アイドルや舞台俳優にはキャーキャー言ってる女主人公だけど、実際に恋をするのは初めてで、なかなか水上くんに話しかけられないらしい。
学校でもクラスは別だし、ボーダーではポジションもチームも違うから、このまま放っておけば進展もなく終わるんじゃないだろうか。
でも、それはそれで女主人公が悲しむことになるから、お兄ちゃんとしては可哀想で見ていられない。
でも、女主人公に恋人ができるのも、それはそれで複雑。
「すみくーん…今日も水上くんとお話できなかった…」
「女主人公は奥手だね」
「みんなどうやって好きな人とお話してるの?どうしたら恋人同士になれるの?」
おれの部屋で、ベッドに座ってクッションを抱きしめている女主人公。
こういう姿を見たら、水上くんもすぐに女主人公のことを好きになるんだろうなー。
「女主人公は水上くんと恋人同士になりたいの?」
「…うーん、そう言われると…今はまだ、ちゃんとお話しできたら十分な気もする」
「まあ、たいして話したことないだろうからね」
そうだ。
女主人公はあのワンシーンで水上くんを好きになったということは、ひとめぼれに近い。
だからこそ、水上くんのことをちゃんと知れば、恋じゃなかったってなるかもしれない。
「そしたら今度水上くんと話す機会を作ってあげるよ!」
「本当?すみくんありがとう!」
おれがそう言うと、女主人公はクッションを放り投げておれに抱きついた。
「すみくん大好きー!」
「おれもだよ」
そうと決まれば、早速水上くんに連絡を入れよう。
「なんでやねん」
「えー…まさかの反応…」
おれは次の日、早速水上くんをつかまえた。
「もう一度言おうか?」
「言葉の意味は理解しとるわ」
「ならいいでしょ?少しだけでいいから時間作ってほしいんだけど」
「だから、なんでやねん。俺やないやろ?」
「いや、水上くんなんだよ!」
水上くんに、女主人公が話をしたいと言っていることを伝えると、まさかの反応が返ってきた。
「なんでそんなイヤそうなの!女主人公と話してって言ってるだけじゃん!」
「だから、なんで俺が犬飼の妹と話さなあかんねん。そんな仲良くもない」
「仲良くなりたいって言ってるの!おれの妹なのに、何が不満なの!?」
「おまえの妹やからや」
「水上くんまでカゲみたいなこと言う!」
まさか、水上くんからそんなセリフが出てくるとは思わなかった。
「たまたま図書室で助けただけやろ?」
「そのお礼もかねて、お話したいんだって」
「周りに何言われるかわからんからいやや」
「あ、そういう意味だったのね」
水上くんが女主人公と話たくないのは、周りに注目をされるからみたいだ。
まあ、女主人公と一緒にいたら見られるよね。
なんてったって、女主人公は世界一かわいいからね!
「そこをなんとか!一回でいいから話してあげてよ〜!」
「妹に”大した事してへんから気にすんな”って伝えといてや」
「おれからじゃなくて、水上くんから言ってよ!」
「防衛任務やから無理やな」
「防衛任務がないことは確認済みだよ」
「…」
おれがそう言うと、水上くんはため息をつきながら「はぁー…一回だけやで」と言った。
「ありがとう!」
そう言って、おれは女主人公に連絡をした。
おれが連絡をしてから、5分も経たないうちに、女主人公はラウンジに現れた。
走って来たんだろうなー顔が赤くなってる。
「み!水上くん!」
「おー…」
女主人公はおれの隣に座ると落ち着かないようで、前髪を触る。
「あの…時間作ってくれてありがとう!」
「ええよ」
めんどくさそうに返事をする水上くんに、少しむっとするけど女主人公はそれでも嬉しそうだ。
「あのね、この前は本取ってくれてありがとう!」
「たいしたことやないで」
「すごい助かっちゃった!」
「ほんならよかったわ」
「うん!」
…それで会話終了!?
え、女主人公!
いつものコミュ力はどこにいったの!?
これが恋をすると人間変わるってことなの!?
「もうええ?」
「あ…っ」
水上くんはそのまま席を立とうとする。
「ちょ、ちょっと待ってよ水上くん!」
「なんも言わんやん…」
「そ…それは…」
「女主人公だって緊張してるんだよ。少しはわかんないかなー女の子の気持ち」
「…すまんかったなー俺にはわからんわ」
おれの言葉に、彼は心底めんどくさそうな顔をした。
「俺も暇やないねん。なんかあるなら言ってや」
「あ…ごめんね…」
「…俺は隠岐ちゃうで?媚売る相手間違えてるやろ」
「っ!!」
水上くんの言葉に女主人公はショックを受けた顔をして、「ごめんね…」と言うと席を立って、走って行ってしまった。
「み、水上くん!何てこと言うの!」
おれは頭にきた。
いくらなんでもこれはひどい!
「媚売ってるわけないでしょ!ただ、水上くんと仲良くなりたいから時間作ってって言ったのに!」
「イケメンにキャーキャー言うてる犬飼妹が俺になんの用やねん?誰とでも話してるくせにだんまりやし」
「それは、女の子にも色々あるでしょ!」
「何があんねん」
「だーかーらー!テレビとか舞台で見る芸能人と好きな人とじゃ違うでしょ!」
「…は?」
「あ…」
おれの言葉に、水上くんは驚いた顔をした。
「なんや?どういうことなん?」
「こ…これは…」
「好きとか言うとったな?嘘やろ?」
「聞かなかったことにして」
「無理やろ」
女主人公の気持ちを勝手にバラしたくないので、おれは必死にごまかす。
「犬飼妹は隠岐が好きなんやろ?」
「違うよ!なんでそんな話になってるの!」
「この前隠岐と一緒におるとこ見てん」
「水上くんのことを聞いてたんだよ!」
「…イケメン好きやん」
「イケメンが嫌いな女の子はいないでしょ!自分だってかわいい子が好きなくせに!」
水上くんは少し俯いて考えているようだ。
「もう!水上くんがあんなこと言うなんて信じらんない!」
「…ということは何や…犬飼妹はほんまに俺と話がしたかっただけなん?」
「そうだって最初っから言ってるよね?なんだと思ってたの!」
「…俺と仲ようなって隠岐狙うんかと思っとったわ…」
なんだそれは。
「ええ人アピールしたいんかなって思ってしもうた」
「ねぇ水上くん、一回殴っていいかな」
「ちょっと待て。それで言うたら、なんや、犬飼妹は俺のことが好きなん?」
「それは本人に聞いて!おれからは言えません!」
「…」
「盛大な勘違いでよくもおれのかわいい双子の妹を傷つけたね」
「…すまんかった…」
水上くんは、女主人公が隠岐くん狙いで、まずは同い年の自分と仲良くなって隠岐くんと距離を縮めるつもりだったと思っていたらしい。
だから、男に媚を売る女の子だと思ってあんな態度をとったんだとか。
そんなわけないよね!
女主人公はかわいいから、そんなまわりくどいアプローチじゃなくて正面からいくよ!
「女主人公に謝ってよね!」
「…」
うわー、すごい顔。