「なんの話?」
「ショッピングモールで買い物してたらさ、おまえが女の人と歩いてるの見たんだよ」
「おまえ彼女いたのかよ!言えよな!」
「ホンマになんの話?」
クラスメイトの言葉に、隠岐は頭にはてなマークを浮かべた。
「とぼけんなって。で、相手は誰なんだよ?」
「うちの学校の人?」
「ホンマに待ってくれへん。いつの話しとるん?」
「いつって、この前の日曜日だよ」
「日曜日…」
隠岐は、思い出した。
この前の日曜日は、三門市にある大きなショッピングモールで買い物をしていた。
そこで、たまたま影浦と女主人公と遭遇した。
影浦がトイレに行っている間だけ、女主人公と二人になったが、その時のことを言っているんだろうな、と。
「あんな、あれは」
「後ろ姿しか見えなかったけど、雰囲気のある人だったよな」
「今度紹介しろよー」
クラスメイトは興奮していて、隠岐の話を聞こうとしない。
そこに、クラスの女子も話に入ってきて、収拾がつかなくなっていた。
「えー!隠岐くん彼女いないって言ってたじゃん!」
「ショックー!誰だれ?」
「きっと隠岐くんの彼女だから、可愛いか綺麗な人なんだろうなー」
「今度連れてこいよ!」
「…もう勝手にせぇ…」
隠岐は説明することを諦めた。
生駒隊作戦室。
「もう、ホンマに勘弁してくれや…」
「なんや?隠岐はどないしてん?」
何やら、ずいぶんと疲れている隠岐の姿を見て、生駒は質問をした。
「うちのクラスのやつらに困ってるんです…」
「ん?」
「…たまたま苗字ちゃんと一緒だったとこを見たクラスメイトが彼女と勘違いして質問攻めされたそうですよ」
「なんやそれ、どんな状況やねん。というか、なんで苗字ちゃんと一緒におんねん」
「影浦先輩と買い物に来てたみたいです…その時、影浦先輩がトイレに行ったタイミングで二人になったんですけど、その時を見られたっぽいです」
隠岐はめんどくさそうな顔をした。
「ホンマめんどくさいです…」
「それで、紹介しろって言われてるみたいですわ」
「無理やろ。え、苗字ちゃんに頼むん?」
「頼めるわけないでしょう」
「カゲと苗字ちゃんって付き合ってるんやっけ?」
「付き合ってないみたいです。でもまだってだけで、いつ付き合ってもおかしくないでしょう」
「ホンマですよね」
「一回頼んでみたらどうっすか!?」
「海ー…」
そんな話をしていると、オペレーターの細井が作戦室に入って来た。
「ん?なんやねんこの空気」
「…いっそマリオに頼むか…」
「何?何の話?」
先ほどの話を細井に説明する水上。
「マリオが隠岐の彼女のふりしたったらええやん」
「ウチに死ねって言ってる!?彼女のふりなんてしたら、ウチがあんたのファンに殺されてまう!」
「マリオ先輩が殺されたらヤバイっす!」
「それにウチなんかが隠岐の彼女のふりなんかできるわけないやろ。まず釣り合わん」
「そんなことないで!マリオちゃんはかわいいんやから」
「イコさん、そういう問題ちゃうんです」
細井は隠岐に「ちゃんとクラスメイトに説明せな」と言った。
「何度もしようと思ってんけど、聞く耳持たずで聞いてくれへん…」
「まあ、ほっといてええんちゃう?すぐ忘れるやろ」
「それもそうやな」
クラスメイトも、物珍しいだけですぐ忘れるだろう。
そう思っていた隠岐だが、実際はまったく忘れることがなく「おい隠岐!早く紹介してくれよ!」「写真くらいあるだろ?見せてー!」と、さらにヒートアップしていくだけだった。
「だからずっと言うてるけど、彼女ちゃう」
「またまた〜隠岐くんは恥ずかしがりやですねー」
「…ホンマに」
「写真くらい見せてくれてもいいだろ!恥ずかしがりやかよー」
「少しは静かにせえ…」
そんなクラスメイトからのダル絡みに疲れた隠岐は、3年C組に逃げ込んだ。
「水上先輩…限界ですー」
「なんやねん、急に来て」
「あ?」
「隠岐はどうしたんだ?」
「実は…」
隠岐は3Cのメンバーに全てを説明した。
「あん時のか」
「そうなんですよー」
影浦も日曜日のことを思い出し「あの時のこと見られてそんなに言われるって、おめーやべーな」と言った。
「隠岐はモテるのに女の子の影がないから珍しいんじゃないのか?」
「からかわれてるな、盛大に」
「ホンマに困ってるんです…」
「おう…伝わってっからそんな刺してくんな」
隠岐は影浦に”助けて”の感情を刺した。
「ようは、女主人公と会わせて彼女じゃねーってことを説明させればいいんだろ?」
「そうです!」
「はぁ…待ってろ」
そう言うと、影浦は女主人公に連絡を入れた。
「今日、早く授業が終わるからこっち寄るってよ」
「ホンマですか!ありがとうございます!」
「良かったな、隠岐」
「これであのダル絡みから解放されますー」
「女主人公に感謝しろよ」
「はい!ほんなら、クラスメイトに言ってきますわ!また放課後来ますね!」
隠岐はそう言って、自分の教室に戻っていった。
「助かったわ。最近ずっとこんな感じで、隠岐の元気なかってん」
「さっさと女主人公に聞けよ」
「苗字ちゃんには頼みにくいやろ」
「それはそうだな」
「遠慮してたんだろ、カゲにも」
「そうかよ」
そして、放課後になり隠岐とそのクラスメイトが3年C組の教室まで来た。
「お待たせしましたー」
「こ、こんにちは!」
「ども!」
「おー」
「こんにちは」
隠岐は影浦に「もう来てます?」と聞いた。
「校門のとこに荒船といる」
「ホンマですか」
「そしたらオレたちも行くか」
「あんま待たせたらあかんな」
「楽しみだなー!隠岐の彼女!」
「どんな人なんだろうな!」
隠岐のクラスメイトは、相変わらず隠岐の彼女だと思っている。
「…チッ!」
「おい、カゲ」
ぞろぞろと校門に向かうと、そこには荒船と女主人公の姿があった。
「あ、苗字さん」
「おいあれか!」
「マジかよ!」
女主人公の姿を見つけた隠岐のクラスメイトは、揃って顔を赤くした。
「こんにちは」
「あ…こんにちは…」
「めっちゃ美人…」
女主人公は挨拶をすると微笑んだ。
「隠岐くん、この子たち?」
「そうです。ホンマすみません」
「ううん、大丈夫」
「あの、隠岐の彼女さんですか?」
「隠岐くんも言ってたと思うけど、私は隠岐くんの彼女じゃないよ」
「…え!?そうなんですか!」
「うん」
「えー…え…」
「おれは何度も違う言うたで」
「隠岐ー…ごめん!」
「女関係の噂って結構聞くけど、マジで女の人といる隠岐を見たの初めてで、テンション上がってた!」
「わかればええよ。ただ、今後は人の話はちゃんと聞こか?」
「ごめん…」
ようやくわかったクラスメイトは、女主人公にも頭を下げて二人で帰って行った。
「苗字さん、ホンマにすみませんでした」
「全然。むしろ、変な誤解させちゃってごめんね」
「苗字さんは全然悪くないんですよー悪いんはおれのクラスメイトです」
「隠岐くんも苦労するわね」
こうして、隠岐の彼女騒動は一件落着した。
「女主人公の優しさに感謝だな」
「荒船さんも、わざわざこっちまで来てもろてすみませんでした」
「別にいいぜ」
「ここからボーダーに行くのも、新鮮で楽しいしね」
「お人よし」
「雅人くんと同じ学校に通ってる気分になれて嬉しいな」
「なんだよそれ」
「…結果オーライですか?」