「あ、本当だ」
街を歩いていると、中学の同級生だった荒船を見かけた。
「え、女連れ?」
「うっそ!あの荒船が?」
「どこどこ?」
中学時代、モテていたのに誰とも付き合うことがなく男友達とばかりつるんでいた荒船が女の子を連れている。
「うわー、やっぱり彼女かな?」
「中学の時なんて、女に一切興味ありませんって感じだったのにね!」
「でもあんたいいの?荒船のこと好きだったじゃん」
「はあ?別に好きでもなんでもないよ」
そう言ったのは精一杯の強がりだった。
わたしは、荒船に恋をしている。
実ることのない、永遠の片思い。
「彼女なのか、確かめに行く?」
「面白そうね」
「ちょっとやめなさいよ」
友達の話に、わたしはストップをかける。
彼女だった時のショックが大きいから、ハッキリさせたくない。
「えー、でも気になるじゃん」
「とりあえず近くに行ってみようか!」
二人が荒船たちの方に向かうので、わたしは仕方なくついていく。
「顔見えた?」
「うーん…横顔?あんまり見えない」
「荒船の顔よ」
「相変わらず顔が良いな」
少し遠目からしか見えないのでわかりにくいけど、あれは絶対恋人に向ける目だ。
というか、そもそもあの荒船が休日にこんなところに恋人以外と来るはずがない。
二人はどんどん荒船たちに近づいていく。
やっと、荒船たちの会話が聞こえる距離まで近づくと、耳をすませた。
「今度の防衛任務、俺たちと同じ時間帯だったよな?」
「そうだね」
「じゃあその後かげうら行こうぜ。カゲと鋼も誘って」
「いいわね。雅人くんに伝えておくね」
女の子の口からは、別の男の子の名前が出た。
ということは、二人はただの友達の可能性もある。
「雅人くんと鋼くんも、またソロランク戦したいって言ってたよ」
「ポジション変えてからまだそんな経ってないだろ」
「今までずっと一緒にやってきたから、3日もやらないと物足りなくなるみたい」
「あいつらアホだろ」
「たしかに」
二人の会話を(盗み)聞いていると、どうやら二人はボーダーに入っているようだ。
「そういえば、荒船は高校生になったらボーダー入るって、クラスの男子が言ってたかも」
「じゃあ、あの二人はボーダーの同期ってこと?」
「なーんだ」
「だとしても、わざわざ休日に二人で出かける?」
「仲が良いんじゃない?」
「そういうもの?」
ただのボーダーの同期であってほしい。
そんな風に思っていると、女の子の方が後ろを振り返った。
「あ、あそこ。荒船くんが気になってるって言ってたお店じゃない?」
「おう」
「たしかにあの外観だと、男の子のグループは入りにくいわね」
「だろ?さすがに男3人じゃ無理だった」
女の子は、そこら辺の女優やアイドルよりもきれいな顔をしていた。
「うひゃー美人ー」
「え、芸能人?」
「芸能人だったら顔隠したりするでしょ」
「売れないアイドル的な」
「失礼な言い方」
「でも本当に美人だね。あれかな、美しすぎるボーダー隊員みたいな感じ?」
「嵐山隊もイケメン揃いだしね。なんなの、ボーダーはイケメンと美女しか入れないの?」
そんな風に話をしている友達の輪に、わたしは入ることができなかった。
あんな美人に絶対勝てるわけがない。
「でも彼女かどうか、まだわかんないね」
「会話からだと読みづらい…」
「もう話しかけてくる?」
「ちょ!やめなよ!邪魔したら悪いでしょ」
「そんなこと言って、本当は彼女かどうか確かめるのが怖いんでしょ?」
「うっ…」
「荒船のこと好きじゃないとか言って、好きなのバレバレだかんね」
「…だって…」
相手はあの荒船だ。
中学の時から、頭が良くて、かっこよくて、ちょっと目つきは悪いけど誰にでも優しくて後輩からも慕われている、完璧に近い男。
そんな男に告白する勇気なんてない。
「まああんたがそれでいいならいいけど」
「どうする?予定通り、カラオケ行く?」
「…」
「高校違って、連絡先も知らないんだから今日がチャンスなんじゃないの?」
「…ええーい!わかったよ!話しかけて、彼女じゃなかったら連絡先交換する!」
「その意気だ!」
わたしたちは、結局荒船に声をかけることにした。
荒船たちはお昼ごはんをどこで食べるか迷っているようだった。
「何食べる?」
「昼は軽くにしとくか?」
「夜たくさん食べるもんね」
「お!荒船じゃーん!偶然!」
「ん?」
友達が荒船に声をかけると、荒船と女の子がわたしたちの方を振り返った。
久しぶりの荒船だー。
「ああ、久しぶりだな」
そう言って笑う荒船は、記憶の中よりも少し大人になっていた。
中学を卒業してから1年とちょっと。
高校2年生の荒船は、さらにかっこよくなっていた。
「荒船くん」
女の子は荒船の名前を呼びながら、荒船の洋服の裾を軽く引っ張った。
どう見てもあざとい仕草なのに、美人がやるとあざとく見えないのがすごい。
「ん、ああ。中学の時の同級生」
「そうなんだ。初めまして、高校のクラスメイトの苗字女主人公です」
「初めまして!」
「荒船と同じ高校ってことは、頭いいんですね!」
友達たちはそう言っているけど私は、クラスメイト、と言った女の子の言葉に気を取られて反応ができなかった。
クラスメイト、ということは彼女ではないということかな。
期待してもいいのかな?
「他人行儀だな」
「そう?」
そんな女の子の言葉に、荒船が眉間にしわを寄せる。
あ。
これは。
「クラスメイトじゃなくて彼女だろ」
やっぱり。
「クラスメイトでもあるじゃない」
「俺の彼女ってちゃんと言えよ」
「はいはい」
荒船の反応に、友達たちも驚いている。
「あ…彼女なんだ。あの荒船に彼女ができたんだねー」
「ね!意外!」
「言われてますよ、荒船くん」
「意外ってなんだよ」
「荒船って今もモテます?中学時代もめっちゃモテてて、でも誰とも付き合ってなかったんです。だから意外で」
「本当に。こんな綺麗な人なら付き合うんだね」
その言葉に、荒船はまた顔をしかめる。
「俺から告って、やっと付き合えることになったんだから変なこと言うなよ。女主人公が誤解すんだろ」
「ごめんごめん!」
「そうだ!今度中学の同窓会やろうって話が出てるんだけど、荒船が暇なとき教えてよ!」
「みんな荒船に会いたがってるよー」
同窓会なんて、そんな話聞いてない。
多分、二人がとっさに考えた嘘なんだろうな。
「悪いな、ボーダーで忙しいから暇がないんだ」
「そうなの?」
「それに貴重な休みは女主人公と一緒に過ごしたい」
荒船はそう言うと、女主人公さんの腰に腕を回す。
「用がねぇなら行くぜ?」
「うん」
「荒船ごめんね!」
わたしたちがそう言うと、荒船は女主人公さんと歩いて行った。
「ごめん!まさか、マジで恋人同士だと思わなかった!」
「荒船も人を好きになんだね」
「あの言い方だと、ずっと好きだったってこと?」
「…まあ、しょうがないよね」
中学から片思いをしてたけど、失恋確定だ。
失恋するなら、ちゃんと伝えてから失恋したかったなって思うけど、女主人公さんがいるのに告白したら、それはそれで荒船に嫌われそう。
「ほら!でもまだ高校生じゃん!この先別れるかもしれないんだから落ち込むな〜!」
「無理でしょ。あの荒船が、あんな顔するんだよ?しかも荒船から告ったって言ってたし」
そう、どう見ても荒船の方がベタ惚れ。
わたしにチャンスなんて、一生回ってこない。
「次の恋を探すから大丈夫」
初恋は実らないって、誰かが言ってたけどその通りだな。