ただ、私は三門第一に来るのは初めてだったので、なかなかいいところが見つからない。
そう思っていたら、雅人くんが私の前を行き、人気のない非常階段に先導してくれた。
非常階段に座る雅人くんの横に座った。
「雅人くん、大丈夫?」
「…」
「久しぶりに痛かった?私のせいでごめんね」
「…」
私が何を言っても、雅人くんは顔をあげてくれない。
どうしよう。
握っている雅人くんの手は、負の感情を受けたせいか、汗でびっしょりだった。
こんな思いをさせたくて、私はここに来たんじゃない。
「雅人くん…ごめん。もう勝手なことしないから」
「…なんでいんだよ」
「雅人くんが学校でどんな感じか見たくて…」
「…おめーは俺のカーチャンか」
「ごめん」
やっと喋ってくれた雅人くんだけど、やっぱり顔はあげてくれない。
「雅人くんの負担になりたくて来たわけじゃないんだけど、結局負担になっちゃったね」
「来るなら来るって言え。その方がちゃんと準備できんだろ」
「ごめん」
「嵐山さんとキャーキャー騒がれやがって」
「それは不可抗力」
「すこしは反省しろ!」
顔をあげてくれたけど、同時に私の髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回した。
「あー…ボサボサ」
雅人くんにボサボサにされた髪の毛を、手櫛で整える。
「女主人公はもう少し自覚しろ」
「してるよ、これでも」
「じゃぁもっとしろ!おめーのせいで目立っちまっただろ!」
「それは雅人くんの声の大きさのせいでは?」
「うるせー!」
雅人くんはそう言うと、立ち上がった。
「はー…女主人公の横にいると余計な感情しか刺さってこねー」
「それでも私の横にいてくれるんでしょう?」
「おめーの横にいられんのは俺くれーだろ」
「それはもちろん」
「俺の横にいられんのも、おめーだけだ」
私は雅人くんに抱きついた。
「ごめんね」
「へーへー。もう気にしてねーよ」
雅人くんも、私の背中に腕を回して抱きしめてくれた。
大きくなったな。
雅人くんが落ち着いたので、私と雅人くんは教室に戻ることにした。
「あ、カゲ!女主人公ちゃん!おかえり」
「お前らどこに行ってたんだ?」
そこには荒船くんもいた。
「ちょっとそこまで」
「荒船!おめー女主人公と一緒に来るならちゃんと来いや!」
「悪い。女主人公も悪かった」
「大丈夫よ」
「クラスのみんなには、女主人公ちゃんはカゲの幼なじみだって説明しておいたからね」
「ありがとう」
「で、おめーらはこの後どうするんだ?」
「せっかくだし、カゲたちのクラスに入るか?」
「うーん」
このまま私が雅人くんのクラスに入ったら、また騒がれないか心配なので、私はそのまま帰ろうとした。
「せっかくだけど、私は」
「いいから行け!」
と、雅人くんに背中を押された。
「つまんねーこと考えてねーで、文化祭楽しんでけよ」
「本当に?」
「あぁ。だからその感情やめろ」
私が、心配やごめんなどの感情を刺していることに気づいている雅人くんが、気を遣ってそう言ってくれていることは分かっていた。
だけど、せっかくなら私も雅人くんがクラスメイトとどんな感じで接しているのか見てみたい。
「ほら、入れよ」
「じゃぁ行こっか」
「おう」
お言葉に甘えて、荒船くんと一緒にメイドカフェをしている雅人くんのクラスに入った。
「本格的だね」
「だな」
「でも女の子だけなんだね」
「メイドカフェだろ?」
「こういうのって、男の子がメイド服着るのが面白いんじゃないの?」
「確かに」
そんな話をしていると、メイドさんの代わりに雅人くんが注文を聞きにやってきた。
「おら、さっさと頼め!」
「店員さん、もっと愛想よくしてくださーい」
「調子のんな荒船!」
「家のお手伝いしてるときと変わらないね」
「うちもメイドカフェも変わんねーだろ」
「変わるでしょ」
荒船くんはアイスティー、私はケーキセットを頼んだ。
「ちょっと待ってろ」
そう言うと、雅人くんは奥に引っ込んだ。
「そういえば、さっきはカゲとどこに行ってたんだ?」
「うん、ちょっといろんな感情が刺さって苦しくなっちゃったんだよね」
「大丈夫か?」
「私じゃなくてね」
「あぁカゲか。こういう時のサイドエフェクトは厄介だな」
「うん。まぁ私が雅人くんに内緒で来たのが悪いから」
「そんなことないだろ。女主人公はただ、カゲのことが心配だったんだろ」
「そうだけど…でも」
「でもじゃねー」
私たちの注文の商品を持ってきた雅人くんが戻ってきた。
「別に俺は女主人公にイラついてるわけじゃねー」
「ほら、カゲもこう言ってる」
「うん。それはそうなんだけど」
「おめーはいちいち難しく考えすぎなんだよ。俺のことを一番に考えすぎだ」
「だって、雅人くんが苦しい思いをするのは嫌なの」
「だからっておめーが我慢したり、気ぃ遣いすぎんのもちげーだろ」
「それは大丈夫」
「大丈夫じゃねー!」
このままだとまた雅人くんがヒートアップして、周りからの視線を集めそう。
「お前ら、少し落ち着け。お前らがお互いを大事にしてることはよーく伝わってきた」
「そんなんじゃねーよ」
「どう考えてもそうだろ。お互い言葉足らずなんだよ、もっと会話をしろ会話を」
「けっ。とっと食って帰れよ。荒船、おめーはちゃんと女主人公を送ってけよ」
「わかってるよ」
そう言い残して、雅人くんは自分の持ち場に戻っていった。
「ごめんね荒船くん」
「別にいいけど、ちゃんと大事なことは伝えろよ」
「あれはね、雅人くんの照れ隠し」
私が自分の気持ちよりも、雅人くんのことを優先にすることを知っている。
だけど、それは私がしたくてしていることだし、もう昔からの癖だし、何よりも雅人くんに苦しんでもらいたくない、笑ってほしいと思っているから、私はそれでいい。
でも、雅人くんだって、私のことを大事にしてくれている。
それは行動から伝わってくるから、これでいい。
「本当、お前らはよく分からないな。これで付き合ってないんだもんな」
「そうね。付き合ってはないね」
今はまだ、この関係が心地よい。