「次は、もう少し連携をスムーズにできるようにしていきたい」
「そうですね」
「菊地原の聴力を借りる時間を極力減らしながらも、大事な場面で使っていく。使いどころが問題だな」
「あんまり聴覚情報を共有していると酔いますからね」
「それはおまえがヤワなんだよ」
「おまえな」
相変わらずの菊地原である。
ミーティングがひと段落したところで、菊地原が風間のとある質問をした。
「…風間さん」
「なんだ?」
「…れ…いってそんなにいいんですか?」
「…ん?」
「なんて言った?」
菊地原の声が小さく、風間は聞き取ることができなかった。
「…れ…」
「れ?」
「…恋愛って…そんなにいいものなんですか?」
「…菊地原?急にどうした?頭でも打ったのか?」
「歌川うるさい」
「…そうだな…どうした?」
まさか菊地原からそんな質問をされるとは思わなかった風間は、冷静を装うが内心驚いていた。
「ボーダー内で恋愛してる人って少ないですよね?」
「まあそうだな。ボーダーはボーダー。私生活と切り離して考えている人間も多い。同じチームの人間と過ごす時間が必然的に多くなるから、相手の理解を得るのが難しいんじゃないのか?」
「…なるほど」
「たしかに、そう考えるとB級以上で恋人同士なのって、知ってる限りだと荒船さんと苗字さんくらいですね」
「そうだな。知らないだけで、もっといるのかもしれないがな」
菊地原は「そうですよね」と言った。
今後は風間から菊地原に質問をした。
「どうした?好きな人間でもできたか?」
「ち!違いますよ!」
風間の質問を慌てて否定する菊地原。
「なら急にどうしたんだ?何かあったのか?」
「…いえ…毎度毎度、いい加減にしてくれないかなって思っただけです…」
「?」
ラウンジからも程よく距離があり、あまり人が通らない廊下の奥に荒船と女主人公はいた。
ここは、ボーダー内で荒船が女主人公とイチャイチャしたいと思った時に連れてくる穴場の場所だった。
「もう…荒船くん」
「名前」
「…哲次…」
「ん」
女主人公の目元に口づけを落とす荒船。
「本部ではやめてって言ってるのに」
「ここなら誰も来ないだろ」
「もしかしたらがあるでしょ」
「充電させろよ」
「もう」
荒船はそう言うと、女主人公のことを抱きしめる。
「あー癒される」
「マイナスイオン出てる?」
「おう」
荒船は帽子を取ると、女主人公の首筋に顔をうずめる。
「ちょっと」
「少しだけだ」
「そういう問題じゃないの」
「ちょっと黙れ」
女主人公の首筋から顔を離すと、荒船は女主人公の顎を持ち上げて唇を合わせようとする。
「そういうことか」
「!!」
二人の距離が0になるまであと数センチ、のところで知った声が聞こえてきた。
「か、風間さん!」
女主人公は荒船を思い切り押し返す。
「おまえたち…ここをどこだと思ってるんだ…」
「す…すみません…」
風間に連れられて、荒船と女主人公は風間隊の作戦室にいた。
「まったく…」
風間と女主人公はソファーに座り、荒船は地面に正座をしている。
「おまえたちは…いや、おまえだ荒船。何を考えている」
「…はい…」
「ボーダーには小学生もいるんだ。それをわかった上で、ああいうことをしているということだな?」
「気を付けてましたよ、ちゃんと」
「俺が声をかけるまで、まったく気づいていなかっただろう」
「うっ…」
風間の言う通りなので、荒船は何も言えなくなった。
「風間さん…カメレオン使ってたんじゃあ」
「そんなわけあるか。苗字、おまえも嫌ならもっときちんと言え」
「すみません」
「おまえたちの交際についてどうこう言うつもりはないが、時と場所を考えろ」
「本当におっしゃる通りです…」
「やーい、怒られてやんのー」
「おい菊地原!」
風間に怒られている荒船に、ヤジを飛ばす菊地原。
「たしかにあそこはなかなか見つかりにくい場所だとは思うが、菊地原のサイドエフェクトがある。おまえたちの会話は、あの距離でも菊地原には筒抜けだ」
「マジかよ」
「マジだよ。もっと自重してよね、荒船さん」
菊地原は「サイドエフェクトのせいで、聞きたくもない会話を聞かされてるんだから!いい加減にしてよね」と続けた。
「だから言ったのに…」
「おまえを目の前にすると止まんなくなるんだよな」
「おい…」
荒船の、反省しているようでしていない姿に風間はキレた。
「丁度いい、荒船。おまえは1週間、苗字とボーダー内での接触を禁止する」
「な!?」
「少しは反省しろ」
「そ、それはないですよ風間さん!」
「学校で会え。おまえたちは同じクラスだろ」
風間の言葉に「まあ…そうか」と納得する荒船。
「って、そういう問題じゃないんですよ!ボーダーでも会いたいんです!」
「…おまえは毎日学校で会ってるだろう…」
「それじゃあ足りないです!」
「ねえ、荒船さんって苗字先輩が絡むとIQ一桁になるの?」
「そうみたい」
「女主人公!おまえはいいのか!?」
「…少しは反省してくださーい」
「!?」
女主人公自身も、何度注意しても所かまわず触ってくる荒船にあきれていたので風間の提案には賛成だった。
「苗字も賛成だな。よし、これから1週間、苗字は俺が引き取る。防衛任務以外は俺たち風間隊と行動を共にしろ」
「苗字、了解」
「了解すんな!」
「それじゃあ、荒船くん、また明日学校でね」
こうして、ボーダー内での女主人公との接触を禁じられた荒船だった。
「本当に良かったのか?」
風間隊の作戦室から荒船を追い出した後、風間は女主人公に聞いた。
「はい。荒船くんったら暇さえあれば私にべったりだったので、いい機会です」
そう言って女主人公は笑った。
「愛されてるって実感するので嬉しいんですけどね。やっぱり人前だと恥ずかしいので、これに懲りたらもう少し考えて行動してくれると思います」
「そうだな」
「本当、荒船さんって苗字さんのことが好きなんですね」
「幸せ者だよね、私」
それから1週間。
学校ではいつも通り話もできるし、接触も可能なのだがボーダーで会うことができなかった荒船は、接触禁止令の解除日に爆発した。
いつもなら、人前では手を繋いだり軽いボディタッチをするくらいに収まっていたのが、女主人公にべったりとくっついて離れない。
「…」
「…」
「…」
「…だー!!もううっとおしい!荒船、おめーなんなんだよ!」
ラウンジで影浦、村上、北添と一緒にいるが、荒船は女主人公の横に座り腰に腕を回している。
「なんだ?」
「それだよ!その手!おめーそんなにべったりくっついてて恥ずかしくねーのかよ!」
「1週間、接触禁止だったんだぞ。この辛さがおまえにわかるか?」
「おめーのせいで俺たちも防衛任務以外女主人公と一緒じゃなかったんだから、なんとなくわかるわ!」
「おまえは家隣だろ!」
「うるせー!」
「学校では普通に会ってたんだろう?」
「そうよ」
「荒船くんの愛が重いねー」
「悪化している…」
そんな荒船の姿を遠巻きに見ていた風間は、もう二度と接触禁止にするのはやめようと誓った。