Side18歳

今日も荒船くんと一緒にボーダーに向かう。

「今日雅人くんたち少し遅くなるって」
「なんだ?何かやらかしたのか?」
「わかんない。とりあえず、先に作戦室に行って待ってようかな」

多分、この前の抜き打ちテストの点が悪かったとかだろうな。
全学年で抜き打ちテストをしたらしく、雅人くんは青い顔してたし、ヒカリちゃんは泣いていた。

「絵馬は来てるのか?」
「多分?」
「とりあえず、作戦室行くか」
「そうね」

B級チームの作戦室があるフロアに着くと、私はトリガーを起動した。

「トリガーオン」

いつも通りトリガーを起動したはず。
なのに、なぜかいつもよりも目線が高い。

「ん…?荒船くん縮んだ?…えっ」
「…おまえが伸びたんだな」

私は自分の声に違和感を覚えて、喉元を触る。

「…のどぼとけ?」
「鏡は?」
「あるよ」

私は自分のカバンから手鏡を取り出すと、自分の姿を確認する。

「…どういうこと?」
「それがわかったら苦労しねえな」

そこに映っていたのは、いつもの私ではなくなぜか男体化した私だった。

「うーん…困ったわね」
「本当に困ってんのか?」
「これでも驚いているのよ」
「…男にしか見えねえけど、女にも見えるからその喋り方でも違和感ねえな」

荒船くんと話していると、作戦室の扉が開く。
あれは王子隊の作戦室だ。

「わあ、面白いことになっているね」
「王子くん」
「めんどくせえのが来たな」
「そんな言い方ひどいじゃないか。クイーンだよね?ずいぶん男前になったね」

王子くんは私の方を見ると、それはそれは面白そうな顔をした。

「何か変なこと企んでないよね?」
「ぼくがいつそんなことをしたんだい?」
「大体いつも企んでんだろ」
「人聞きが悪い。ぼくは面白いことが好きなだけだよ。ということで羽矢さんを呼ぼう」
「おい、王子」

そう言うと、王子くんは作戦室に戻った。

「悪い…ああなった王子は止められない」
「苦労してんなー会長」

またすぐに王子隊の作戦室の扉が開いて、顔を赤くして興奮した様子の橘高さんと樫尾くんが王子くんと一緒に廊下に出てきた。

「な!なな!!なんてこと!?」
「羽矢さん落ち着いてね」
「おおおお落ち着いてるわよ!」

橘高さんは私の両手を握ると「苗字さんなの!?ほんっとーに!苗字さん!?」と聞いた。

「そうですね。苗字です」
「なんと!!」

橘高さんって、こんなキャラだったんだな。
と思いながら王子くんを見ると、パチンッとウィンクされた。

「美しすぎる!創作意欲が湧いてくる!!」

と、橘高さんがブツブツ言っていて少しだけ怖い。

「大丈夫。羽矢さんは無害だよ。ただ、オタクっていうことを隠せないくらい男体化が性癖に刺さってるみたいだね」
「そういうこと言って大丈夫なのか?」
「羽矢さんは隠してるつもりだろうけど、ぼくたちはもう気づいているからね」

橘高さんには王子くんたちの言葉は聞こえていないようで、私を見ながらメモを取っている。

「そうだ。荒船くん」
「あ?」

王子くんが荒船くんに何か耳打ちしているけど、何を言っているんだろう。

「橘高さん…どうしたんでしょうか?」
「多分大丈夫だからカシオは気にするな」
「わかりました」

樫尾くんは、本当に素直ね。

「女主人公」
「ん?」

荒船くんに呼ばれて振り向くと、荒船くんに肩を組まれた。

「ひゃあーーー!!ありがとう!!二人ともありがとう!眼福!眼福!男前ヤンキー×美男子優等生って感じ!!」
「えー…っと…」
「羽矢さん、それは一部の女子にしか刺さらないからね」

そんな私たちを見て、橘高さんはとても嬉しそうだ。

「…これでいいのか?」
「うん。思った通り、面白いね」







私たちが廊下で騒いでいると、B級チームの作戦室フロアにあるエレベーターが開いた。

「あ?」
「ん?」
「何してんだぁ?」

声のする方を見ると雅人くん、ゾエくん、ヒカリちゃんがいた。

「あ、雅人くん」
「あぁ?」

雅人くんは眉間にしわを寄せながら私を見た。

「誰だ…って…女主人公か?」
「よくわかったわね」
「え!?女主人公ちゃん!?」
「女主人公か!すげーイケメンになってんじゃねーか!」

そう言って、ヒカリちゃんは私に駆け寄ってきた。

「おおー!いつもよりでけー!」
「何がどうなってんだよ」
「それが、多分トリガーのバグだと思うんだけど、換装しようとしたらこうなっちゃった」
「女主人公ちゃん男になっても綺麗だねー」
「それは喜んでいいのかしら?」

雅人くんは王子くんがいることに気づくと、イヤそうな顔をした。

「うわ…さっさと作戦室入んぞ」
「ひどいなーカゲくん。人の顔を見るなりそんなこと言うなんて」
「おめーと関わるとロクなことねえかんな!」

今の私は雅人くんよりも、少しだけ背が低い。
いつもよりも近い位置に雅人くんの顔があるから、すこし嬉しいな。

「あ?女主人公、おめー何笑ってんだよ」
「ん?なんか、雅人くんとの距離が近くて嬉しいなって思って」
「はあ!?」

「わああああ!苗字さん!今のもう一回!」
「うわ!なんだこいつ」

橘高さんが復活した。

「苗字さん!いつもの感じで影浦くんに接してほしいな!」
「いつもの感じ…?」
「やめろ!」

私は雅人くんの手を取ると「そんなこと言うなんて…ひどい…」と言った。

「〜っ!男になってんのになんでそんなにツラが良いんだよ!!」
「それは同感。クイーンは男になっても美しいね」
「というか、ここで騒いでていいのか?トリガーのバグなら開発部に行かないとじゃないのか?」
「これだけ人がいるのに、まともなことを言うのは会長だけかよ」
「たしかに…」
「ありがとう!ありがとう!!」
「羽矢さんアクセル全開で面白いね」



やっと我に返った橘高さんは、何事もなかったかのような顔をして「じゃあまた」と言って王子隊の作戦室に戻って行った。

「あれで隠せてると思ってるからすごいよね」
「王子くん、やめてあげて」
「というかおまえはどこか行く予定だったんじゃないのか?」
「そうだ。お腹が空いたから食堂に行こうと思ってたんだよね」
「ならさっさと行けよ」
「俺たちは開発部行くか」
「そうだね」
「じゃあゾエさんたちは作戦室で待ってるから、何かあったら呼んでね」
「了解」



そして、私と雅人くんと荒船くんの3人は開発部に向かった。
寺島さんが出てきて、これはやっぱりトリガーのバグだということが判明した。

「原因そのイチに聞いてみたんだけど、女の子を男の子にしたら身体能力とか上がるか試したかったんだって」
「どうなんだ?」
「うーん…特に変わった感じはしないけど」
「まあそうだよね。トリオン体だけいじったところで、生身の戦闘能力は上がらないからね」
「とりあえず、試してみるか?」
「試す?」
「ソロランク戦か!」
「雅人くんが戦いたいだけでしょ」
「いいだろ!男のおめーとやんのも面白れえ!」
「ソロランク戦するのはいいけど、換装は解かないでね。今解いたら何が起こるかわからないから」
「わかりました」

とりあえず、ただのバグだということがわかって良かった。

「んじゃブース行くぞ」
「本当に行くの?」
「面白そうだから俺も行く」
「まったく」

C級ブースに向かう途中、とにかく周りからの視線が痛かった。

「…ねえ、私どこか変?」
「あ?変じゃねーだろ」
「むしろイケメンだろ」
「…いつも以上に見られてるような気がする…」
「まあ見るだろうな。中性的な美人がいるんだから」
「そういうもの?」
「見られ慣れてんだろ!」
「なんだかいつも以上にむず痒い〜」

そんな話をしていると、前から鈴鳴第一のみんなが歩いてきていた。

「荒船!カゲ!…えっと…」
「おう鋼」
「…鋼くん」
「…女主人公か!?」

鋼くんがすごく驚いている。

「え!苗字さんですか!?」
「ずいぶん男前になったんだね…どうしたの?」
「トリガーのバグです…」
「驚いた。影浦隊に新しい人が入ったのかと思ったぞ」
「んなわけあるか」
「面白いっすね!」
「こら太一」
「直るのか?」
「今、寺島さんが頑張ってくれてるから今日中には直ると思うよ」
「そうか」

そう言うと、鋼くんはほっとした顔をする。

「それで、今からどこに行こうとしてたんだ?」
「ソロランク戦すんだよ」
「そうか。オレも行こうと思ってたから、一緒に行こう」
「うん」

そこで来馬さんと別役くんと別れて、私たちは4人でブースに向かった。



ブースのロビーで、出水くん、米屋くん、緑川くんに声をかけられて、その奥に香取さんと熊谷さんがいるのが見えた。

「二人もトリガー起動しちゃったんだね」
「ふん!」
「はい…見事に」
「でも二人ともかっこいいね」
「苗字さんだって人のこと言えないでしょ!」
「香取ちゃんツンデレかよ」

2人から話を聞くと、B級の女子にバグが起きているみたい。
雅人くんとソロランク戦をやる予定だったけど、出水くんたちもやりたいと名乗り出たのでじゃんけんで決めた。
結局、雅人くんはじゃんけんに負けちゃって、香取さん、熊谷さん、緑川くん、出水くんの4人とソロランク戦をすることになった。
ソロランク戦が終わった後に、「せっかくだから、記念に写真でも撮りましょうよ!」と出水くんが言うので、ここにいるメンバーで写真を撮ることになった。

「男の女主人公さん、まじでレア!綺麗!」
「ありがとう」
「出水!アタシにも送って!」
「あたしも欲しい!」
「わかってるよー。女主人公さんにも送りますね」
「うん」

そして、夜になると寺島さんからバグが直ったと連絡があった。

「開発部の人たちも忙しいのに、すぐに対応してくれて良かったね」
「本当に」

換装を解いた後に、念のためもう一度換装してみると、いつものトリオン体になった。
これで一安心だ。





次の日、ラウンジにいると水上くんに声をかけられた。

「なあ、苗字ちゃん昨日めっちゃおもろいことになってたんやろ?」
「ああ。トリガーバグ?」
「なんで教えてくれんかったん?俺も見たかったわー苗字ちゃんの男になった姿」
「写真でならあるけど見る?」
「見してや」

私は昨日出水くんからもらった写真を水上くんに見せる。

「…男になってもこんな綺麗ってなんなん?」

褒め言葉として受け取っておこう。



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