「女主人公、ボーダー行くぞ」
「うん、ちょっと待って」

鋼にアタッカーランクを抜かれた。

それはそれでいい。
俺は元々アタッカーでソロランク1位を目指してるわけじゃないし、パーフェクトオールラウンダーを量産するためのメソッドを確立させて、ボーダーに貢献したいと思っていたから別にいい。
そのためには、まずは自分がパーフェクトオールラウンダーになる。
5月に入って、俺は自分の目標のためにアタッカーからスナイパーに転向した。
この転向する時期が、とんでもなく悪かった。

鋼にポイントを抜かれて、二宮隊がB級に降格して、その後すぐに影浦隊もB級に降格。
こんな状況の中で、俺がスナイパーに転向したからか、ボーダー内では変な噂が広がっていた。



「荒船さんがアタッカーからスナイパーになったらしいぞ!」
「嘘だろ?」
「弧月でマスタークラスだったのに?」
「なんで?」

「なんでも鋼さんにポイントを抜かれたからっぽい」
「鋼さん半年で荒船さん抜いちゃったもんなー」
「弟子に抜かされるって、やっぱショックだろ」
「二宮隊と影浦隊の降格も、なんか関係あるのか?」



全部事実無根だから、俺はわざわざ訂正することはしなかった。
だから、まさか鋼がこの噂を真に受けて、自分のせいで俺がスナイパーに転向したと思っているとは想像していなかった。







「荒船くん、アタッカーを辞めたのって、鋼と関係あるのかな?」
「どういうことですか?」

ラウンジで女主人公と休憩をしていると、来馬さんに話しかけられた。
女主人公は来馬さんの様子がおかしいと思ったのか、空気を読んで席を外した。

「実は、鋼がさ…荒船くんがまとめたアタッカーの理論を教わっただけで、本来やるべき苦労を何もやってないから、みんなの努力を盗んでるんだって言って落ち込んでたんだ」

来馬さんはそう言うと「でも…荒船くんがそんな風に考えるとは思えないんだよね」と言った。

「なるほど。それは、あの馬鹿の考えすぎですね」

俺は来馬さんの言葉をハッキリ否定した。

「元々8000点取れたらやめるつもりだったんですよ。言い訳くさいんで他人には言ってないですけど…」
「じゃあ、やっぱり鋼が原因ってことはないんだね」

俺がそう言うと、来馬さんは安心したような顔をした。

「…まぁ点を抜かれたのはショックだったし、アタッカーはあいつにやらせとけばいいかとは思いましたよ。けど、俺の理論でマスタークラスまで来れることは証明できたし、次はスナイパーでマスター狙うつもりなんです」

俺は来馬さんに、木崎さん以来のパーフェクトオールラウンダーを目指すことを伝えた。

「そのメソッドを理論で一般化して、パーフェクトオールラウンダーを量産するのが俺の目標です。鋼とは方向性が違います」
「おお…!遠大だね…!」
「目標達成の暁には、鋼にも理論と技術を叩き込んでやりますよ」
「じゃあ…それを鋼にも言ってやってもらえないかな」
「…?」

そう言うと、来馬さんは携帯を取り出した。

「これで動画を撮らせてもらってもいいかな?鋼も、ぼくが言うより荒船くんから言ってもらったほうが信じると思うし」
「わかりました」

動画の準備をしていると、女主人公が戻って来た。

「もう大丈夫?」
「あと少し」
「じゃあ終わったら連絡入れて」
「いや、もう終わるからここにいろ」
「わかった」

女主人公は俺の隣に座る。

「大丈夫かな?」
「お願いします」
「?」

来馬さんが携帯を俺に向ける。

「おいコラ鋼。強くなった自分に酔ってるらしいな!俺一人に勝った程度で何様だおまえは。”他人の努力を盗んでる”だあ?俺の教え方がうまいんだよ!自惚れんな!そういう調子こいたセリフは、太刀川さんや風間さんやカゲに勝ち越してから言え!以上!」

「荒船くんたら…」
「こんなもんでOKですか?」
「うんバッチリ!ありがとう!」

来馬さんが動画を止める。

「これで鋼も大丈夫だと思う。わざわざごめんね」
「いいえ」
「苗字さんも、邪魔してごめんね」
「大丈夫ですよ。来馬さんも、雨の中大変でしたね」
「ううん。鋼が落ち込んでて見てられなかったからね、これで安心だよ」
「来馬さん…」

来馬さんはもう一度、「本当にありがとう!」と言うと、鈴鳴支部に戻って行った。


「大丈夫?」
「何が?」
「鋼くんとのこと」
「…ああ、大丈夫だろ」
「…荒船くん、こっち来て」
「なんだよ」



女主人公は俺の腕を掴むとラウンジを出て、近くの空いている会議室に入った。

「どうした?」
「さっきの、荒船くんがアタッカーを辞めた話?」
「ああ。鋼が勝手に勘違いして泣いてたらしい。それで来馬さんがわざわざ確認しに来たんだと」
「そっか…」

女主人公はそう言うと俺の手を取った。

「どうしたんだよ」
「…さっきの…荒船くんの本音は?」
「は?」
「…来馬さんに言ってたことも、鋼くんに向けてのメッセージも、多分荒船くんの気持ちには間違いないと思うんだけど、無理してない?」
「…」
「荒船くんの本音が聞きたいな」
「…なんだよそれ」

俺は女主人公から目を逸らす。

「…私には強がらなくてもいいんだよ?」
「…女主人公にはカッコ悪いところ見せたくないんだよ」

俺がそう言うと、女主人公は俺のことを抱きしめる。

「バカね。どんな荒船くんもかっこいいよ」
「…」

ほんと、カッコつかねーな。

「鋼に…」
「うん」
「鋼にポイント抜かれて悔しかった…」
「うん」
「俺の方が先に入隊してんのに、入って半年の鋼に負けるくらい俺は弱いんだって思い知らされた…」
「…うん」
「サイドエフェクトのことも関係してるとは思うけど、それでも…それでも負けたくなかったっていう気持ちは正直ある」
「うん」
「けど、俺は俺のできることを俺のやり方でやるだけだ」
「そうだね。そうやって、自分の負の部分も受け入れて、認められて、それでも前を向ける荒船くんは、やっぱりかっこいいよ」

女主人公はそう言うと微笑んだ。

「ありがとうな」
「いいえ。我慢しすぎは良くないよ」
「我慢してるつもりはなかったけどな」
「なんとなーく、最近の荒船くんは、いつもと違って見えたから」
「それはおまえもだろ。B級に落ちて…おまえも大丈夫か?」
「私はね。だけどユズルくんがちょっと心配。スナイパー同士、ちょっと気にかけてあげてね」
「おう」


悔しいという気持ちは、誰かに言うつもりはなかった。
けど、女主人公には隠し事ができないな。



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