ここは香取隊の作戦室。
なのだが、作戦室からは若村、三浦以外の男の子の絶叫が聞こえてきた。
「ヨ…ヨーコ…ちゃん?」
「な…なんだ…」
トリガーを起動させた香取隊メンバーは、いつものトリオン体に換装するはずだった。
だが、今若村と三浦の目の前にいるのは、いつもの香取ではなくなぜか男体化した香取だった。
「ちょっとどういうこと!声も男みたいになってるし!」
「ほ…本当にヨーコちゃんなの?」
「見りゃわかるでしょ!」
「いや、わかんねーよ!!」
香取の言葉に、冷や汗をかきながらも冷静にツッコむ若村。
「…葉子」
「華ぁああ」
「そんな声で呼ばないで。気持ち悪い」
「ひどい!」
「でも、どういうことなんだろう…」
「体はなんともねえのか?」
「特には…完全に男になってる以外なんともないわね」
「それが一番の問題なんだけどね」
「おまえ、その姿で女の言葉使うな…」
「女なんだから仕方ないでしょ!」
香取は若村の言葉に言い返すが、確かにこの見た目でこの喋り方は気持ち悪いかもしれないと思った。
「とりあえず、開発部に聞きに行こうか?」
「アタシも行くわ!」
「おまえは大人しくしてろよ」
「いいから!」
そう言って、香取と若村、三浦の3人は作戦室を出る。
と、斜め前の扉が開く。
そこは那須隊の作戦室なので、当然部屋から出てきたのは、那須隊のメンバーのはず。
だが香取隊の3人が見たのは、那須隊の隊服を着た男性だった。
「…誰!?」
「いや、そっちこそ!」
答えたのは、熊谷の面影のある男性。
「えっと…熊谷さん…?」
「え!?」
「わー!もしかして香取先輩も男になっちゃいました?」
「も、ってことはあんたたちも!?」
「はい!わたし、日浦です!」
「あたしもだよ…」
那須隊の熊谷と日浦も、香取同様男体化していた。
「もしかして、開発部に行こうと思ってたところ?」
「うん」
「そしたら一緒に行くか。オレたちも行こうと思ってたんだ」
「じゃあみんなで行きましょう!」
香取たちが開発部に着くと、技術者たちがてんやわんやしていた。
「なんなのよこれ…」
「開発部っていつもこんな感じらしいよ」
「すげー…」
近くを通った技術者に声をかける三浦。
「あの」
「ん?香取隊の…って…誰!?」
技術者は三浦の横に立っていた香取、そして那須隊の隊服を着た熊谷と日浦を見て叫んだ。
「実は、今日トリガーを起動したらこうなってしまって…」
「えーっと…どういうことかな?」
「それがわからないから聞きに来たんでしょうが!」
「まあまあ落ち着いて」
「なんであんたはそんな落ち着いてるのよ」
技術者は、一度奥に引っ込んで寺島を連れて来た。
「あー…これは…」
「これは?」
「…多分トリガーのバグだね」
「バグ…」
寺島は「昨日、こっちで色々実験してたんだけど、その時にB級の女の子たちのトリオン体の設定いじったっぽいな」と言った。
「なんで女子だけ?気持ち悪い」
「ヨーコ!」
「本当、気持ち悪いよね」
寺島は香取の言葉に同意した。
「とりあえず、バグは直すけど、今換装解くと何が起こるかわからないからそのままでいて」
「わかりました…」
寺島にそう言われ、全員で作戦室の方に戻る。
「これ、B級のって言ってたけど玲も換装したら男体化しちゃうってことだよね?」
「そうですね」
「換装するなって玲に連絡入れておこう」
「後は照屋さんと帯島さんと雨取さんと…苗字さんか」
「面白そうだからそこには黙っておきなさいよ」
「面白いか?」
「ヨーコちゃん、この前のことがあってから苗字さんに心許してるよね」
「そんなんじゃないわよ!」
「その顔でその喋り方すんな!」
香取と熊谷たちは、せっかく男体化したのでソロランク戦をしようとC級ブースにやってきた。
「苗字さんいるかな?」
「先に影浦隊の作戦室行く?」
「そうね…」
男体化した香取と熊谷が現れたことで、C級ブースにいる隊員たちはざわついた。
「え…あれって…香取さん?」
「隣にいるのって…熊谷さんっぽい?」
「注目の的になってるわね」
「いいじゃない」
と、そこに出水、米屋、緑川がやって来た。
「え、もしかして…香取ちゃんと熊谷ちゃん?」
「えー!なんか面白いことになってるね!」
「イケメンじゃん」
「トリガーのバグなんだって」
「丁度良かった。あんたたち、相手しなさいよ」
「その顔でいつもの香取ちゃんの喋り方だと、違和感あんなー」
出水は苦笑した。
「男バージョンの香取も面白そうだな!」
「受け入れるのが早いわね」
「ん、てか香取ちゃんたちが男化してるってことは、女主人公さんもしてるってこと?」
「多分ね。B級の女子にバグが起こってるって言ってたから」
「マジ!?めっちゃ見たいんだけど!」
「オレも見たい!女主人公さん男になっても綺麗そう!」
5人がそんな話をしていると、C級ブースのロビー入り口が人で溢れていた。
「なんだ?」
「あんな人だかりを作れる人はあんまいねーだろ」
「女主人公さんかな?」
5人の思っていた通り、入り口から入って来たのは影浦、村上、荒船、そして男体化した女主人公だった。
「…期待を裏切らないわね」
「苗字さんは男になっても綺麗だったね」
「女主人公さーん!」
「出水くん」
出水は女主人公のもとに走る。
「わー!男なのに綺麗すぎません!?」
「そうかな?」
「奈良坂系統っすね!」
「たしかに!」
女主人公は香取と熊谷に気づくと「二人もトリガー起動しちゃったんだね」と苦笑しながら言った。
「ふん!」
「はい…見事に」
「でも二人ともかっこいいね」
「苗字さんだって人のこと言えないでしょ!」
「香取ちゃんツンデレかよ」
香取の態度を見て、出水は笑う。
「おまえたちがイケメンになってどうすんだよ」
「そうは言ってもね、バグなんだから仕方ないわ」
「いいからさっさとソロランク戦やんぞ!」
「こんな機会めったにないからな!」
「…別に体が男になったからって、身体能力が変わってるわけじゃないのよ?」
「わーってるよ!」
影浦たちの話を聞いて、出水たちも話に割り込んだ。
「おれも女主人公さんとソロランク戦したいです!」
「おめーシューターだろうが!」
「じゃあオレも!」
「オレだって女主人公さんとやりたいよー!」
「アタシも!」
「それならあたしも久しぶりに苗字さんと戦いたいです!」
荒船以外は全員名乗り出た。
「モテモテだな」
「光栄です」
「全員相手してやればいいじゃねえか」
「私の体力がなくなる」
「トリオン体だろ」
「疲れないわけじゃないのよ」
トリオン体でもさすがに7人とソロランク戦をするのは厳しい。
「ここは公平にじゃんけんで決めてください」
「何人までOKですか?」
「うーん、5本勝負で4人まで」
女主人公がそう言うと、全員でじゃんけんを始めた。
「最初はグー!じゃんけんポン!!」
「よっしゃー!」
「勝った!」
「てめーら先輩に譲れ!」
「じゃんけんなんだから仕方ないですよー!」
結局、最終的に女主人公とソロランク戦をすることになったのは、香取、熊谷、緑川、そして出水に決まった。
「クソ!」
「後輩に譲るしかないな」
「鋼!相手しろ!」
「いいぞ。10本だな?」
と、そこに犬飼と辻もやって来て「あっれー!なんだか面白いことになってるね?」と、女主人公たちに声をかけた。
「犬飼くん、と辻くん」
「…苗字さん…ですか?」
「うん」
「!?でも…男に…なってます?」
「なってるね」
「何それ、トリガーのバグ?」
「そうみたい。辻くんは、男の見た目なら女の子とも喋れるんだね」
「そうみたいです…」
そんな話をしていると「苗字さん!さっそくアタシと5本勝負!」と香取が女主人公に話しかける。
「みんな男になってる…」
「辻ちゃんには優しい世界だね」
「せっかくなら辻くんもソロランク戦やったら?」
「辻くん、あたしとやる?」
「…うん。今ならできそうな気がする…」
そう言うと、辻と熊谷は空いているブースに入った。
「いやー、辻ちゃんが女の子とソロランク戦ができる日がくるとは思わなかったね!」
「見た目男なら大丈夫なんだね」
「苗字さん!早く!」
「了解」
香取に腕を引かれ、女主人公もブースに入る。
男の見た目になったからと言って、身体能力が上がったりするわけではないのだが、いつもの見た目とは違うということもあって、たくさんのC級隊員が香取たちのソロランク戦を見ていた。
トリガーのバグは、寺島が頑張ったおかげでその日の夜には解消された。
トリオン体を解除して、もう一度トリガーを起動すると、見慣れた姿に戻ったB級女子たち。
「無事に戻ってよかったね」
「本当ですね」
「あれはあれで楽しかったけどね」
「今度は男の子たちが女体化したら面白そうですよね!」
「たしかに」