07

「すみくんすみくんすみくーん!!」

今日もおれの双子の妹は元気いっぱいです。

「はいはい、どうしたの女主人公?」
「ねえ!すみくん!水上くんって知ってる!?」
「水上くん?知ってるよー、生駒隊でしょ」

最近、生駒隊はどんどん成績を上げてきているし、同い年なんだからもちろん知っている。
というか、女主人公は学校が同じなはず。

「水上くんがどうしたの?」

おれがそう聞くと、女主人公から衝撃的な言葉が出てきた。

「…わたし、水上くんのこと好きになっちゃったかも…!」

「…は??」







どういうことだ。
あの、イケメン大好きな女主人公から出てきた恋の相手は、まさかの水上くん。
なんで?
どういうこと?
そりゃあね、水上くんが不細工とは言わないけれど、イケメンと言われると、そうでもない。

「水上に殴られるぞ」
「あ、声に出てた?」
「人のこと引っぱってきといて、一人の世界に入ったかと思ったらそれか!」

昨日の女主人公の発言が、あまりにも衝撃的すぎて、正直あの後のことをあまり覚えていない。
返事をしなくなったおれに「変なすみくん!」とぷんぷん怒って、女主人公が部屋から出て行ったのは、なんとなくだけど覚えている。
一人では抱えきれない案件なので、昼休み、B組に直行して荒船くんの腕を引っ張って学食に来た。

「ねえ!どういうこと!!」
「しらねーよ!」
「女主人公の恋の相手が水上くんって!!なんで!!」
「反面教師なんじゃねーの?」
「なにそれ!!」
「味の濃いもんばっか食べてると、薄味のもんが食べたくなんだろ。そういうことだ」
「おれの顔が濃いって言いたいの!?」
「しらねーよ!つーか、どうしてそうなったのか聞いてないのか?」
「…聞いてない…」
「話はそっからだろ」

おれの様子に、荒船くんはため息をついた。
ため息をつきたいのはこっちなんだけど。

「相手が王子くんって言われたほうが、まだわかるんだけど」
「女主人公の好みだろ」
「女主人公の好みは嵐山さんなんだってー!」
「それはアイドル的な目線だろ。本気の相手は水上だったってことだろ」
「…解せぬ」
「とりあえず、女主人公にどういう状況で好きになったのか聞いてこい」
「聞けないよー!!荒船くん一緒に来て!」
「めんどくせぇな!」



放課後なって、おれと荒船くんはボーダーに向かう。
C級のブースに来てみたけど、女主人公の姿はない。

「今日はもう来てるはずなんだけどな…」
「どこにいるんだ?」
「聞いてみる」





その頃、女主人公はスナイパーの訓練場にいた。

「隠岐くん、水上くんの好きなもの教えてー」
「水上先輩ですか?たしか、将棋と落語とかちゃいますか?」
「将棋…落語…わたしには難しくてわからないやつだ…」
「女主人公先輩、急に水上先輩のこと聞いてきて、どうしたんです?」
「えー聞いちゃう?それ聞いちゃう??」
「あー、やっぱ聞かんほうがええ気がしてきました」
「なんでよ!隠岐くんなら聞いてくれると思ったのに」

水上に恋をした女主人公は、同じ生駒隊の隠岐に、水上のことを色々聞いていた。

「なんとなくですけど、女主人公先輩、恋してはります?」
「うふふふ〜わかる?」
「わかりますよ〜」

そんな二人の姿を、他のスナイパーたちは不思議そうな目で見ていた。

「なんで女主人公先輩がいるんでしょう?」
「さあな」

と、そこに犬飼と荒船がやってきた。

「あ!女主人公!」
「あれーすみくん!荒船くんもいるー!」
「もう女主人公!何してるの!スナイパーじゃないでしょ」
「ちょっと隠岐くんとお喋りしてたの」
「何?」
「犬飼先輩、誤解ですよー!おれは女主人公先輩に色々と聞かれてただけです」
「…そうだよ!生駒隊には隠岐くんがいるじゃん!なんで隠岐くんじゃなくて水上くんなの??」
「すみくん声大きい!」

女主人公は犬飼の口を両手でふさぐ。
さすがの女主人公も、大きな声で恋心をバラされるのは恥ずかしい。

「もう!ちょっと来て!」

女主人公は犬飼の腕を掴むとラウンジに向かおうとした。

「荒船くんと、隠岐くんも一緒に来て!」
「おれもですかー?」
「隠岐まで巻き込むなよ」
「いいから!」



4人はラウンジにつくと、飲み物を買ってから席に座る。

「それで、何の集まりなんです?」
「隠岐くんまで巻き込まないでよ」
「いいじゃん!どうせ隠岐くんはもうわかってるでしょ」
「なんも知りませんよー」
「はいはい。それで、女主人公。昨日の話の続きなんだけど…」
「ああ。すみくんが無視して全然進まなかった話ね!」

そう言うと、女主人公はプンッと顔を横に向けた。

「ごめんね!昨日はあまりの衝撃で話を聞くどころじゃなかったの」
「ほんまになんの話ですか?」

「女主人公が水上くんに恋をしたって話」
「もー!すみくんが言わないでよ!」
「だって本当のことじゃん!」

おれの言葉を聞いて、隠岐くんは「ほんまですか?」と言った。

「やっぱり女主人公先輩、恋してはったんですね」
「ここだけの話にしてよ〜」
「言いふらしたりしませんよ。でもなんで水上先輩なんですか?」
「聞いてくれる?昨日、すみくんに話そうとしたのに、全然聞いてくれなかったから!」
「ごめんって!」



女主人公の話はこうだ。
昨日、学校の授業で自習の時間があった。
2年生は全員同じタイミングで自習で、同じ課題を出されたので女主人公は友達と図書室に行って、課題をすることにした。
本が必要になったため探していると、お目当ての本は本棚の一番上の段にあった。
女主人公の身長は155pで、一番上の段は背を伸ばしてもなかなか届かない。
ジャンプをしたり背伸びをしたりして、なんとか本を取ろうとしていると、バランスを崩して倒れそうになる。
だが、倒れる前に誰かの腕で支えられた。

「危ないで」
「み、水上くん…」

それが水上だった。

「ちっちゃいんやから無理せんと、誰かに頼みぃ」

水上はそう言うと、女主人公が取ろうとしていた本を簡単に取って、女主人公に手渡した。

「ほい」
「あ、ありがとう」
「気ぃつけなあかんで」

水上はポンッ、と軽く女主人公の頭を撫でると自分も本を選んで席に戻った。



「それで恋に落ちちゃったんですねー」
「そうなの!もうね、とってもかっこよくて!わたしが届かなかった本を、ひょいって取ってくれて」

そう語る女主人公の姿は、誰がどう見ても恋する乙女だった。

「まあたしかに、水上先輩背ぇ高いですもんね。そんなんされたら惚れて…惚れます?」
「惚れちゃうんだなーこれが!」
「あれ?でも女主人公先輩って、面食いって噂が」

「そう!そうなんだよ!」
「びっくりした」

隠岐の言葉に犬飼がここぞとばかりに大きな声で賛同した。

「どう考えても女主人公のタイプじゃないでしょ!」
「女主人公先輩は嵐山さんのことが好きなんやと思ってました」
「えー、嵐山さんはアイドル的な立ち位置の人だよ?」
「でも女主人公って、王道なさわやかイケメンみたいな感じの人が好きじゃん!なんで水上くん?」
「それだけ本気ってことだろ」
「荒船くんは黙ってて!」
「勝手に連れてきておいてその言い草かよ」

犬飼は女主人公に向き合うと「ほんっとーに水上くんなの!?」と聞いた。

「すみくん」
「ん?」
「好きになるのに顔は関係ないんだよ!」

良い笑顔でそう答える女主人公。

「女主人公…」
「犬飼、あきらめろ」
「恋すると人って変わりますねー」

「おれは絶対認めない!!」

犬飼の声が、ラウンジに響いた。



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