ」
「うるせーな!用があんならとっとと話せ!」
影浦に怒鳴られて、おれは転びそうになりながらも影浦たちのそばに行く。
「あ…昨日はありがとう」
「あ?」
「なんだ?何かあったのか?」
「…」
「昨日、警戒区域の中でネイバーと遭遇した時に助けてもらったんだ」
「そうなのか?」
「俺が助けたんじゃねーよ」
「ゾエか?」
「あ、あの女神様…」
「女神様?」
おれがそう言うと、3人は少し考えて、すぐピンときた顔をした。
「女神な」
「女神だな」
「女神やな、たしかに」
影浦はおれのことを睨みながら「んで、その女神がなんだよ?」と聞いてきた。
顔が怖すぎて話す気失せるんだけど!!
「その…あの女神様の名前が知りたくて…」
「あ?」
「助けてもらったから、そのお礼がしたくて…」
「礼なんざいらねーよ!てめーが特別で助けたわけじゃねー!ボーダー隊員としてやったことだから勘違いすんじゃねーよ」
キッパリと否定されてしまった。
たしかに、おれだけが特別だなんて思ってなかったけど、もう少し夢を見せてほしかった…。
「あのな、あの女神はカゲの女神なんだよ」
「え?」
「鋼!おめー、余計なこと言うんじゃねー!」
「せや。カゲだけの女神やから、あきらめえ」
「そうだな」
どういう意味だ?
「やめろって言ってんだろ!」
「今ここでわかっといてもらったほうがええやろ」
「ボーダーに入るんだろう?ならいつか知ることだしな」
ちょっとよく意味が分からないけど、予鈴が鳴ったのでおれは自分の教室に戻った。
その後、北添に意味を聞くと「ああ、その女神はカゲの彼女だよ」と言われた。
遠回しに言うんじゃなくて、ハッキリ言ってくれよ!
おれもボーダーに入ればかわいい彼女ができるかな…。